今回の危機とビットコインを上昇させた2013年のキプロス危機の類似性

シリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank:SVB)の崩壊はビットコイン(BTC)に恩恵をもたらすと暗号資産関係者は述べ、部分準備銀行制度の欠陥を浮き彫りにし、中央集権型銀行システムに対するヘッジとしてのビットコインに注目を集めた2013年のキプロス危機との類似性を指摘した。

「アメリカで18番目に大きなシリコンバレー銀行が破綻した。昨年の記録的な米国債の急落が銀行セクターに数十億ドル相当の含み損をもたらしたことを知り、部分準備銀行制度には預金者は存在せず、貸し手だけが存在することの新たな事例をまた得ることになった」とリサーチャーのニック・バティア(Nik Bhatia)氏と市場アナリストのジョー・コンソルティ(Joe Consorti)氏はニュースレーター「The Bitcoin Layer」の最新版に記した。

「FRB(米連邦準備制度理事会)のアグレッシブな金利引き上げとバランスシートの縮小は、歴史的な銀行破綻を引き起こし、ビットコイン・セルフカストディのリアルタイム広告を流行らせている」と両氏は述べている。

取り付け騒ぎと部分準備銀行制度

シリコンバレー銀行の危機は、保有する米国債などに損失を抱えた同行がバランスシートを強化するための株式売却を発表したことで先週はじめに表面化した。インフレ抑制のためのFRBのアグレッシブな利上げ政策によって、米国債の価格はこの1年で急落している。

発表後、預金者が資金引き出しに動いたため、いわゆる「取り付け騒ぎ」となり、8日には引き出し額は預金残高1730億ドルの約25%にあたる約420億ドルに達した。

銀行の取り付け騒ぎは、部分準備銀行制度では、銀行に預金の一部のみを引き出し可能な状態にしておくことを求めていることから発生する。それ以外の預金は経済活動を促進するために融資などに使われる。

このシステムは、引き出し需要が問題となる水準を超えることはないと仮定している。しかし今回のシリコンバレー銀行のように、銀行に対する顧客の信頼が低下すると、その前提は崩れ、引き出しが急増し、銀行は流動性不足に陥る。

理論的には、シリコンバレー銀行の破綻はビットコインにきわめて強気となる。
ビットコインは文字どおり、部分準備銀行制度の問題を修正する。
しかしビットコインは現在、2%しか上昇していない。
理由は、本当の問題が流動性にあるため。
流動性はシリコンバレー銀行(の破綻)以前からすでに悪化していた。
今はなくなっている。

繰り返される教訓

取り付け騒ぎが起きると通常、規制当局が介入して預金を管理下に置く。2013年のキプロス危機の際には実際、規制当局が顧客の口座を管理下に置き、ユーロ圏による金融支援の条件となったキプロスの全預金に対する課税を行った。

シリコンバレー銀行の場合、米規制当局が預金を管理し、3月10日に銀行業務を停止させた。週末、バイデン政権は同行の預金者は13日からすべての預金にアクセスできるようになると発表した。あわせて暗号資産フレンドリーなシグネチャー銀行も規制当局によって事業停止とされたことも発表され、銀行セクターに急速に広がるパニックのサインと、信用不安の拡大を抑えようとする当局の決意を示すことになった。

シリコンバレー銀行の破綻に対する措置は、キプロス危機の際の措置ほど厳しいものではない。だがこれらの出来事は、規制された銀行に預けられた顧客の資金は、我々が信じているほど安全ではないことを強調している。そしてこれは、分散型のピア・ツー・ピアネットワークで、資金のセルフカストディによって、差し押さえを避けることができる暗号資産であるビットコインのメリットを立証した。

「Not your keys, not your coins(あなたの鍵でなければ、あなたのコインではない)は、歴史の中で何度も繰り返されており、明らかに、何度も繰り返し学ぶべき教訓だ」と、投資家で人気アナリストのマイク・フェイ(Mike Fay)氏は、シリコンバレー銀行およびシルバーゲート・キャピタルの破綻、そして2013年のキプロス危機から投資家が得た教訓について述べた。

「安全で規制された銀行という認識とともに西側世界に安住し、その世界の外にある資産を購入せざるを得ないと感じる人がいる理由を理解しないでいることはきわめて簡単。しかし歴史は、銀行が悪い賭けや悪い決断をする可能性があることを示している」

キプロス危機で急騰したビットコイン

2013年3月、キプロスで銀行危機が広がると、ビットコインは急激に上昇した。ビットコインはこの月、178%上昇して93ドルとなり、2013年5月には265ドルの史上最高値を記録した。当時、キプロスでの銀行の事業停止を受けて、ユーロとルーブルの保有者がビットコインに分散投資を行ったと報じられた。

「10年前の今週、キプロスでATMを空にし、金庫を枯渇させる取り付け騒ぎが起きた。この出来事は、1カ月で45ドルから260ドルまで上昇したビットコイン史上最大の上昇率をもたらした」と暗号資産取引大手カンバーランド(Cumberland)は13日早くにツイートした。

偶然にもビットコインはCoinDeskのデータによると、10日から15%以上上昇し、1万9500ドル付近の2カ月ぶりの安値から2万2500ドルに上昇した。

「トレーダーは、暗号資産価格に確信が持てないとき、ステーブルコインや銀行預金に逃避する。ステーブルコインや銀行預金に確信が持てないときは? 暗号資産が輝くときであり、ビットコインとイーサリアムは銀行セクターの不確実性が広がるなか、週末にそれぞれ14%と15%上昇した」とカンバーランドは指摘。

「歴史は常に繰り返すわけではないが、しばしば韻を踏む」と続けた。

|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:キプロス危機を招いた政府に対してストライキが行われた(Shutterstock)
|原文:Silicon Valley Bank Crisis a ‘Cyprus Moment’ for Bitcoin: Crypto Observers