暗号資産(仮想通貨)について書く仕事で最も大変なことは、常にあらゆることが起き、重要さと興味深さと劇的さが入り混じっていることだ。その証拠にここ2週間は銀行危機や規制強化のニュースがもちきりで、テラ(Terra)ブロックチェーンの共同創業者ドー・クォン(Do Kwon)氏がモンテネグロで逮捕という大ニュースを味わう時間がなかった。
5月にテラが崩壊したことは、2022年の暗号資産低迷の直接的なきっかけとなった。特に暗号資産レンディングを手がけるセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)とヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)を破綻に追い込んだ。
米証券取引委員会(SEC)の訴状には、クォン氏の行為について驚きの新事実が含まれていた。今回の逮捕によって、さらに多くの事実が明らかになることが望まれる。
答えを必要とするクォン氏についての疑問は、まだいくつも残っている。
なぜセルビアにいたのか?
クォン氏の逮捕に関して、現在最も興味深いのはこの点だ。韓国の警察は12月、クォン氏がセルビアに逃亡したと報告。最終的に逮捕されたのは、隣国のモンテネグロだった。どちらも非常に美しい国で、私が個人的に訪れたい国のリストでも上位に位置しているが、クォン氏にはもっと深い動機があったと考えて良いだろう。
場所の選択は、1つには地理的な理由だったかもしれない。クォン氏とテラフォーム・ラボ(Terraform Labs)の最高財務責任者ハン・チャン-ジュン(Han Chang-Joon)氏は、ドバイに行こうとプライベートジェットに乗り込むところを逮捕されたと報じられた。ドバイは富裕な逃亡者には人気の隠れ家で、バルカン半島はシンガポールからドバイへの経路上にあると言っていいだろう。
しかしもう1つ、理由と推測できることがある。SECは2月の民事告訴の中で、クォン氏はスイスの銀行を利用して、自らのプロジェクトから盗んだとされる約1億ドル(約130億円)相当のビットコインを売却できたとしている。クォン氏はそのため、あるいは警察から逃れるために犯罪組織を頼った可能性もあり、バルカン半島はマフィアと関連した暗号資産詐欺の温床となっている。これもクォン氏がセルビアに逃亡した理由の1つかもしれない。
誰が告訴するのか?
クォン氏がモンテネグロで逮捕された数時間後に、アメリカの検察官は同氏対して刑事告訴を行った。これはつまり、その準備が行われていたことを示している。クォン氏のアメリカ送還を要求できるようにしたわけだ。
元SEC職員のリサ・ブランカガ(Lisa Brancaga)氏によれば、クォン氏はアメリカの投資家をターゲットとしていたため、アメリカは法的権限を主張することができる。一方、クォン氏は祖国である韓国でも詐欺容疑で告発されている。
つまりアメリカと韓国は、どちらが最初にクォン氏を追及できるかを巡って交渉、あるいは競い合わなければならない。しかしまずは、偽造パスポートを使った罪でモンテネグロで裁判にかけられることを待つ必要があるだろう。
道徳的な観点だけで言えば、韓国が先の方が正しいかもしれない。テラはアメリカ人をターゲットとしていたが、被害者は韓国人の方がはるかに多いようだ。
クォン氏がテラの共同創業者で同じ韓国人のダニエル・シン(Daniel Shin)氏を通じて韓国のエリートたちに人脈を有していたことを考えれば、韓国の方が徹底的な追求が行われる可能性がはるかに高い。しかしアメリカの検察はその点をアメリカで行うべき理由として利用するかもしれない。クォン氏が韓国のエリートたちとコネクションを持っていることは、そのような人たちが裁判に干渉する可能性があると主張できる。
投資家たちはなぜ簡単に騙されたのか?
この疑問は、クォン氏の裁判では答えは出ないかもしれないが、特にイライラさせられる疑問だ。クォン氏を称賛した投資家は本当に同氏の言い分を信じるほど愚かだったのだろうか? それとも、他に何かあったのだろうか?
テラのアルゴリズム型ステーブルコイン「terraUSD」は、その後に明らかとなった不正を脇に置いたとしても、理論的に意味をなさないものだった。そうなると、暗号資産を専門とし、金融に精通していた人たちも含めた投資家がテラに対してきわめて間違った投資をしたのか、それとも、他に隠れた動機があったのかと不思議に思わずにはいられない。
しかし、SECの告訴から見えてくるのは、単なる恥さらし以上のリスクにさらされたあるカウンターパーティーの存在だ。SECはアメリカを拠点としたある投資会社が、terraUSDがドルペッグを失った2021年5月に秘密裏に行われた救済に関与したと主張している。
この出来事は後に、terraUSDは安全だという偽りの主張を支えるために使われたとSECは指摘。つまり、単なる投資ではなく、詐欺を助長する行為と捉えられる可能性がある。
CoinDeskは、この企業がシカゴにあるジャンプ・クリプト(Jump Crypto)であることを確認した。検察が詐欺のほう助と簡単に見なすことのできる行為に対して、なぜジャンプが法的な報いを受けていないのかはわからない。ジャンプがそれによって、12億8000万ドルもの利益を上げたとされることを考えればなおさらだ。
テラはどうなる?テラ2.0は?
クォン氏が手を触れたものはすべて、根本的に無価値になっている。クォン氏が携わったプロジェクトとの金銭的、職業的関わりを断つことを私は強く勧める。
もし私の言うことをを信じられない、あるいは理解できないとしたら、残念だ。私はもう1年もかけて説得を試みてきている。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:テラの共同創設者ドー・クォン氏(Terra、CoinDeskが加工)
|原文:The Questions That Linger After Do Kwon’s Arrest