バイナンス提訴、暗号資産にどれほどの悪影響を与えるか?【コラム】

暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンスとチャンポン・ジャオ(Changpeng Zhao)CEOは27日、米商品先物取引委員会(CFTC)による民事訴訟の決断に不意を突かれたようだ。

長年にわたって永続的な本社の設立を回避してきたバイナンスは、サービス提供を行う100を超える国や地域で規制を遵守して事業を展開するために、アメリカをはじめとする国や地域の規制当局と対話を行なってきた。

バイナンスの最高戦略責任者パトリック・ヒルマン(Patrick Hillman)氏は先月、ウォール・ストリート・ジャーナルに対して、バイナンスは急速な成長の結果、コンプライアンス戦略に生じた「空白」を埋めることに成功したと語ったばかり。バイナンスは事業を続けることができるよう、規制当局と対話を重ねていた。

想定外の提訴

今回のCFTCの提訴は、ある意味驚きだった。司法省、証券取引委員会(SEC)、さらに内国歳入庁(IRS)も、さまざまな問題に関して訴訟を準備していると噂されていた。米当局がロシアの暗号資産取引所Bitzlatoに制裁を課した際には、バイナンスが大口カウンターパーティーだったと指摘された。

バイナンスを米規制当局の中で1番に提訴したのがCFTCだったことは驚きだ。イーサリアム(ETH)などの暗号資産は、コモディティか、証券かという混乱をさらに複雑にすることになった。

74ページにわたる訴状でCFTCは、バイナンスは適切なライセンスを申請せずにアメリカの顧客にサービスを提供していたのみならず、顧客が顧客確認(KYC)などのコンプライアンスのルールを回避することを積極的にサポートしていたと批判。

バイナンスの幹部は、自社のジオフェンシングツール(位置情報をもとにアクセスを制御するツール)が不十分だったことを認識しており、「クジラ(大口保有者)」をアメリカのIPアドレスを隠蔽し、同取引所にアクセスさせるための半ば公式の(だが機密の)の手順まで準備していたとされている。

暗号資産への影響

今回の提訴はバイナンスにとっては明らかにマイナスであり、しかも暗号資産業界全体が不安定な時期に行われた。専門家はこの提訴が、バイナンスにとって壊滅的なダメージを与えるかもしれない、あるいは、収益の大部分に痛手となるかもしれないと考えている。

例えば、ブルームバーグのコラムニスト、マット・レヴィン(Matt Levine)氏は、今回の提訴は消費者の安全を主眼としたものではなく、バイナンスがアメリカのヘッジファンドから利益を上げることを防ぐことが目的と指摘している。

ジャオCEOは2017年に設立したバイナンスを運営することや、暗号資産を取引することを禁止されるかもしれない。

世界でも最もリッチな人たちのうちの1人と思われるジャオ氏が、暗号資産の売却を始めれば、暗号資産価格にマイナスの影響を与える可能性がある。バイナンスをデリバティブ市場から遮断することは、ビットコインの流動性と価格に有害となるかもしれない。

2018年、CFTCがビットメックス(BitMEX)を相手に起こした訴訟が参考になるとしたら、最大のデリバティブ市場の崩壊は想定以上にひどい事態を招くかもしれない。

イメージ悪化

それよりもおそらく、今回の提訴はまさに暗号資産の評判に大きなダメージを与えるだろう。バイナンスに不利となるような社内のやり取りやメッセージをCFTCに渡した情報提供者が少なくとも1人、バイナンス社内にいるようだ。

これらのメッセージからは、ジャオ氏が率いるバイナンスが成長のためにルール遵守を犠牲にする企業である様子が浮かび上がる。

大口トレーダーは、一段と高速の決済と低額の手数料で優遇され、個人投資家よりも優先されていた。CFTCが正しければ、バイナンスは顧客に不利になるようなトレーディングを行っていたことになる。これはどうやら、暗号資産取引所のトレンドのようだ。

しかし、CFTCの主張は、現状はまだ申し立てに過ぎない内容が重要だ。暗号資産関連がどうかは無関係に、警察や規制当局の言葉はそのまま信じられてしまう傾向がある。アメリカの規制当局が偽の証拠に基づいて提訴する可能性は低いが、偏った情報なのは確かだ。

米政府の強硬姿勢

Bitzlatoの件では、アメリカの規制当局は証拠もなしに、その取引高のすべてが違法行為に関連するものと決めつけた。ビットメックスの場合、規制当局は同取引所がテロリストの送金を助けたと示唆したが、それを証明することはなかった。

ヒルマン氏が認めた通り、バイナンスは深刻な間違いを犯し、怪しい事業を行っていた。しかし、最も悪質な告発の内容は、まだ証明されておらず、もしかしたら釈明できるものかもしれない。

米政府は暗号資産に対して強硬姿勢を見せており、銀行との取引の制限や懲罰的な訴訟を通じて、広範な経済から暗号資産を排除するために力を合わせているようだ。そうであれば、弱気相場を耐え、成長を続ける取引所をターゲットにすることも驚きではない。

バイナンスの利害の衝突や規制を軽視するような姿勢が許し難いことは間違いない。訴訟文書で公表された、バイナンスでの詐欺や違法行為に関するジャオ氏や他の幹部のやり取りは、ばかばかしいほど不適切なものだ。

だが今回の提訴は、バイナンスにとってはマイナスでも、ブロックチェーンを潰してしまうものではない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:バイナンスのチャンポン・ジャオCEO(CoinDesk)
|原文:How Bad Is the Binance Suit?