「暗号資産の冬」が過ぎ去り、暖かい春の日、いや、暑い真夏が到来したかのような熱気に満ちていた。2月20日、トークン発行型クラウドファンディングサービスを展開するフィナンシェが事業戦略発表会を開催。暗号資産(仮想通貨)取引サービス大手コインチェックでのIEO(Initial Exchange Offering)を発表した。
フィナンシェの暗号資産「フィナンシェトークン(FNCT)」は、コインチェックにて販売され、その後、同社の取引所で上場する。IEOによる資金調達目標額は10.6億円。2月21日に購入申し込み開始後、わずか1時間で資金調達目標額を突破した。IEOによる販売は抽選形式のため3月7日に申し込みを実施。その後抽選が行われ、翌8日〜9日にトークン受け渡しおよび抽選結果通知。3月16日12時から、コインチェックでの取り扱い開始となる予定だ。
IEO:未公開企業が株式を証券取引所に上場させて資金を調達するIPO(新規株式公開)に対して、企業やプロジェクトが独自の暗号資産(仮想通貨)を取引所に上場させて資金を調達すること。取引所が上場審査を行うことで、ICO(新規コイン公開)に比べて、企業やプロジェクトの信頼性が確保される。
調達した資金をもとに、コアビジネスである「FiNANCiE」事業、さらにNFT企画・支援事業、IEO支援事業を拡大していくという。またこれら事業の展開をサポートし、認知を拡大するために新たに公式ディスコードと公式ツイッターを開設した。
ディスコード:https://discord.gg/fnct-official
ツイッター:https://twitter.com/Fnct_Official
ツイッター(英語):https://twitter.com/Fnct_Officialen
本田圭佑氏・長友佑都氏がビデオメッセージ
事業戦略発表会では、まずフィナンシェ代表取締役CEOの國光宏尚氏が「10億人の挑戦を応援するクリエイターエコノミーの実現」をビジョンに掲げる同社の成長の歩みを紹介。
「2019年3月にサービスをローンチ、当時はWeb3やDAOという言葉もなく、そこから約4年が経過して、Web3が国家戦略として掲げられるようになったことは感慨深い」と振り返りつつ、21日にIEOを開始し、コインチェックでフィナンシェトークンの購入申し込み開始。さらに今年第3四半期か第4四半期には、アメリカ進出を考えており「今年のテーマは一言、世界へ」とIEOとその先の展開にかける意気込みを語った。
國光CEOの話の途中には、アドバイザーの本田圭佑氏、長友佑都氏がビデオメッセージで登場。ワールドカップでそれぞれ大きな話題を呼んだ2人のメッセージに会場は一気に熱を帯びた。
本田氏は「FiNANCiEがより多くの人の自己実現を支えるプラットフォームになることを楽しみにしています!」とメッセージを寄せ、「初期から応援している人にアドバンテージがあること、誰でもプラットフォームを通じて支援を受けられること」の2つをFiNANCiEのポイントとしてあげた。本田氏は自身がオーナーを務めるウガンダのチームでもFiNANCiEを活用している。
長友氏は、例の言葉は発しなかったものの「これからは、もっと個人がいろんな人の力やサポートを借りて大きくなれる」とメッセージを寄せ、「フィナンシェファミリーの一員としてうれしく思う。IEOはゴールではなくスタート。これからも皆で協力して盛り上げていきましょう」と語った。
3つの事業を展開
フィナンシェはIEOで調達した資金をもとに、3つの事業を展開していく。
まず1つ目は、同社のコア事業でもあるトークン発行型クラウドファンディングプラットフォーム「FiNANCiE(フィナンシェ)」。
例えば、スポーツのクラブチームは、FiNANCiE内で利用できるコミュニティトークン(CT)を発行し、ファンやサポーターに販売することで資金を調達できる。
一方、CTを保有するファンは、クラブが提供する特典の入手、保有者限定イベントへの参加などが可能となり、CTを核としたコミュニティが誕生する。現在、80以上のスポーツ団体・アスリートを中心に、200以上の団体や個人が利用している。
