TradFiがステーブルコインにもたらすリスク、USDCのペッグ喪失で浮き彫りに【コラム】

規制当局はここ数年、分散型金融（DeFi）は伝統的金融（TradFi）にリスクを及ぼす可能性があると懸念を表明してきた。懸念は、2022年のアルゴリズム型ステーブルコイン「テラUSD（UST）」の崩壊や、暗号資産取引所FTXの破綻などによってさらに大きくなったが、既存金融機関に対する実際の影響は比較的限定的だった。

しかし、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の相次ぐ破綻を受けて、新しい認識が広がっている。既存金融機関の混乱がDeFiに影響を与えることもある、という認識だ。

ペッグ喪失

シリコンバレー銀行が米連邦預金保険公社（FDIC）の管理下に移行した3月10日、サークルが手がけるステーブルコイン「USDコイン（USDC）」がドルペッグを失ったことで懸念は現実となった。

サークルが取り付け騒ぎに苦しむシリコンバレー銀行にUSDCの準備金のうち、約33億ドル（約4390億円、1ドル133円換算）を預けていると発表した後、USDCは0.90ドルを割った。

パクソス（Paxos）が手がけるバイナンスドル（BUSD）、メイカーダオ（MakerDAO）が手がける、暗号資産に裏付けられたダイ（DAI）など、流通量のより少ない他のステーブルコインもドルペッグを失った。

銀行危機がプラスに働いたステーブルコインはテザー（USDT）だけのようで、ドルペッグを失ったステーブルコインから投資家たちが移動してきたおかげで、価格は1ドルを超えた。

新たなリスクが浮き彫りに

ドルペッグ喪失は比較的短期間で終わった。シリコンバレー銀行の預金の全額保護が発表された後には、USDCは1ドルに向けて上昇を始め、USDC、DAI、BUSDはすべて、4月2日時点では1ドルを維持している。

しかしムーディーズの見解では、新たなリスクがいまや露わになってしまった。

ドルペッグ喪失が浮き彫りにしたのは、ステーブルコイン発行者は比較的少数の金融機関に依存しており、安定性が限定的であることだ。こうしたリスクがより広く認識されることは、ステーブルコイン発行者にとっては状況をさらに悪化させることになる。

USDCのペッグ喪失後、サークルは新しい銀行パートナーとの関係をなんとか構築し、預金が特定の銀行に集中するリスクを拡散することができた。それでもTradFiの金融機関はステーブルコイン発行者との取引を見直す可能性があり、取引先候補の金融機関の数が少なくなれば、法定通貨連動型ステーブルコインが安定した交換レートを維持することは一段と難しくなる。

規制強化の可能性

最近の出来事を受けて、規制当局はステーブルコインに対する監視を強化する可能性もある。昨年起きたテラ（Terra）崩壊はステーブルコインの準備資産についての懸念を高め、規制当局はさらなる流動性と透明性要件を勧告した。

USDCや他のステーブルコインのドルペッグ喪失は、準備資産のカストディをめぐるガバナンスリスクも浮き彫りにした。EUの暗号資産規制（MiCA）もこの点に軽く触れているが、詳細な規制標準については、EUの銀行規制当局の判断に任されている。

ムーディーズは、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻によって、特にカウンターパーティーの分散化に関して、さらなる規制要件が整備されると推測している。実世界の資産のトークン化を通じて、TradFiとDeFiがますます相互に絡み合うことに伴って、システム全体が崩壊するリスクは高まり、効果的な規制、透明性、リスク管理の必要性が強まっている。