しばしば物議を醸すステーブルコインのテザー(USDT)は、アメリカでの一連の銀行トラブルを受けて、安定した避難所を求めるトレーダーにとっての最善策に浮上した。
シリコンバレー銀行(Silicon Valley Bank:SVB)の破綻により、業界の主要プレーヤーが同行にエクスポージャーを持っていたことが明らかになり、USDコイン(USDC)は3月11日に90セントを下回った。
この中には、アメリカを拠点とするステーブルコイン発行会社のサークル(Circle)も含まれており、同社の最新の証言によると、1月17日の時点でUSDCの現金準備の一部をSVBで保有していた。
分散型ステーブルコインも打撃を受け、トークンのバスケットに支えられているフラックス(FRAX)とダイ(DAI)は、ドルペッグから数セントだが下落した。
何が有利に働いたのか
しかし、テザーはその後も堅調に推移し、数日後にはプレミアム価格で取引されるようになった。一部の市場関係者からトークンの資産の裏付けが不透明であることや、親会社であるテザー・グローバル(Tether Global)に対する懸念が以前から指摘されていたにもかかわらず、このような結果になった。
さらに、過去数週間に少なくとも50億ドル(約6640億円)の資金がテザーに流入し、3月22日の時点で時価総額が770億ドル(約10兆2280億円)以上になったというデータもある。
その一因は、テザーがアメリカの銀行システムに対するエクスポージャーが低いことにあると、一部では言われている。
「テザーはアジア地域で人気があるため、SVBへのエクスポージャーがなく、USDTはアメリカの銀行で保有されているドルに依存しないため、現在最も安全なステーブルコインの1つになっている」とFlowdeskの取引責任者のフランソワ・クルーゾー(François Cluzeau)氏は米CoinDeskに述べている。
「USDCとDAIがUSDTと取引されているのを多く見かけており、それがUSDTの流動性を保っている」(クルーゾー氏)
P2P.orgの最高製品責任者であるミティヤ・アルグノフ(Mitya Argunov)氏は「USDCのシステムリスクはDAIのステーブルコインにも影響を及ぼし、ステーブルコインを支えるためにさまざまな資産を保有するというテザーのテーゼをさらに強化した」と述べている。
アルグノフ氏はさらに、「テザーの危機におけるパフォーマンスは、SVBへの直接的なエクスポージャーがなかったことが主な原因だ。つまり、SVBに預金がなかっただけかもしれない。DAIなどの他の主要なステーブルコインも、実際には大部分がUSDCによって担保されているため、間接的に影響を受け、デペッグされた」と述べている。
「しかし、安全な避難所としてテザーに逃避したのは、テザーのポートフォリオリスク管理戦略への信頼と見るべきだろう」とアルグノフ氏は付け加えた。
まだまだ注意が必要
一方、一部の開発者は長期的に慎重な姿勢を続けている。
「テザーの歴史を見ると、過去にFUDや償還の問題を経験し、現在の市場の混乱の中で安定している」と、Tranchessの共同創業者であるダニー・チョン(Danny Chong)氏は米CoinDeskに述べている。
「最近の課題の中で安定性を維持するテザーの能力は、長期的な成功の可能性を示唆している」とチョン氏は述べ、さらなるストレステストによって「長期的に回復力があるかどうか」が示されるだろうと付け加えている。
また、USDCは翌週に迅速にペッグを回復したことから、銀行パートナーとの協力によるヘッジ戦略の有効性と回復力を実証したと、チョン氏は述べている。
ステーブルコインへの需要は衰えることはない。
「サークルが回復計画を発表した後、USDCが迅速にペッグを回復したことは、市場がステーブルコインビジネスの可能性をいかに評価しているかをさらに裏付けるものだ」とチョン氏は指摘する。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:井上俊彦
|画像:ShutterStock
|原文:Tether Stability Made It the Safest Stablecoin Bet Amid U.S. Banking Crisis, Analysts Say