暗号資産(仮想通貨)で給与を受け取る? リサーチによれば、若い従業員ほどそうしたアイデアを好むようだ。アメリカ・オハイオ州のスタートアップ「ライズ(Rise)」は、給与を法定通貨あるいは暗号資産で受け取るかを選択できる柔軟性を提供したい企業をターゲットにしている。同社のプロジェクトは、先月米CoinDeskが開催した「Consensus」の「PitchFest」コンテストで優勝した。
投資顧問企業deVereが2021年に実施した調査によれば、ミレニアル世代の3分の1以上、Z世代の半分以上の雇用者が、給与の50%を暗号資産で受け取りたいと考えている。Bitwageなど、暗号資産での給与支払いをサポートするスタートアップはすでに数多く存在するが、ライズはそこに新しい工夫を加える。企業と従業員の双方が、法定通貨か暗号資産かを選べるようにし、即時支払いのためにスマートコントラクトを活用している。
CoinDeskのPitchFestには、暗号資産、ブロックチェーン、Web3関連の600を超えるスタートアップが応募。Electric Capital、CapitalG、 CoinFundなどの投資家で構成された審査員チームは、12の決勝進出者を選出。12チームはテキサス州で開催されたConsensusのステージ上で競い合った。接戦となった決勝の結果、ライズが王座に輝いた。
給与サービス企業への路線変更
ライズは2021年1月、暗号資産業界の企業や契約社員のためのマーケットプレースとしてスタートしたが、必要とされていたのは新しいリンクトイン(LinkedIn)ではなく、法令を遵守した暗号資産での給与支払いのためのツールであることをすぐに理解したと、ライズの共同創業者兼CEOヒューゴ・フィンケルスタイン(Hugo Finkelstein)氏は振り返る。
「企業はすでに従業員のことは理解していたし、新しい人脈を必要としていなかった。支払いのインフラと、負担を軽減してくれるコンプライアンスの要素を必要としていた」(フィンケルスタイン氏)
ライズは2021年6月、給与サービス企業へと転換、同年10月には、マッチングアプリ大手ティンダーの共同創業者ジャスティン・マティーン(Justin Mateen)氏のJAM Fundなどをはじめとする投資家からプレシードラウンドでの資金調達に成功した。
2022年4月には現行プラットフォームをローンチ。先日には、Sino Global CapitalとPolymorphic Capitalが主導し、Draper Associates、Hashkey Capital、Paradigm Shift Capital、WW Ventures、P2P、Cosmo Capitalが参加したシードラウンドで380万ドル(約5億1600万円)の資金を調達した。
ライズのシステム
ライズが対応しているのは、90の法定通貨と、イーサリアムまたはイーサリアムと互換性のあるアービトラム(Arbitrum)、ポリゴン(Polygon)、オプティミズム(Optimism)、アバランチ(Avalanche)上での100の暗号資産による給与の支払い。
プラットフォーム自体はアービトラム上に作られており、現在はお互いにやり取りを行い、新規ユーザーの承認や支払いの分散などのプロセスを実行する15のスマートコントラクトに対応している。ビットコインは現在対象外だが、この先対応する予定とフィンケルスタイン氏は語った。
ライズの仕組みは次のとおり。企業はライズに登録し、アカウントに法定通貨または暗号資産を入金する。社員は銀行口座への法定通貨の送金か、アカウントへの暗号資産の送金、または特定の割合でその両方を選ぶことができる。
現状、対象は契約社員に限られているが、employer of record(雇用代行)サービスを立ち上げる計画で、人事と給与支払いの業務を引き受けることで正社員への給与支払いにも対応する予定だ。
ライズはすでに、500人の契約社員と70社の企業を顧客としており、これまでに支払われた給与は1000万ドル(約14億円)を超える。フィンケルスタイン氏は、年末までにプロジェクトを10倍に成長させることを目指していると語る。現在、スタッフは14名、すでにマネーサービス企業として登録しており、アメリカの一部の州での送金事業ライセンスと、ヨーロッパでのライセンス取得を目指している。
ライズのサービス対象国は現在190カ国にのぼる。アメリカではさらに、IRS(米内国歳入庁)への申告に必要な税務書類も提供しており、他の国でも同じようなサービスの提供を計画中だ。
激しい競争
ライズが事業展開する分野には、Bitwage、DEEL、Request、Remote、ADP、Utopiaなど、かなり数の競合がひしめいており、アメリカを拠点とした暗号資産取引所、主にコインベースを通じて法定通貨と暗号資産の給与支払いサービスを提供している(ライズは暗号資産ブローカーを公表していない)。
これらのサービスの中にはすでに、何千人ものユーザーを抱えているところもあるが、ますます多くの企業が暗号資産での給与支払いに関心を示しており、市場は十分に大きいとフィンケンスタイン氏は考えている。ライズの現在の顧客には、イーサリアムステーキングプロトコルのリド(Lido)も含まれている。
ライズは対応する暗号資産の豊富さと、暗号資産での支払いを簡単にするための機能によって競争力を高めたいと考えている。例えば、ライズを利用する契約社員は全員、ライズIDと呼ばれる本人確認ステータスや職歴、給与の履歴といった情報を含むNFTを受け取る。ユーザーはさまざまな暗号資産ウォレットやサービスでこのNFTを利用できる。
ライズはさらに、DeFi(分散型金融)分野へのサービス拡大も計画中で、利回りを生むプロダクトを活用できるような「ハイ・イールド」アカウントを提供する予定だ。この機能はまだ完成しておらず、現在の規制の状況もハードルになっているとフィンケルスタイン氏は認めた。
2019年にアンドリュー・マウラー(Andrew Maurer)氏とライズを共同創業する前、フィンケルスタイン氏は機関投資家向け暗号資産取引所LGO(2020年にボイジャー・デジタルが買収)のマーケティング責任者を務めたり、シードインべスト(SeedInvest)のベンチャーグロースアナリストをしていた経歴を持つ。
米CoinDeskは「Consensus 2024」でもPitchFestを開催し、世界中の有望なスタートアップにスポットライトを当てていく計画だ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:米CoinDesk主催のPitchFestで優勝したライズのフィンケルスタインCEO(右端)
|原文:Payroll Startup Rise Wins CoinDesk’s 2023 Pitchfest Contest