トークン利用、高まる認知度と広がる期待「デジタル証券フォーラム2022」で語られたこと【イベントレポート】

ブロックチェーン技術を利用したデジタル証券(セキュリティトークン:ST)と、それを通じた資金調達のSTO(セキュリティトークン・オファリング)が国内外で高い注目を集めている。取引の容易さやコスト削減、高い安全性、小口化などさまざまなメリットが指摘されており、個人投資家への浸透も今後進んでいきそうだ。

そのSTについて、国内のキープレイヤーが現状と展望を語り合うイベント「デジタル証券フォーラム」が2022年12月21日に都内で開催された。三菱UFJ信託銀行の齊藤達哉氏が「実績データで振り返る、デジタル証券市場の構造とインパクト」と題して講演。さらに、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、野村ホールディングス、東海東京証券、三井物産DAMから、キーパーソンがパネルディスカッションに登壇し、これまでの実績を振り返り、未来予想図を語った。

主催は日本経済新聞社。coindesk JAPANを運営するN.Avenueが共催した。開催は昨年に続き、2回目となる。

イベントは、金融庁総合政策局の柳瀬護参事官の挨拶でスタート。柳瀬参事官は「金融業界は、さまざまな産業の中で、情報通信技術をいち早く活用してきた」と指摘。トークンについては、新たなサービスの創出や資産の価値交換の容易化、投資家との新しい関係性の構築などの点で「ポテンシャルが高いと考えている」と期待を述べた。

金融庁総合政策局 柳瀬護参事官

さらにセキュリティトークン(ST)の法的位置づけを整理した金融商品取引法の改正(2020年5月1日施行)など、金融庁としての取組みを紹介したうえで、「デジタル証券をさらに発展させていくためには、これがもたらすさまざまな可能性を踏まえ、業界プレイヤーの皆さまが創意工夫を発揮し、ユースケースを拡大していただきたい」「金融庁は、皆さまの積極的な取り組み・チャレンジを力強くサポートする」とエールを送った。

セキュリティトークンのメリットとは?

続いて講演に登壇した齊藤氏は、三菱UFJ信託銀行デジタル企画部デジタルアセット事業室のプロダクトマネージャーとして、デジタル資産基盤「Progmat」のローンチに携わった人物。今後、Progmatを広く業界のインフラとして活用してもらうため、国内の多様なキープレイヤーから出資を受ける形で株式会社化し、齊藤氏が代表に就任予定だという。

三菱UFJ信託銀行デジタル企画部デジタルアセット事業室 齊藤氏

齊藤氏は、従来、アセットの商品化には「上場コスト」がかかり、大規模なアセットでなければ商品化が困難だったと説明。しかし、ブロックチェーン技術をうまく使えば、上場不要で、幅広い個人向けの商品開発が可能になると指摘。「規模を問わず小口化・流動性向上が容易」「ブロックチェーン上で同時交換できるので個人間取引(P2P)が可能になる」ため、そこに「新市場が生まれる」と続けた。

国内でのST活用は現在、不動産と紐付けられたケースが多く、2021年8月以降に続々と案件が登場。2022年12月時点では不動産STファンドの運用残高は430億円を超えているという。不動産STが好調な理由については「J-REITとクラウドファンディングの良い面を併せ持つ、ハイブリッドな商品性が評価されている」と説明。不動産STの潜在的な市場規模は、10年後に「約2.6兆円規模になる」と見込んでいるという。

STは今後、不動産以外のリアルアセットにも活用がますます広がる方向にあり、例えば航空機などの「動産ST」はすでに案件が走っていると付け加えた。

齊藤氏は将来的には、STを中心とした「リアルアセットのトークン化」市場は、グローバルかつパブリックなWeb3エコシステムと融合していくと予想。そのために日本でもパーミッションレス型のステーブルコインを実現したいとして、「仮にCBDC(中央銀行デジタル通貨)が実現したとしてもレイヤーは棲み分けされる。民間と中銀とが手を携えてブロックチェーン化の流れを推進したい」と意気込みを語った。

