暗号資産(仮想通貨)市場は下落しているが、終わってはいない。昨年大打撃を受けた業界は「Consensus by CoinDesk(コンセンサス・バイ・コインデスク)2023」で、2023年初の大きな存在感を示すことになる。
暗号資産業界、政府、Web3関連のビッグネームが4月26日〜28日(米東部時間)、テキサス州オースティンに集まり、業界の現状、壊滅的な打撃を受けた1年、そして未来がどうなるかを議論する。その観点でいえば、状況は好転している。今年最初の4カ月が業界の方向性を示すものであれば、再建は始まっている。
アメリカでは規制が不明確な状況から、暗号資産は規制されるという確信に変わった。EUは先週、画期的なMiCA規制が決議され、包括的な規制モデルを提供。2019年に暗号資産を公式に禁止した中国でさえ、Web3には好意的なようだ。
だが、まだまだ開発、政策立案、教育、そして投資が必要だ。最近の市場動向から楽観的な見方もできるが、詐欺や破綻の影響によって、この業界に対する消費者の信頼は完全に失墜している。信頼回復は茨の道、だからこそ、開発者、規制当局、意思決定者など、多くの人にとって、Consensusは意見を共有する絶好の機会となる。
今週、オースティンで開催される「Consensus by CoinDesk(コンセンサス・バイ・コインデスク)」では、以下のようなテーマが予定されている。
TradFi(伝統的金融)の視点
最大のトピックの1つは、伝統的金融業界が暗号資産との関係をどのように捉えるべきかだ。
2022年はビットコイン(BTC)が誕生した時の経済状況と同じように、銀行の経営破綻や買収が相次いだ。アメリカの規制当局は3つの銀行の救済に乗り出し、金融業界では「モラルハザード」の懸念が浮かび上がった。
だが破綻は、根強いインフレと相まって、ビットコイン価格に悪影響を与えず、この出来事をきっかけに価格は上昇した。その結果、ビットコインはいずれ、本物のヘッジ資産になりうるというストーリーが再燃した。2021年のように、バランスシートの分散化のためにビットコインを購入する企業はほとんど見られないが、機関投資家はブロックチェーン技術の導入と開発を進めている。フランスの金融大手ソシエテ・ジェネラルは最近、ユーロ建てステーブルコインを発行し、世界的な資産運用会社ブラックロックはビットコインマイニング大手を支援している。
イーサリアムブロックチェーンは大型アップグレード「シャンハイ」によって、ステーキングされたイーサリアム(ETH)の引き出しが可能になったことで、ETHは金融業界の「リスクフリー・レート」に匹敵するものになるかもしれないとの認識が広まりつつあるようだ。特にシャンハイ後に価格が上昇し、大量に売られて下落するとのアナリストの事前予測を覆したことは、注目に値する。
短期的にも長期的にも、TradFi(伝統的金融)の機関投資家が暗号資産に参入し、収益を上げる機会が存在することは明らか。リリウオカラニ・トラスト(Liliʻuokalani Trust)のCEO、ドーン・ハーフリンガー(Dawn Harflinger)氏は、12億ドルのファンドが考える暗号資産に対する長期的ポジションについて話をする。
CoinDeskのシニアレポーター、イアン・アリソン(Ian Allison)は、ペイパル(PayPal)の暗号資産・デジタル通貨ビジネス部門を担当するホセ・フェルナンデス・ダ・ポンテ(Jose Fernandez da Ponte)と対談。PayPalは、暗号資産に最も積極的なフィンテック企業と言えるだろう。
開発者の動き
2023年の最初の3カ月間、暗号資産に対するベンチャーキャピタル(VC)投資は、昨年の数十億ドルの資金と比較すると、わずか9億ドルにとどまった。しかし、多くの暗号資産に特化したファンドにとって、前回の強気市場から調達または獲得した資本を補填し、投資すべきプロジェクトは数多い。
FTX崩壊後、VCは分散化の重要性を再確認している。特に多くのファンドは「暗号資産インフラ」に投資している。具体的には、レイヤー1ブロックチェーンから、暗号資産取引所コインベース(Coinbase)が立ち上げたレイヤー2「Base」などを含む、幅広いカテゴリーだ。
同様に、資金力のあるプロジェクトは、エコシステムのオープンソース開発に数百万ドルの資金を投入し始めている。例えば、FTX崩壊で大きな打撃を受けたソラナ(Solana)は、献身的な開発者コミュニティと必要な資金を持つ暗号資産プロジェクトとして「粘り強さ」を示している。
