2022年6月、改正資金決済法が成立し、日本での「ステーブルコイン」の発行・流通に向けての法的な枠組みが整備された。改正資金決済法の施行は公布から1年以内となっており、この春〜初夏にかけての施行が期待されている。
施行を数カ月後に控えた2月9日、本メディア「coindesk JAPAN」を手がけるN.Avenue株式会社のコミュニティ事業「btokyo members」では、メンバー限定クローズドイベントとして「議論白熱『ステーブルコイン』と日本はどう向き合う? 第一人者たちが語る2023年の展望」を開催した(coindesk JAPANはメディアパートナー)。
イベントには、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会ステーブルコイン部会で部会長を務める株式会社ARIGATOBANKCEOの白石陽介氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健氏、ステーブルコインの発行・管理基盤「Progmat Coin」の開発に取り組む三菱UFJ信託銀行の齊藤達哉氏の3氏が登壇。クローズドイベントという環境と高い関心を持った参加者の熱意に押され、濃密でディープな話が展開された。
クローズドイベントであり、内容を詳細に紹介することはできないが、当日のイベントの雰囲気と熱量を紹介することで、日本でのステーブルコインの展開とその可能性を紹介したい。
改正資金決済法が定義する「ステーブルコイン」
その前に、まず大前提として注意しておきたいことは、改正資金決済法が対象とするステーブルコインの定義だ。
一般的に海外では、ステーブルコインは暗号資産の一種であり、「何らかの方法で、価値(価格)を安定させた暗号資産」をいう。暗号資産エコシステムにおいて、価格が大きく変動することもあるビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などとは異なる役割が期待されている。
一方、改正資金決済法は「法定通貨の価値と連動した価格で発行され、発行価格と同額で償還が約束されたもの」をステーブルコインと定め、ステーブルコインは暗号資産ではなく、電子決済の手段として利用するデジタルマネーとして規制している。
例えば、2022年春、ステーブルコイン「テラUSD(UST)」の崩壊が暗号資産市場の広範な下落を引き起こしたが、USTは「アルゴリズム型ステーブルコイン」と呼ばれるもので、法定通貨に裏付けられていなかった。こうしたアルゴリズム型ステーブルコインは、改正資金決済法の規制対象とはなっていない。
なぜ、この3人なのか?
イベントは登壇者3人の簡単なプロフィールと、それぞれのステーブルコインとの関わりを紹介することからスタート。まず、全体像を俯瞰する意味で、白石氏が2020年から現時点までの日本におけるステーブルコインに関する議論の経緯を解説した。
暗号資産の業界団体がいくつか存在する中で、日本暗号資産ビジネス協会がステーブルコインの議論をとりまとめる形になったことに関しては、業界団体はすでに存在する事業についての自主規制などに取り組むことが主な目的で、まだ存在していない、新しいものに時間をかけて取り組もうとする人はそれほど多くなかったと述べ、結果的に「ここにいる3人が最後まで残った」と振り返った。
次に河合氏が「ステーブルコイン法制の要点」と題して、改正資金決済法の要点を解説。「要点だけを簡単に…」と言いつつ、規制の全体像、改正資金決済法における電子決済手段の定義、発行者に対する規制、仲介者に対する規制などについて、重要なポイントを説明していった。
「要点」を「簡単に」とはいえ、規制の問題であり、ステーブルコインの発行・流通にはさまざまなパターンが考えられることから、説明は必然的にディテールにまで踏み込んだ、かなり専門的な内容となった。
会場の参加者の理解が追いつくのか、不安に感じる場面もあったが、会場は河合氏の言葉を一言も漏らすまいとしているようだった。
三菱UFJ信託銀行の齊藤氏は「河合先生がほとんど説明してくれたので…」と述べつつ、河合氏の詳細な説明を違った切り口からフォロー。
またステーブルコインの発行インフラを目指す「Progmat Coin」の考え方・仕組みについて説明し、改正資金決済法を踏まえた、ステーブルコインの日本での具体的な導入方法に触れた。
ステーブルコインの可能性
3人それぞれの自己紹介を兼ねたトークは、イベントの導入のはずだったが、すでに議論はディープな部分に及び、スケジュールも押し気味で進んでいった。議論はステーブルコインのまつわるさまざまな部分に及び、会場からの質問も3人のトーク内容に勝るとも劣らないディープで、専門的なものが多かった。
河合は法改正で「定められたことは多いが、触れられていない部分もある」と指摘。日々、グローバル規模で進化する領域での規制の難しさを感じさせた。
日本国内でのステーブルコインの発行・流通については、日本国内の事業者が法定通貨である「円」に裏付けられたステーブルコインを発行する形態が考えられるが、もう1つ、すでにグローバルで流通しているドル連動型ステーブルコインを日本にも導入することも考えられる。具体的には、テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)などだ。
その場合、海外の発行者には日本の規制が及ばないため、ハードルが高くなってしまい、課題も多くなるが、齊藤氏は信託銀行が海外の発行者と協業するスキームを紹介。信託銀行がもともと備える機能を活用することで、課題を解決できると述べた。
白石氏が部会長を務める日本暗号資産ビジネス協会ステーブルコイン部会はちょうど昨年1月、ステーブルコインに関する提言を公表し、日本における規制の厳しさに触れ、イノベーションを阻害してしまうことへの懸念を表明している。
それから1年あまり、日本でのステーブルコインの状況は一定の前進を見せたと言えるだろう。春から初夏に想定されている改正資金決済法の施行を受けて、どのような動きが見られるのか。Web3の進展にも大きく関わってくるステーブルコインは今後の動きは要注目だ。
なお、btokyo membersでは、今後もこうしたイベントを開催していく予定だ。
|テキスト・編集:coindesk JAPAN
|写真:N.Avenue