DAOの可能性と限界、アービトラムのガバナンス騒動で浮き彫りに【コラム】

暗号資産は、DAO(分散型自律組織)に何を求めているのだろうか? 数年前、CoinDeskの元記者仲間がDAOの可能性について熱く語っていたことを思い出す。

DAOの可能性

多くの人はDAOを「銀行口座を持ったディスコード」などと、簡単に説明しようとするが、テクノロジーベースのこの組織は、従来のLLC(有限責任会社)やさまざまな運営組織に匹敵するものに成長する確かな見込みがある。

パワー、可能性、政治についての「第3の道」といえるDAOでは、スマートコントラクトは人間の意思決定を自動化する手段となる。グループの基本的なルールは事前に決められ、プログラムに織り込まれており、万一、決定が裁量に任される場合にはトークン保有者の投票によって、ガバナンスに関する決定が行われる。

この点でDAOは人間の活動にパワーを与えると同時に、人間の活動を最小限に抑える。マルチシグ・ウォレットは単独の権力者を排除し、ブロックチェーンは民主的プロセスの透明性を高め、トークンの分配は利害を持つすべての人に発言権を与える。

しかし、イーサリアムブロックチェーンの人気のレイヤー2のひとつ、アービトラム(Arbitrum)で起きたガバナンス騒動は、DAOにはまだまだ課題が多いことを明らかにした。

中央集権型企業や国の活動をリプレースしたり、補完するところまでDAOがスケーリングするには、業界はDAOが実際に何に役立つかを見極めなければならない。だたこれは、DAOは想定どおりに成長する必要があるという意味ではない。

事実、あらゆる「汎用テクノロジー」と同じように、DAOの問題の大半は、さまざまに異なり、多くの場合バラバラなタイプの組織を形容するための乱雑な分類が原因となっている。

だがDAOに参加しようとする時は、どのような組織に参加しようとしているのか知っておく必要がある。

見せかけの分散化

アービトラムのDAOは、プロトコル開発の主導権をアービトラムを立ち上げたオフチェーンラボ(Offchain Labs)から「分散化」し、ユーザーとコミュニティを巻き込むための方法とアピールされていた。

トークンはアービトラムを早期に採用した人たちへの報酬として、大きな約束を伴ってエアドロップされた。だが残念なことに、プロジェクトのディスコードに記された批判によれば、プロジェクトは友好関係を築き、ユーザー基盤を構築することに約18カ月かけたのに、その信頼を5分で破壊してしまった。

アービトラムのDAOは、新たに設立され、ケイマン諸島で登記されたアービトラム財団(Arbitrum Foundation)の体裁を保つための「見せかけの分散化」の典型例のようで、プロトコル開発の主導権を握るのは同財団になりそうだ。約10億ドル(約1320兆円)相当の約7億5000万アービトラム(ARB)がアービトラム財団の経費関連の負債を返済するために割り当てられ、残りのトークンのほとんどは同財団が適切と考える形で分配される。

それ自体は問題ではない。財団に対してトークンと「コミュニティ開発」の権力/責任を与える暗号資産プロジェクトは多い。アービトラム財団は流通しているトークンの7%を受け取るが、競合のレイヤー2のオプティミズム(Optimism)の場合は暗号資産オプティミズム(OP)の5%が財団に、ソラナの場合は暗号資産ソラナ(SOL)の12%以上が財団に渡った。

アービトラム財団の改革が予定されていることから、すでに起こったことを蒸し返すことに意味はないだろう。しかし問題の発端は、アービトラムで力を持つ人たちが投票前に決断を下してしまったことだ。「リーダー不在の協同組合」と呼ばれるDAOが、形ばかりの承認を与えるグループに格下げされてしまった。

ここから見えてくるのは、自律スマートコントラクトの背後には、分散化が実際にどのような形態を取るのかを決定できる人間が存在するということだ。レイヤー2の運営にトークンが必要かどうか、テクノロジーが直接民主主義(あるいは、その偽物など)を通じて開発されるべきかについて、もっともな疑問がここにある。

DAOを活かすために

現在までで最もよく知られているDAO「ConstitutionDAO」から暗号資産が学んだ教訓がある。ConstitutionDAOは、米憲法の原本の購入を目指して設立されたが、その目的を果たせなかった。このDAOは、競売で誰が入札を行うのか、使わなかった資本をクラウドファンディング参加者にどのように返金するかなど、問題が山積みだったが、そうした問題はいまだに暗号資産ガバナンスの課題となっているようだ。

人間による意思決定を抽象化するテクノロジーを排除すると、多くの場合、少数の主要な意思決定者の存在が明らかになるだろう。

アービトラムコミュニティが当初の計画を完全に拒絶し、透明性を要求しているところに希望の光が見える。人々は記録を確認し、5000万アービトラム(ARB)がおそらく売却のために暗号資産取引所バイナンス(Binance)に移され、4000万ARBは暗号資産マーケットメーカーのWintermuteに貸し付けられたことが判明した。

ARBが、多くの人が主張しているように、「役に立たないガバナンストークン」であることよりも、ガバナンスが最初から偏っていたことが問題だ。だがおそらく、富の大きさに応じて権力を与え、一部ユーザーに他のユーザーよりも大きな権力を与えることでシステムの運用方法を決めるシステムでは、それは不可避だろう。

暗号資産は今、新しいテクノロジーの開発を監督する有能な意思決定者を必要としている。DAOは参加者を増やすためのパワフルなツールになり得る。

集団で運営され、独自トークンを持ったディスコードに過ぎないと最初から宣言している、十分に機能している組織も数多い。しかし、「分散化」する前に、プロジェクトリーダーはそもそもDAOが必要なのか、自分たちのDAOはいかにあるべきかを検討する必要がある。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Parker Johnson/Unsplash
|原文:Arbitrum Governance Fracas Reopens the Question: Why DAOs?