ムード一転するも高値圏を維持するビットコイン──トレンドラインを守れるか?【bitbank月次レポート】

2月のビットコイン(BTC)対ドル相場は高値揉み合いで終始し、1月の快進撃から失速した。

米国のインフレ減速期待で勢い付いた1月のBTC相場だったが、1月31日〜2月1日に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過すると、一時は2.4万ドルに乗せるも失速。FOMCでは市場の予想通り、50ベーシスポイント(bp)から25bpへの利上げ幅縮小が決定され、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長からは「ディスインフレーションのプロセスが始まったと初めて言える」とポジティブな発言があったが、材料出尽くし感が広がった。加えて、3日に発表された米雇用統計で月間雇用者数の増加が市場予想を大きく上回る結果が出たことで、リスクオフムードが広がり、BTC相場は上値を重くした。

9日には、クラーケンが米証券取引法違反の疑いのあったステーキングサービスを、米証券取引委員会(SEC)と和解し罰金を支払った上で停止し、アルトコインを中心に売りが加速し、BTCも連れ安で2.2万ドルを割った。その後も、SECがバイナンスUSD(BUSD)を巡って発行体のパクソスに証券法違反の疑いを告げる通知を送っていたことが明らかとなったり、NY州金融サービス局(NYDFS)がパクソスにBUSDの発行禁止命令を発したりと、規制加速が業界の逆風となったが、SECの管轄外であるBTCへの逃避の動きや、ビットコインの最小単位である1satsにNFTを記録するプロトコルOrdinalsの影響で、BTC相場は反発した。

一方、昨年8月高値(約2.52万ドル)が相場のレジスタンスとなり、2月後半のBTC相場はまたも失速。さらに、米国の消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)の減速ペースが1月に鈍化したことで、数名の米地区連銀総裁らから3月FOMCでの利上げ幅拡大余地に関する発言があり、リスク選好度が萎縮した。

こうした懸念を加速させるように、S&Pグローバルの2月の米PMI改善や、1月の個人消費支出(PCE)価格指数の上昇が重なり、BTCは一時8月高値を更新するも反落し、2.4万ドルを割った。3月に入ると、米銀行持株会社のシルバーゲート・キャピタル(SI)が1日、SECへの2022年度報告書(Form 10-k)の提出延期申請を提出し、その中で同社と傘下のシルバーゲート銀行の自己資本比率が悪化する可能性に触れたことで、2日には同行と取引のあった名だたる仮想通貨関連事業者が提携関係の解消を次々と発表。すると、3日東京時間にBTC相場は急落し、2.3万ドルを割ったが、足元では2.2万ドル台中盤でなんとか下げ止まっている。

ビットコイン対ドル日足チャート(Glassnodeより作成/bitbank)

SECによる仮想通貨業界への規制強化や、依然として尾を弾くFTXショックのコンテイジョンリスク(FTX破綻により、同取引所と関係のあったシルバーゲートには顧客からの引き出し依頼が殺到し、2022年第四・四半期に約10億ドルの損失を計上しており、以前から懸念が燻っていた)、さらには米国のインフレ減速ペース鈍化によるFRBの利上げ幅拡大の可能性と、直近1ヶ月で市場のムードは一転した。

ただ、FRBの利上げ加速観測が台頭し、米主要3株価指数が軟化する中、BTC相場はなんとか高値圏を維持しており、足元では1月18日安値と2月13日安値を基点とする上昇トレンドラインで下げ止まっている。

ビットコイン対ドル日足チャート(Glassnodeより作成/bitbank)

2月中旬のアルトコインからBTCへの逃避も相場の底堅さとして挙げられるが、8月高値という重要なチャートの節目を試したことも相場の底堅さに寄与したと言えよう。同水準は、昨年6月のセルシウスショック以降の安値レンジ上限にあたり、ブレイクアウトに成功すればおよそ9カ月間続く安値圏からの脱出と、相場の上昇トレンド突入がかかる、テクニカル的に重要なチャートポイントと言える。それだけに、同水準の上抜けが目前となり、期待感から相場が支えられた側面もあっただろう。

ビットコイン対ドル日足チャート(Glassnodeより作成/bitbank)

1月FOMCの議事要旨で、利上げペース加速を支持した会合参加者が極少数派だったことが明らかとなっていることや、1月のインフレ指標上振れが依然として一時的である可能性、さらには昨年の積極的な利上げの遅効的な効果を見定めると考慮すれば、3月もFRBは慎重な利上げペースを維持する公算が高いと見ているが、市場がいかに利上げ幅拡大リスクを織り込んで行くかはこの先の指標次第と言える。

そこで気になるのが、米供給管理協会(ISM)が発表した2月の製造業動向調査レポートだ。購買担当者景気指数(PMI)が1月から改善しただけではなく、同レポートでは支払価格指数が低下傾向と上昇傾向の境界となる50を4カ月ぶりに上回ったことも明らかとなった。一方で、同サービス業動向レポートでは、従前から懸念されていた支払価格指数が1月からわずかに低下した。ただ、双方とも50を超えていることに鑑みるに、2月分のインフレ指標も引き続き物価上昇圧力の粘り強さを示す可能性が懸念され、市場にとっては芳しくない結果となりそうだ。

7日から8日かけて行われるパウエルFRB議長の上下両院での議会証言で、利上げペースを25bpに維持する可能性について触れられれば、市場にとっては安心感に繋がると指摘されるが、21日から開催されるFOMCまでに雇用統計、CPI、PPIとハードルは数多く残っている。

テクニカルの面では、BTCは足元の相場のサポートとなっている上昇トレンドライン(第2図)で反発できるか否かがこの先の方向感にとって重要と見ており、足元の相場は中期的な分岐点にあると言えよう。


長谷川友哉:ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と仮想通貨市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケットアナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。

|編集・構成:増田隆幸
|トップ画像:bitbank