特に、2021年4月にサッカーJリーグの湘南ベルマーレがFiNANCiEを利用してクラブトークンを発行して以降、利用は拡大。最近では、エンタメや地方創生など、分野も広がりつつある。
スポーツ界・エンタメ界のキープレイヤーが登場
事業戦略説明会では、FiNANCiEを実際に利用しているプロジェクトの代表者によるトークセッションも開催された。
スポーツ界からはJリーグのアビスパ福岡 代表取締役の川森敬史氏、元F1レーサーで、ジャパンサイクルリーグ チェアマンの片山右京氏、プロ卓球チームの琉球アスティーダを運営する琉球アスティーダ スポーツクラブ代表取締役の早川周作氏が登壇。フィナンシェ取締役COO・CMOの田中隆一氏が司会を務めた。
アビスパ福岡は、スペシャルマッチのタイトル名や記念Tシャツのデザインを投票で決めたり、サッカーファンとして知られる福岡出身の小柳ルミ子さん参加の「トークンホルダー限定イベント」を開催。川森氏は「思いを持った人たちにホルダーになってもらい、ともに意思決定を行って、イノベーションを起こしたい」と述べ、日本初のスポーツDAO「Avispa Fukuoka Sports Innovation DAO」をスタートさせると語った。
片山氏は「自転車のロードレースはスタジアムを使わない競技で、街をスタジアムにする競技」であり、「自転車を通じた地方活性化促進」を掲げる同団体にとって、FiNANCiEは資金調達という課題とファンに対する「特別な体験」の提供を実現できる絶好の手段であると語った。レース中の選手を地元のバス会社の2階建てバスと並走しながら観戦するような地域連携も実現できるソフト面を開発していきたいと述べた。
日本の卓球界のエースである張本智和選手が所属する琉球アスティーダは、張本選手は入団に際して、プロ卓球としては世界で初めてクラブトークンを付与。「従来、ファンクラブやスポンサー契約は短期的で、消費型でしたが、それを長期的で、資産性のあるものに変えられないかと考えてきた」とFiNANCiE活用のきっかけを語った。社外取締役の福原愛氏とのトークイベントでは「涙を流して喜ぶホルダーもいた」とのことだ。
3人の登壇者のコメントからは、Web3という大きな潮流の中で、スポーツの応援の新しい形を探り、さらに地方創生、地域活性化にも取り組む姿勢、そしてそのソリューションとしてのFiNANCiEの可能性を垣間見ることができた。
「共犯者」との映画づくり
そして、FiNANCiEの活用はスポーツ分野だけにとどまらない。
エンタメ分野では日本を代表する3人の映画監督、堤幸彦氏、本広克行氏、佐藤祐市氏と映画プロデューサーの森谷雄氏が集結したプロジェクト「SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)」が、トークン発行による資金調達をもとに、原作作りから映像制作、コミカライズ、グッズ制作などに取り組んでいる。
事業戦略説明会には、SUPER SAPIENSSから堤氏、本広氏、森谷氏が登壇。フィナンシェ執行役員でエンタメ事業責任者の山田智也氏とともに、エンタメ業界におけるFiNANCiEの活用事例、今後の展開などについて語った。
SUPER SAPIENSSではプロジェクトのトークンホルダーであり、サポーターを「共犯者」と呼んでいる。この名称もホルダーが考えた案の中から投票で決定した。さらに実際の作品のキャストもホルダーからオーディションで選び、ホルダーはスタッフとしても参加している。
堤氏は「仲間を集めて挑戦的な作品づくりに取り組んでいる」と語り、これまでにFiNANCiEを通じて集めた約1億円の資金は「これからのための資金であり、もっともっと努力が必要」と意欲を見せた。
本広氏は「日本映画は今、実写映画が低調でアニメ映画が強い。ファンの違い、ファンを作ってきたかどうかの違い」が表れていると述べ、「新しく仕組みを変えないと、文化のかたちが似てきている。何かを変えないといけないと思った」と作品づくりの危機感がプロジェクトの発端にあったことを明かした。実際、脚本の打ち合わせを「共犯者」に公開し、プロの脚本家とファンが協力して脚本を作り上げている取り組みなども進めている。
