金融業界メディア「American Banker」は1月、暗号資産業界にフレンドリーな2つの銀行、シルバーゲート(Silvergate)とシグネチャー(Signature)が連邦住宅貸付銀行(FHLB)から多額の借り入れをしていると報じた。FHLBは住宅ローンなどを手がける銀行を支援する政府支援機関。
暗号資産業界の一部の関係者にとって、これは心の痛むニュースだった。サトシ・ナカモトが2008年にビットコインのコードベースをリリースした時、技術革新のみならず、政治的な意思表示でもあったことを覚えているからだ。
暗号資産が「暗号資産」と呼ばれる前から、ビットコインは所定のルールに従うと理解されていた。政府による救済はない(つまり、政府に依存しない)というルールだ。
もちろん、暗号資産エコノミーに資金をもたらすうえで重要な役割を果たすシルバーゲートが連邦住宅貸付銀行の融資を受けたことを全員が不快に思ったわけではない。結局のところ、銀行は銀行だ。
暗い先行き
しかしシルバーゲートが自業自得かもしれないが、破綻しそうなことを喜ぶ人はほとんどいないだろう。シルバーゲートは3月2日、米証券取引委員会(SEC)への年次報告書の提出を遅らせると発表。直前に、連邦住宅貸付銀行からの融資の返済のために資産を売却していた。
同行は2022年第4四半期(10−12月期)に10億ドル(約1360億円、1ドル=136円)の損失を出したが、この数字は大きく修正される可能性がある。融資の返済もまだ残っており、すぐに「十分な資本を持っているとは言えない」状況になるかもしれないとシルバーゲートは記している。
企業が破綻する時期を予想することはきわめて難しく、プロの投資家に任せておく方が良いだろう。シルバーゲート自体の見通しは暗いが、状況が変わる可能性もある。
しかし、暗号資産取引大手コインベース(Coinbase)をはじめとする各社がシルバーゲートから離れ、ライバルのシグネチャーをパートナーにしていることは悪い前触れだ。
暗号資産分野への積極的な投資で知られるアーク(Ark)のキャシー・ウッド(Cathie Wood)氏は、同社のディスラプションに特化したファンドが保有していたシルバーゲート株の99%を売却。ビリオネアトレーダー、ジョージ・ソロス氏のヘッジファンドによる百万ドル強のポジションを含め、シルバーゲートの株式の大半は空売りされている。
規制強化と同タイミング
シルバーゲートの問題は暗号資産に対する規制当局の取り締まり強化と同じタイミングで発生した。とりわけ今、暗号資産経済の問題が伝統的経済に波及するリスクを最小限に抑えることが規制当局の主眼となっている。
米CoinDeskのコラムニストでベンチャーキャピタリストのニック・カーター(Nic Carter)氏は今の状況を、合法だが倫理的に怪しげな業界を冷遇するよう銀行に圧力をかけていたオバマ政権の政策になぞらえている。
実際、1月のある1日だけでホワイトハウスの関係者4人が、銀行に暗号資産への関与を避けることを勧める書簡を発表。米国家経済会議も同様のガイダンスを発表した。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、暗号資産カストディ事業を予定しているカストディア銀行(Custodia Bank)の米連邦準備制度への加盟申請を却下。それとは別にステーブルコインの準備資産など、暗号資産関連の預金を扱う銀行のリスクを詳細に説明した文書を発表した。
私は、規制の強化を経ても暗号資産業界は存続すると考えているし、規制の明確さが高まることで、暗号資産企業と銀行の関係の質も量も高まると信じている。暗号資産業界は無くなることはないだろうし、私が知っている銀行関係者は今でもチャンスがあると考えている。
そして、こうした見解はシルバーゲートとは関係ない。特にその成立や背景とはまったく無関係だ。シルバーゲートの破綻は業界にとって最終的に良いことなのだろうか。
FTXとの関係
シルバーゲートが初めて暗号資産関連企業と取引したのは2014年、暗号資産企業が銀行口座を開くことが不可能だった頃だ。FTXの創業者サム・バンクマン-フリード氏はこの状況を「暗号資産企業の歴史は、シルバーゲート前/シルバーゲート後にわけることができる」と表現していた。
シルバーゲートのWebサイトから削除されてしまったバンクマン-フリード氏の発言は、同社衰退の理由についてのヒントを与えてくれるかもしれない。
米司法省は、FTXとアラメダ・リサーチによる不正行為にシルバーゲートが関与していたかどうかの捜査を開始した。捜査は現在進行中だが、暗号資産メディアProtosが指摘するとおり、FTXは顧客に対して、シルバーゲートにあるアラメダの口座に送金をするよう指示していた。
この件について、エリザベス・ウォーレン上院議員らは12月にシルバーゲートに送った公開書簡で「顧客が行う不審な金融アクティビティを監視、通報する銀行の責任を果たさなかった重大な失敗」と指摘した。
確かにそうかもかもしれない。だが、何が正しいかは誰が決めるのだろうか。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:シルバーゲートのアラン・レーンCEO(Silvergate)
|原文:Before Silvergate and After Silvergate
※編集部より:タイトルを変更して更新しました。