エルメス、NFTアーティストに勝訴──陪審は表現の自由の下での保護を認めず

高級ブランドのエルメス vs NFTアーティストのメイソン・ロスチャイルド(Mason Rothschild)氏の裁判は2月8日、数日間の審議を経て、9人の陪審員が評決に達した。

エルメスの訴えは、ロスチャイルド氏のNFTコレクション「MetaBirkins」についてのもので、陪審員は、同NFTはエルメスに13万3000ドル(約1700万円)の損害を与えたとの評決に達した。つまり、ロスチャイルド氏はエルメスの有名なバッグ「バーキン」のデザインをもとにNFTを作成し、エルメスの信用を利用して利益を得たと判断した。

また、陪審員はロスチャイルド氏の弁護士の主張とは違い、NFTはアメリカ合衆国憲法修正第1条、つまりは表現の自由の下で保護されないと判断した。

問題はどこにあるか?

この訴訟はNFTクリエイターにとって重要な判例となり、NFTに関連する知的財産(IP)権についての法整備の枠組みとなる。今後、NFTクリエイターは、訴訟を回避するために、既存ブランドの知的財産を使ったNFTの作成により注意を払うようになるだろう。

法律事務所Leichtman Lawのマネージングパートナー、デビッド・ライヒトマン(David Leichtman)氏は、今回の訴訟は必ずしもロスチャイルド氏がバーキンを使ったことが問題なのではないとCoinDesk TVに語った。問題はむしろ、同氏が消費者にMetaBirkin NFTがエルメスを代表する商品と関連していると誤解させる意図があったかどうかだ。

「問題は、消費者が本当にMetaBirkinによって混乱するのか、エルメスの顧客が被告の作品によって混乱するのかだ」(ライヒトマン氏)

エルメスは2022年1月、ロスチャイルド氏がバーキンをベースにしたNFTコレクション「MetaBirkins」を発表した後、同氏を提訴。ロスチャイルド氏が「エルメスの有名な知的財産における信用を盗用し、同氏自身の製品ラインを作り、販売している」と主張し、顧客に混乱を生じさせる可能性があるとした。

アーティストの懸念戦い続ける

ロスチャイルド氏は、プロジェクトは単に、ファッション業界に対する広範な解釈を提供するアートであり、芸術表現は合衆国憲法修正第1条で保護されていると主張した。

商標権侵害の疑いで1年間争った後、エルメス対メタバーキンの訴訟は、1月30日に裁判が始まった。エルメスとロスチャイルドはそれぞれ、商標法とNFTの専門家を招き、顧客の混乱とブランドの権利侵害に焦点をあてた主張を行った。

6日の最終弁論でエルメスの弁護士、オーレン・ワルシャフスキー(Oren Warshavsky)氏は、ロスチャイルドのMetaBirkin NFTは消費者に2つのブランドが関連していると誤解させただけでなく、NFTコレクションにバーキンの名前を使用したことでエルメスのブランドを侵害したと改めて主張した。

評決の後、ロスチャイルド氏は、この事件がクリエイティビティと知的財産に関してもたらす影響について、「今すぐ、通りから9人を連れ出し、アートとは何かを答えてもらおう。予期せぬことだが、9人が言うことが議論の余地のない真実になる」とツイートした。

さらに「今日起きたことは間違っている。私たちが戦い続けなければ、今日起こったことは起こり続ける。まだ終わっていない」と続けている。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:CoinDesk TV
|原文:Hermès Wins Trademark Lawsuit Against MetaBirkins NFTs, Setting Powerful Precedent for NFT Creators