「本物のポルシェを買ってもいいんだよね?」とNFTオーナーシッププラットフォーム、トークンプルーフ(Tokenproof)のアルフォンソ・オルベラ(Alfonso Olvera)CEOは1月24日にツイートした。
オルベラ氏の冗談めかしたツイートは、ドイツの有名スポーツカーメーカー、ポルシェ(Porsche)の初のNFTコレクションに対するNFTコミュニティの一部の反応を反映している。
ポルシェのプロジェクトはスタート早々から販売に苦戦、ツイッターにはプロジェクトを批判したり、ネタにする投稿が見られた。そしてその後、結局ミントが停止されたことは、いかにしてWeb3戦略を構築すればよいかに、企業への教訓となったはずだ。
ポルシェは1月23日、NFTコレクションのミント(発行)を開始。有名なポルシェ911のNFTの価格は、0.911イーサリアム(ETH)、約1490ドル(約19万円)となっていた。ポルシェは、NFTのデザインや希少性をカスタマイズできる機能など、将来的な機能も紹介していた。
しかし、プロジェクトの滑り出しはいまひとつだった。24日午後時点で、用意された7500のNFTのうち、ミントされたのはわずかに1600ほど。オープンシー(OpenSea)などの流通市場(二次市場)では、ミント価格よりも安く転売されていた。
人気のなさに気づいたポルシェはミントの停止を発表した。
コミュニティのためのプロジェクト構築
23日のミント開始直後から、NFTクリエーターやコレクターは、プロジェクトに対する不満をツイートしていた。
After seeing Porsche’s underwhelming web3 release, following other underwhelming releases from similarly huge brands – it begs the question, who is advising them? I’d like to officially put myself out there as a consultant to throw ideas around with. Brands: stop rushing.
— BETTY (@betty_nft) 2023年1月23日
ポルシェの残念なWeb3リリースや、似たような有名ブランドの残念なリリースを見ると、誰が大手ブランドにアドバイスしているのか?との疑問が浮かぶ。アイデアを出すコンサルタントに正式に立候補したい。ブランドの皆さん、慌てないで
2021年から2022年はじめにかけての盛り上がりの時期、多くのブランドは、NFTプロジェクト、暗号資産決済、メタバースへの取り組みなどを通して、Web3への参入に熱意を示していた。そうした取り組みが、ビジネス戦略の変化と、デジタルネイティブな消費者を獲得する中心的な取り組みになると考えるブランドもあれば、一時的であろう流行から利益を上げるチャンスと見るブランドもあった。
熱心なコレクター、アーティスト、開発者、ゲーマーなどの多くにとって、NFTやWeb3テクノロジーは、一時的なブームではない。多くの人はWeb3を権力と所有権がクリエーターの手に戻ってくる、インターネットの当然の進歩の形と考えている。
「Web3は、ブランドが搾取の対象とする消費者の集団ではない。消費者に対して新しい価値を提供し、ブランドを中心にコミュニティを構築するチャンス」と人気NFTコレクションのDeadfellazを共同で手がけるBettyは語る。
ここ数年、大手企業はブロックチェーン戦略を採用しているが、その成功度合いはさまざまだ。NFTであれ、バーチャルウェアラブルであれ、ユーティリティトークンであれ、長期的な視点でのプロジェクト構築、Web3を理解したスタッフの起用、コミュニティ育成に力を入れた企業が望ましい結果をあげている。
half these nft projects have advisors who do absolutely nothing and the other half reeeeeally need them
— andrew (@andr3w) 2023年1月24日
「このようなNFTプロジェクトの半分は、何にもしないアドバイザーを雇っている。残りの半分は、本当にアドバイザーを必要としている」
ブランドごとの多様な取り組み