トラストレスな世界でも、必要な「トラスト」とは

左から CoinDesk Japan 神本・三菱UFJ信託銀行 齊藤氏・みずほ信託銀行 緒方氏・Trust Base 田中氏

続いて行われたパネルディスカッション「信託銀行3社が語る、デジタル証券市場の共創と未来」には講演に続き齊藤氏と、みずほ信託銀行信託フロンティア開発部調査役の緒方千恵氏、三井住友信託銀行デジタル企画部主任調査役で、同グループのDX戦略子会社であるTrust Base取締役CEOの田中聡氏が登壇した。

3社はいずれも、デジタル証券基盤「Progmat」への出資・参画を表明している。緒方氏はその狙いについて「統一的な規格であるところ魅力を感じている。競争すべきところでは競争すべきだが、そうでない部分はなるべく低コスト化していくことが今後必要。その思想に同意した」と述べた。

齊藤氏は、同じようなプラットフォームが乱立してしまうとユーザーの利便性が損なわれるとして「細切れの市場ができあがってしまうとマッチング機会も損なわれる。一つの大きな器で市場を捉えていくことが必要だ」と指摘した。また、ガラパゴスではなく、グローバルかつパーミッションレスなステーブルコインを作ることも視野に入れるとして、「世界で通用する力を新会社として獲得していきたい」と抱負を語った。

田中氏は、現状の一般ユーザーがパーミッションレスかつグローバルな商品を取り扱うのはハードルが高いとして「ウォレットはメタマスクを利用してくださいというのでは、国民の皆さんが安心して扱える商品にはならないだろう」と述べた。STが今後、市場規模を拡大していくためには、「トラストを持っている人たちが、トラストレスが実現できる世界を作っていかないと、なかなかマーケットは発展していかない」「その領域をしっかり担えるのが、我々信託銀行業界ではないか」と力を込めていた。

今後、どんなアセットがトークン化されていく?

続いて話題は、今後どんなアセットがトークン化されていくかという点に移った。

齊藤氏は「不動産に加え、航空機、船舶のような1つで100億、50億といった動産は、今後粛々とトークン化されていくだろう」と予想。そのうえで「個人的に面白いと思っているのは、小さい規模のもの」と語り、これまで信託銀行の取り扱い対象資産ではなかった10万円、20万円レベルのアセットでも、NFTやユーティリティトークンとしてトークン化され、取引されるようになる可能性があると述べた。

例えばウイスキーについては、醸造所がウイスキーを熟成させている間、「将来飲める権利」をトークン化して、資金調達するという仕組みがすでにあるという。

緒方氏もこの話を受けて、「事業を信託していただき、受益権をトークン化することも可能。太陽光の設備と合わせて、価値も還元できるような商品や、地方を応援するトークンも作れるかもしれない」と可能性を語っていた。

田中氏は20年以上前の電車のつり革など、バランスシート上の価値はほとんどないが、「実はマニアにとっては価値があるもの」も、可能性があると感じているという。「資金調達手段が多様になり、投資家も選択肢が増えて、楽しみながら資産運用ができる。そういう世界がSTで実現できれば、日本のトークンマーケットはより盛り上がっていくだろう」と期待を語った。

「セキュリティ・トークン(ST)は、認知度が高まってきた」

左から CoinDesk Japan 神本・野村ホールディングス 沼田氏・東海東京銀行 武井氏・三井物産デジタル・アセットマネジメント 上野氏

続いてのパネルディスカッション第二部「事例から考える、デジタル証券の現在地と展望」には、野村ホールディングス執行役員の沼田薫氏、東海東京銀行執行役員の武井孝夫氏、三井物産デジタル・アセットマネジメントの上野貴司氏が登壇し、さまざまなSTを世に送り出してきた、その実態と今後の展望を語った。

野村グループは、子会社BOOSTRYが証券トークンの発行と流通に特化した、コンソーシアム型ブロックチェーンプラットフォーム「ibet for Fin」を提唱するなど、STに積極的に取り組んでいる。沼田氏によると、2022年には不動産STO3件と債券STO4件の計7件を取り扱い、国内証券会社の中でトップ数となった。商品を継続的に投入した結果、「STは、まだニッチながらも、それなりに認知度が高まってきた」と沼田氏。発行したいという企業側の声もあがっており、顧客の中には「STOです、で理解していただける」ケースも出てきているという。