開発すべきものは数多い。著名なビットコイナーのウディ・ウェルトハイマー(Udi Wertheimer)氏とスタックス(Stacks)ブロックチェーンの開発者ムニーブ・アリ(Muneeb Ali)氏は、Bitcoin Ordinals(いわゆる、ビットコインNFT)のローンチ以降、ビットコイン全体に広がる開発の活発化について議論する。また、コスモス(Cosmos)最大の分散型取引所(DEX)の創業者サニー・アガルアル(Sunny Aggarwal)氏は、あらゆるブロックチェーンをシームレスにする相互接続の必要性と、コスモスのビジョンについて語る。
広がるWeb3
「NFT」は「ノン・ファンジブル・トークン」という、よくわからない用語の頭文字。それゆえに、この1年、レディット(Reddit)やスターバックスなどは、NFTとは呼ばずに「デジタル・コレクティブル」と呼んで実験的な取り組みを行ってきた。
これを暗号資産に対する批判と考えた人は、重要なことを見落とした。暗号資産市場が低迷していたため、プロジェクトに「Web3」や「NFT」と付けることはさほど役に立たなかったが、これらのブランドはそもそもこのコンセプトに十分な確信を持っていた。
暗号資産はこのように、水面下で成長を続けていくだろう。例えば、ソラナはマスマーケットではなく、熱心な暗号資産ユーザーをターゲットに「ソラナ・フォン(Solana Phone)」の発売を準備している。未来学者のキャシー・ハックル(Cathy Hackl)氏は、AR(拡張現実)とAI(人工知能)が至るところに存在する「ポスト・スマートフォン」の未来についてプレゼンテーションを行う。
暗号資産に特化したスマートフォンやウェアラブルの市場はまだ小さいかもしれないが、これらはすべて、より広範な「所有権エコノミー」の一部であり、その実現に向けてスタートを切った。
暗号資産やメタバースが日常生活にどこまで浸透するか、具体的にどのような形になるかについては、さまざまな見解があるが、確実に言えることは、最も急速に成長しているエンターテインメント分野の1つであるeスポーツは、新しい所有権モデルを積極的に採用していくだろうということ。ゲームスクエア(GameSquare)のジョンソン・レーク(Jason Lake)がeスポーツと暗号資産の可能性について話をする。
また、チェーンリンク(Chainlink)の共同創業者セルゲイ・ナザロフ(Sergey Nazarov)氏は、あらゆる分野でデジタル化が進展するなか、ブロックチェーン「オラクル」とデータプロバイダーが果たす役割について議論する。
ルール、規制、取り締まり
業界全体が規制当局からの圧力を感じているが、規制当局もさまざまな動きを見せている。先週、EU(欧州連合)は、主要経済圏で初めて暗号資産に対する包括的な規制フレームワークを決議し、大きな前進を遂げました。アメリカでは、政府が暗号資産業界を規制しようとしていることは明らかだが、具体的な形はまだ決定されていない。
Consensusでは、政策は中心的テーマとなる。ステーブルコインを手がけるサークル(Circle)の共同創業者兼CEO、ジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏は、CoinDeskチーフ・コンテンツオフィサーのマイケル・ケーシーとともに従来の金融と暗号資産をつなぐステーブルコインの将来について語る。
28日には、デジタル・ドバイ(Digital Dubai)およびアラブ首長国連邦政府の戦略顧問マルワン・アル・ザロウニ(Marwan Al Zarouni)博士や、おそらくワシントンで最も活発な暗号資産ロビイストであるブロックチェーン協会のCEO、クリスティン・スミス(Kristin Smith)氏を迎えて暗号資産政策について議論する。
コンセンサス
2023年は「Consensus」という名称がこれまで以上にふさわしい年かもしれない。暗号資産の世界では、すべてを1つにまとめるコンセンサス(合意)は不可能だが、正反対とまではいかなくとも、なんらかの方向性がなければ前に進むことはできない。
暗号資産と金融の分野で最も影響力のあるビッグネームが集結する「Consensus by CoinDesk(コンセンサス・バイ・コインデスク)2023」は、明確な方向性が求められているこの業界にとって、おそらく最大のチャンスとなる。
|翻訳:coindesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:CoinDesk
|原文:What to Expect at Consensus 2023