ナイキは2022年11月、スニーカーやスポーツウェアなどのデジタルウェアラブル作成、購入のためのコミュニティベースのプラットフォーム「.SWOOSH」を立ち上げた。大量のスニーカーファンをWeb3にオンボーディング(参加)させるための教育プラットフォームでもある。今年は初のNFTコレクションのリリースが予定されている。
ナイキはプロジェクトを成功させるために、数年をかけて、リレーション構築、NFTやメタバース、ブロックチェーンテクノロジーのリサーチを行ってきた。2020年には、ブロックチェーンを使ってデータを記録するために、スニーカーでRFIDタグをテスト。その1年後には、メタバースでのバーチャルスニーカー普及を狙って、デジタルウェアラブル企業RTFKTを買収した。
既存のNFTコミュニティを活用し、NFT保有者をターゲットをプロダクトをリリースするブランドもある。ティファニーは2022年8月、人気NFT「クリプトパンク(CryptoPunk)」の保有者をターゲットに、ダイアモンドネックレスのNFTコレクションを作成した。
またスターバックスは、大人気のロイヤルティプログラムをブロックチェーンで展開することを選んだ。2022年12月に、リワードプログラム「オデッセイ(Odyssey)」のベータ版をリリースし、ユーザーのWeb3へのオンボーディングをサポートする機能を整えた。例えばユーザーは、暗号資産を購入したり、ウォレットを用意することなく、アプリ内でNFTを購入できる。
巨大グローバルブランドが、新興テクノロジーを既存の枠組みに有意義な形で取り込むことは簡単なことではない。しかし、参入を成功させたブランドは、参入を容易にするための戦略をシェアしている。
利益第一ではなく
タイム誌の元社長で、NFTコレクション「TIMEPieces」を立ち上げ、同社のWeb3参入を実現したキース・グロスマン(Keith Grossman)氏は、現在は電子決済プラットフォーム「ムーンペイ(Moonpay)」の社長を務めており、ブランドはWeb3を消費者とのエンゲージメントを深める方法と捉えるべきだと考えている。
「単一のソリューションは存在しない」とグロスマン氏は語り、「ときにはコミュニティであり、メンバーシップを通じたものであり、報酬の提供を通じたものでもある」と続けた。
「しかし、収益はこの進化の主要な牽引役ではない。考え抜かれた戦略と実行の結果であるべきだ」とグロスマン氏は指摘した。
Web3マーケティングエージェンシー、セロトニン(Serotonin)の創業者兼CEOのアマンダ・カサット(Amanda Cassatt)氏は、多くのブランドは単に利益を狙っているが、最高のプロダクトマーケットフィットを見つけるには、もっと深く掘り下げる必要があると考えている。
「今はブランドがコミュニティに何かを買ってくれるよう呼びかける前に、ブランドは価値を付加するべきと期待されている。そこからスタートすれば、長期的な信頼構築に向けた正しい関係を始めることができる」(カサット氏)
さらに多くのブランドが今年、NFTや暗号資産の分野に参入すると思われるが、ターゲット層を理解し、すでにカルチャーとエンゲージメントが十分に存在する分野に価値を付加することが大切と業界をよく知る人たちは強調している。
「この分野への参入には、間違いなくプラスとなるような、価値や長期的可能性が数多く存在する」と、ジェネラティブ(生成)アートプラットフォーム、アート・ブロックス(Art Blocks)の創業者エリック・カルデロン(Erick Calderon)氏はツイートした。
編集部追記:なお、ポルシェのNFTは米CoinDeskが本記事を公開した後、大手NFTマーケットプレイス「オープンシー(OpenSea)」でフロア価格が上昇した。
ツイッターでの批判などを受けて、ポルシェがミント(発行)を停止。当初、7500の予定だった発行数が2400弱にとどまり、希少性が高まったことが、フロア価格を押し上げた結果となっている。Web3戦略の難しさとともに、可能性を示す事例となった。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:古いポルシェ911のインテリア(Porsche)
|原文:Porsche’s NFT Debut Is a Reminder to Let Web3 Natives Take the Wheel