FTXに投資したVCの責任は?【コラム】

米証券取引委員会(SEC)は、サム・バンクマン-フリード氏をはじめとする3人の元FTX幹部を告訴したが、これでSECの捜査が終わるわけではない。ロイターは先日、FTXに多額の投資を行った複数の金融関連企業に対して、SECが投資の前に行ったデューデリジェンスのプロセスに関する情報提供を求めたと報じた。

ベンチャーキャピタル(VC)投資そのものが不正行為を示すわけではないが、FTXに投資されたVC資産の多さは、複数の疑問を提起する。

具体的に言うとSECは、FTXに投資することを決断した際にVC企業はどのような方針や手続きを持っていたのか、それらに十分従っていたのかについての詳細に焦点をあてている。

危険信号を無視してFTXブームに乗る

合計で20億ドル(約2600億円)を超える投資を行い、結果的に資金が回収不能となった投資家には、NEA、IVP、サード・ポイント・ベンチャーズ(Third Point Ventures)、タイガー・グローバル(Tiger Global)、インサイト・パートナーズ(Insight Partners)、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)、ソフトバンク、ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ(Lightspeed Venture Partners)、テマセク・ホールディングス(Temasek Holdings)、ブラックロック(BlackRock)など、よく知られた投資大手が数多く含まれている。

さらに、カナダ最大の年金基金で、運用資産残高が2500億ドル(約32兆5000億円)にのぼるオンタリオ州教職員年金基金も含まれている。基金はFTXへの全投資額9500万ドル(約123億円)を損金処理することになる。

メタバースの会計事務所を利用し、取締役会もなく、本拠地は怪しげで、最初から高いレバレッジで取引していた組織に、他の多くの「危険信号が灯っていた組織」と比べても、かなり多額の資金が流れ込んでいた。なぜだろうか?

FTXに投資したVCファンドはそれぞれ、適切なデューデリジェンスを実施したと語っている。例えばテマセク・ホールディングスは、デューデリジェンスに8カ月を費やし、怪しげな点は1つもなかったと主張した。

大人気の投資先

私はVCが、FTXという時流に乗ったことに対して、あとからあれこれ言う立場にないが、SECなどによって、深刻な疑問が提起されていることは否定しようがない。

ファンドは被信託者の義務の一環としてFTXに資金を注ぎ込んだ時に、自社に投資した人に代わって責任を持った行動をしていたと言えるだろうか? FTX投資家の誰一人として、何かおかしいと気づかなかったのはなぜだろうか? すべての原因はVCの集団思考にあるのだろうか?

デューデリジェンスに関するこれらの疑問への回答が待たれるが、問題は監視にもある。これらの投資家は、FTXで資金がどのように使われていたのかを監視していたのだろうか?

FTXのみならず、テラフォーム・ラボ(Terraform Labs)やセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、ブロックファイ(BlockFi)、ジェネシス(Genesis)などに関して言えば、安全装置や監視は失敗に終わった。

私たちは規制当局が、投資家を詐欺や資産の不適切な運用から守ってくれると期待する一方、投資家はファンドマネージャーが、被信託者の義務の一環として、投資に対して適切なデューデリジェンスを行い、リスクと報酬の意思決定を行うことを期待している。

このような監視と信頼、説明責任の繊細なバランスが上手くいかなかった。なぜならFTXは、大人気の投資先だったからだ。

VC集団思考

ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティのお金が、用心を投げ捨て、すべてを信じ込んで大人気の対象へと流れ込んでいったのは、今回が初めてではない。ドットコムバブルを覚えているだろうか?

シワだらけの短パンを履き、ベッドを整えることはなく、バハマのペントハウスに住んでいたクールな若者に魅了されて、投資家はそんなことは忘れてしまったらしい。

サム・バンクマン-フリード氏の詐欺行為のリストは長くなるばかりだが、私に言わせれば、彼の最も大きな不正行為は、グローバルVC市場から大量の資金を強奪したことだ。彼はVCに熱狂する理由を与え、VCの多くは、何の疑問も持たずにそれに従ってしまった。

VC投資の未来は?

政治に特化したメディアのポリティコ(Politico)によると、VC集団思考の失敗を繰り返さないために、SECはプライベートファンドが単純な過失に対して免責を受けられないようにし、投資家がファンドをより簡単に訴えることができるようなルールの策定に取り組んでいる。

これは説明責任をより厳格にし、結果として、ファンドマネージャーがデューデリジェンスと監視を一段としっかり行うことにつながることが期待される。しかし、この問題は、直接の投資家だけにとどまらない影響を持っており、しばしば機関投資家や年金基金などにも影響を与える。

つまり問題は、それほど単純ではない。

私はVCファンドやファンドマネージャーは、投資家に対して大きな責任を負い、十分なデューデリジェンスとポリシーに基づいて投資判断を行うためにベストを尽くすべきと強く信じているが、FTX関連のVCへの捜査は、規制の観点からは大した結果をもたらさないとも予測している。

一部のVCファンドマネージャーは、盲目的に先行したセコイア・キャピタル(Sequia Capital)に従って、FTXに投資しただけかもしれないが、単独の出来事と比較的少数のVCファンドの行為を理由に、規制変更を正当化することはきわめて難しいだろう。

投資家が具体的なデューデリジェンスの手続きや企業ガバナンスに関連する要件を約束されることはほとんどない。投資家はVC投資が高リスクであることを理解している。ファンドのパフォーマンスに満足できない場合、以後の資金調達の際に投資をしないことでその意思を示すことができる。

さらに投資家はすでに、無謀な行いや意図的な行為を含む重大な過失に対して訴訟を起こすことができる。しかし、責任を単純な過失にまで拡大することは、実質的に取引が上手くいかないたびに投資家が訴訟を起こすことを可能にする。

そうなればVCビジネスには、手に負えないほどの多大なリスクとコストが追加され、それは投資家に転嫁される。さらに大半の投資家は、そのような権利を使うことはないだろう。過剰に訴訟好きとの評判になれば、将来の取引に参加できなくなるからだ。

リスクは冒すが、無謀ではなく

VCは自分たちの行動にしっかりと責任を持つ必要がある。VCのエコシステムに参加することには本質的にリスクが伴う。

VCは初期段階の企業に投資を行うが、そのような投資は十分なリサーチと情報に基づいたものにするべきだ。さらに、スタートアップに投資すると決断した場合、投資が賢く、正しい理由のために使われていることを約束できる成熟した人材がVCには必要だ。

VCファンドが、ユニコーン(10億ドル以上の価値のある株式非公開のスタートアップ)への成長や、ある程度のプラスのリターンを保証できるシナリオはないし、それで構わない。そのような勝算に満足できない人は、VC市場にいるべきではない。

株式市場と同じように、常に勝者と敗者がいる。訴訟が次々と起こるような土壌を整える代わりに、詐欺師には責任を取らせ、責任あるVCファンドがイノベーションに投資を続けられるようにしよう。

タル・エリヤシブ(Tal Elyashiv)氏:SPiCE VCの共同創業者兼マネージングパートナー。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why Venture Capitalists Won’t Be Held Accountable for Investing in FTX