映画プロデューサーの森谷氏は、今の映画製作はリスクをヘッジする方式にもなっており閉塞感を生む一因になっていると指摘。「共創型・コミュニティ型の映画づくりを進め、Web3をエンタメと結びつけていきたい」と述べた。
さらにスポーツ界、エンタメ界に加えて、FiNANCiEでは地方創生を大きなテーマとして見据えており、「Web3 × スポーツ・エンタメ・地方創生」を推進していくとしている。
NFT企画・支援事業、IEO支援事業
フィナンシェが展開していく3つの事業の2つ目は、CTコミュニティの活性化、IP・コンテンツ・チーム作りをベースとしたNFT企画・支援事業。
すでに前述の「SUPER SAPIENSS」において、上映会などのイベントを開催するほか、4200個のNFTを完売させるなどの成果をあげている。
3つ目は、IEO支援事業。今回、コインチェックとIEOプロセスを進めるなかで蓄積したノウハウを活用し、国内でWeb3事業を推進するパートナー企業、あるいはFiNANCiEを利用しているスポーツクラブやエンタメプロジェクトに対して、IEO支援事業を開始していく。
つまり、コミュニティトークン(CT)→NFT→IEOを有機的に展開していくことで、スポーツ・エンタメ・地方創生の3つの分野を中心に、トークンエコノミーを形成・拡大していくことがフィナンシェの目標だ。
フィナンシェトークンとは
コインチェックでの「フィナンシェトークン(FNCT)」のIEOは、そうした3つの取り組みを推進していくうえでの原動力となるものだ。具体的には、さまざまなクラブチーム、エンタメプロジェクトなどFiNANCiEを利用して発行したコミュニティトークン(CT)、さらにはNFTを横串でつなぐ役割を担う。
國光CEOによると、フィナンシェトークンは「フィナンシェ上の個別クリエイターコミュニティをつなぐ、フィナンシェエコシステム全体のプラットフォームトークン」となるという。例えば、CTを長期保有したユーザーにフィナンシェトークンが支払われる「コミュニティトークンホールディング」などの活用例が想定されている。
IEO実施後は、フィナンシェトークンのユーティリティをベースにエコシステムの活性化に取り組んでいく。
具体的には、ステーキング量に応じた投票権による「ステーキング&ガバナンス」、特定のコミュニティに寄付できる「コミュニティドネーション」、保有量に応じたグレード特典を受け取れる「グレード特典」、初期販売のCTを割引で購入できる「CT購入(消費)」、前出の「コミュニティホールディング」、定期的に市場からフィナンシェトークンを買い上げ、バーンする「BuyBack & Burn」だ。
技術面では、フィナンシェトークンは、イーサリアムブロックチェーンの互換規格であるERC-20を採用している。つまり、FiNANCiE内に閉じることなく、グローバルに広がる暗号資産エコシステム内に流通可能だ。
みんながハッピーになる仕組み
事業戦略説明会には、スペシャルゲストとしてタレントのゆうちゃみさんが登場。國光CEO、およびエンタメ事業のトークセッションに登壇した堤氏、本広氏、森谷氏とトークを行った。
ゆうちゃみさんは、DAOやトークンなどについて「言葉が難しい」としながらも、DAOの説明を國光CEOから聞くと、「今どきっぽい」「みんながハッピーになることは素敵」とFiNANCiEの本質を捉えた発言で会場を沸かせた。
SUPER SAPIENSSの取り組みについては「私も参加したい」と発言、「清楚系もいけます!」と監督2人とプロデューサーにアピールした。
厳しい規制が存在することで、逆説的だが「日本は『暗号資産の冬』とは無関係」という見方がある。また、日本のエンタメコンテンツや地方の観光資源などがグローバルに注目を集める可能性があり、NFTをはじめ、Web3での展開が期待されている。フィナンシェがその重要なプラットフォームとなり、プレイヤーとなることは間違いない。
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|テキスト・編集:coindesk JAPAN広告制作チーム
|フォトグラファー:多田圭佑