2019年、シンガポールの取引所ADDXに出資したことを出発点に、ST関連の取り組みを続けてきた東海東京銀行グループの武井氏は、2021年11月に2年をかけて1号案件(トーセイ・プロパティ・ファンド)をリリース、2022年1月からは「STOセンター」も立ち上がり、2022年12月〜2023年3月にかけて私募ST案件、不動産STをローンチすると述べた。

三井物産グループでは2021年秋以降、さまざまな不動産と紐付いた4つのデジタル証券を販売した。上野氏は現在、デジタル証券を活用した新しい資産運用サービス「ALTERNA(オルタナ)」の立ち上げに取り組んでいるという。これは個人投資家がスマートフォンを使って、最低10万円程度から利回り目的の投資ができるサービスで、現在関係当局の承認待ちの状態だという。上野氏は、「リーマンショックの時代から、なんとか個人投資家からもっと円滑にファイナンスができないかという思いがあった。ようやくここに来て、法改正や技術のバックアップで、それが結実してきたのが現在の形だ」と語った。

「不動産STO」のリアルな姿とは

さらに、2022年8月に発行された、都内の共同住宅を裏付けとする公募型不動産STO案件2つについて、野村・沼田氏が説明。銀座と代官山にある物件の鑑定評価額は合わせて40億円程度で、ST発行額は18.33億円。募集条件は「1口100万円、2口以上、利回り2.9%」だったという。三井物産DAMがアセットマネージャー、三井住友信託銀行が受託者、野村證券が取り扱い、ブロックチェーン基盤「ibet for Fin」上で運用という立て付けだ。

「物件自体が非常にいいモノで、全国のお客さんの話を聞いていると、立地による購入が多かった」「昨今、インフレ対策にもなるという点がご評価いただいている」という。大規模ポートフォリオで組まれるREITと違い、わかりやすい建物1棟という手触り感に好評価が集まった一方で、逆に周辺土地勘がない顧客層の関心は薄く、「純粋な有価証券とは違う」反応だったという。

上野氏によると過去に発行された不動産STの中では利回りが低い方になるが、「それでも、しっかりとした投資家需要が確認できたのは、大きな一歩だった」と話していた。

東海東京証券の武井氏からは、横浜市にある住宅・オフィス・商業・複合施設の案件について説明があった。こちらは運用会社がトーセイ・アセット・アドバイザーズで募集総額が8.7億円(1口1000万円)だった。

営業員からは、販売体制について「販売資格(ST外務員)の取得を含めて経験のない商品を販売するのは大変だった」「顧客に評価された」「(既存システムと仕様が違い)異例の事務があった」などという声が寄せられたという。一方で投資家からは、「STの概念が分かりづらい」「不動産以外のアセットにも期待している」という声があったという。

群馬・草津の温泉旅館STOも好評

野村からは、「温泉旅館」の事例紹介もあった。こちらは群馬県・草津にある2つの旅館「湯宿季の庭」と「お宿木の葉」を裏付けとしている商品。物件の鑑定評価額は約44億円。2022年3月に1口50万円、10口以上で募集したところ、約21億円の申し込みがあり、大成功を収めたという。

こちらもアセットマネージャーは三井物産DAM。上野氏は「特殊なタイプの不動産なので、我々としても本当に需要が生まれるのかドキドキ感も覚えつつ」だったと述べた。蓋を開けてみると4000口以上の反響があり、「キーワードは多様性。STが目指す、個人投資家向けの市場に大きな可能性を感じた案件だった」と振り返っていた。

ほかに沼田氏からは、2022年6月に日本取引所グループが発行した「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」や、丸井グループの自己募集型デジタル債(2022年6月、10月発行)の説明もあった。

登壇した3氏がいずれも口を揃えていたのが、「投資家保護の重要性」と「STの将来的な可能性」だ。

上野氏は「投資対象の広がりや、日本の個人金融資産が2000兆円を超えたことを考えると、事業機会はまだ無限にあると思っている。投資からの所得を増やしていこうという国の方針とも合致している。(限られたパイを)取り合うというようなフェーズでもない。我々もいろいろな機能をもちつつ、協業の余地も増やしていきたいと思っている。是非協力して新しい市場を盛り上げていけたらと思っている」と、これからST業界に参入を考えている他のプレイヤーたちに呼びかけていた。

|テキスト・編集:coindesk JAPAN
|画像:日本経済新聞社 Nブランドスタジオ