「DAOルネサンス」ベルリンにて勃興

「まるでDAOのルネサンスとでも言うのか」

ブロックチェーンに基づく金融プロトコルを取り扱うアクロポリス(Akropolis)の創業者・CEOであるアナスタシア・アンドリアノワ(Anastasia Andrianova)氏は、先般のDappconとETHBerlinという2つの会議を、このように総括した。

3日間にわたりベルリン工科大学で同時開催された会議には、世界中からイーサリアムの開発者が約800人集結し、世界で2番目に普及しているブロックチェーンをどのように増強するかについて議論や討論、デモンストレーションを行った。

自律分散型組織(DAO:Decentralized Autonomous Organization)は、実行が困難だと苦言を呈されてきた。2016年には、ザ・ディーエーオー(The DAO)という初期のDAOを用いたアプリケーションから約6000万ドル(約63億1100万円)が盗まれ、イーサリアムの発展に甚大な影響を与えている。

今年、アンドリアノワ氏をはじめ参加者が学んだのは主に、DAOへの関心が再び高まっていることと、DAOを機能させるための多くの「専用ツール」についてである。

ベンチャーキャピタリストで『ビジネスブロックチェーン―ビットコイン、FinTechを生みだす技術革命(原題:The Business Blockchain)』著者のウィリアム・ムーゲイヤー(William Mougayar)氏は、イーサリアムのプロジェクトで今日「DAO」という言葉が用いられていないことがないとCoinDeskに語った。

「(会議から受けた)私の印象では、DAOという言葉がかなり曖昧な使われ方をしている。」と同氏は述べた。「『If, then, that.(もしこうであれば(If)、そのときは(then)それ(that)をせよ)』といったルールがいくつかあるだけの単なるスマートコントラクトに過ぎなくてもDAOとされていた」

同氏によると、DAOアプリケーションを実行する上での複雑性や困難度合いを伝えるため、大規模なDAOと小規模なDAOとを区別することが重要だという。

ブロックチェーンのスタートアップ企業、メロンポート(Melonport)の元最高技術責任者(CTO)のジェナ・ゼンク(Jenna Zenk)氏は、しかしながら、大前提として以下のように述べている。

「DAOは人々、団体、プロジェクト、企業が自らを非中央集権的に組織するための新しい手法です。なおかつ透明性があるという点が非常に重要なのです。」

ポリチェーン(Polychain)の元パートナーであるライアン・ズーラー(Ryan Zurrer)氏は、DAOを構築するなら今だと述べており、自らも今月上旬に新たなDAOの構想を発表した。

同氏は、2016年以降、多くの変化があったことを強調した。

「多くの教訓を得る機会がありました。もう同じ轍を踏むようなDAOではありません。」

イーサリアムの進化を支えるDAO

DAOが登場して以来、イーサリアム上で円滑にDAOを機能させるための専門ツールは著しい発展を遂げてきたと、アンドリアノワ氏、ゼンク氏、ズーラー氏は口を揃える。

例としてアンドリアノワ氏が引き合いに出したのは、新しく作成されたモロクDAO(MolochDAO)の「レイジ・クイット」機能である。このアプリケーションは、DAOの構造内でユーザーの持続性を保つ鍵となる革新的な技術だ。

このレイジ・クイットを用いれば基本的に、モロクDAOに参加する誰もが「即座に離脱」でき、資金を引き出しても違約金は発生しない、と氏は語る。

「(モロクDAOの)レイジ・クイットの手法は非常に重要」と同氏は述べた。「好きな時に離脱できないと、次のタイミングまで身動きが取れなくなり、内部で揉め事が起きかねません。」

ズーラー氏にとって、自らのDAOに関する取り組みや、もっと言えばDAOの発展の基礎となっているのは、アラゴンのフレームワーク(Aragon framework)である。

アラゴンは管理プラットフォームで、ユーザーは容易にイーサリアムに分散型の組織を作成・管理できる。他にもソーシャルなガバナンスを行う上で実用的なものは数多いが、このプラットフォームは、DAOの資金調達、内規制定、構成員や投票権の管理を実施する際に役立つモジュールを提供する。

「例えば、弊社のホワイトペーパーを見てください」とはズーラー氏の弁だ。「最上段の『親(parent)』プールは、悪意ある行動をする『仲間(leagues)』がいた場合、いつでもいかなる排除をもする能力を持っています。これはアラゴン特有の機能です。」

同氏はこの構造を「ネスト化した」DAOと呼び、DAOに対して他の小規模なDAOに関する様々な権限を付与することが、複雑で大規模なDAOのセキュリティーモデルにとって極めて重要な「基礎」の一つであると説明する。

同氏のチームは現在、分散型の紛争解決ツールであるアラゴンコート(Aragon Court)を開発中で、DAOの急速な機能拡充と規模拡大のための重要な担い手だと自認している。

分散型金融(DeFi)など仮想通貨の可能性を追求する技術の合わせ技

話はここで終わらない。

ポートフォリオ管理など新たな機能をDAOにもたらす上で、イーサリアムの分散型金融(DeFi)アプリケーションも重要になってくると同氏は述べる。

もしDAOが参加者から仮想通貨を集め、それを特定のグループに割り当てることになれば、トークンを希望の資産に交換するのにカイバーネットワーク(Kyber Network)やユニスワップ(Uniswap)などのDeFiプロトコルを最大限活用しなければならなくなるだろう。

さらに、実行の際にはDAOによるガバナンスを求めるDeFiアプリケーションを、という話になってくる。

ズーラー氏は以下のように述べる。

「『DeFi』やDAOは、まだまだいじり甲斐や余地がありますよ。例えば、DAOはヘッジファンドのマネージャーにだってなれます。DeFiプロトコルを管理するDAOも可能です」

同氏によると、こうした異なるアプリケーションの「コンポーザビリティ(組み立ての可能性)」が、 開発者にとって イーサリアムのプラットフォームを興味深くかつ魅力的たらしめているという。

「DAOは明らかに2019年を象徴するトレンドの一つです」とズーラー氏は語った。「あともう一つ、それほど議論されていないものの、コンポーザビリティという考えもそうです。イーサリアムがその進歩の中で自ら生み出した大きなネットワーク効果が扉を開き、新しく有用なツールと出会って、相乗効果をもって発展していくのかもしれません」

ズーラー氏に同調し、ムーゲイヤー氏は以下のように述べた。

「こうした話がもっと出てこなければならないし、異なるDAOがもっと互いに触れ、繋がらなければならない。塵が積もって山となった時、びっくりするようなことが起きますよ。そして、そこからが本番なのです」

翻訳:石田麻衣子
編集:T.Minamoto
写真:CoinDesk
原文:In Berlin, A ‘DAO Renaissance’ Begins