2020年春に予定される仮想通貨(暗号資産)関連の法改正を控え、交換業者の間で、静かな”再編”が始まっている。
各業者に大きな影響を与えるとみられているのは、仮想通貨のレバレッジ取引が金融商品取引法(金商法)の規制対象となる法改正だ。現行法の下では、資金決済法で義務付けられる仮想通貨交換業者として登録している事業者が、レバレッジ取引も行っている。
しかし、改正法施行後は、仮想通貨交換業者に加えて、第一種金融商品取引業の登録も必要になると見られている。さらに、インターネットに接続した状態でユーザー仮想通貨を管理する「ホットウォレット」については、同種・同量の暗号資産の保持も義務づけられる。
また、複数の米系大手取引所も日本市場への参入を目指している。交換業者の業界は今後、体力勝負の様相がさらに強まりそうだ。
そもそもレバレッジ取引とは
レバレッジ取引は、証拠金を交換業者に預けることで、小さな資金で多額の取引ができる仕組みだ。たとえば手元に25万円の資金があるとき、4倍のレバレッジの場合は、100万円の取引ができる。レバレッジ取引で100万円分の仮想通貨を購入すると、値上がりしたときは多くの利益を得ることができる。
反対に、値下がりしたときは損失も大きくなるが、利用者が多額の借金を抱えずに済むよう、一定の損失が出た場合に、自動的に決済をさせる「ロスカット」が導入されている。
日本交換業協会の自主ルールとして、レバレッジの上限は4倍とされており、各社が自主ルールに合わせた運用を始めている。
法改正控え、対応迫られる交換業者
来春の法改正を控え、少しずつ各社の対応は始まっている。SBIホールディングスは、交換業者SBI VCトレードを、SBI証券の傘下に移動した。
SBI VCトレードは、もともと、中間持株会社の傘下に位置付けられていたが、法改正を控え、2019年7月1日付で、すでに第一種金融商品取引業者として登録しているSBI証券の傘下に移した。
関係者の間では、証券会社系の交換業者は比較的、金商法改正への対応は容易だとみられている。すでに、第一種金融商品取引業者としての実績があるからだ。
マネックスグループ傘下のコインチェックや、GMOフィナンシャルホールディングス傘下のGMOコインなどが、こうした「証券会社系」の交換業者にあたる。
「弁済原資」の確保も痛手
レバレッジ取引規制に加えて、各社の財政を直撃しそうなのが、「弁済原資の確保」だ。
コインチェックやテックビューロから巨額の仮想通貨が盗み出された事件では、インターネットに接続した状態で仮想通貨を管理する「ホットウォレット」が狙われた。
こうした事件を背景に、交換業者に対しては、ホットウォレットで管理する仮想通貨と「同種・同量」の仮想通貨の保持が求められる。
たとえば、100億円相当のビットコインをホットウォレットで管理するなら、同額のビットコインを確保しておくことが必要になる。
ホットウォレットから仮想通貨が盗まれても、この「弁済原資」があれば、ユーザーにビットコインを返すことはできる。
では、ホットウォレットに入れる仮想通貨を少なくすればいいとも考えられるが、これにはデメリットもある。
仮想通貨の価格が激しく動いているときなどに、ホットウォレットで保管している仮想通貨が少ないと、ユーザーの注文に即応できないなどの弊害が起こり得る。
ユーザーの利便性を考えれば、交換業者としては、可能な限りホットウォレットで管理する額を大きくしたいが、それには弁済原資も確保する”余裕”が必要になる。
業界の風景が変わる?
交換業者間の競争がさらに激しくなりそうな状況にある中で、今後、いくつかのシナリオが想定できる。
1つ目は、交換業者と第一種金融商品取引業者のふたつの登録を完了させ、レバレッジ取引もサービスとして提供し続けることだ。SBIグループを含む複数の業者が、準備を進めている。
決済手段としての仮想通貨に着目するなら、レバレッジは必要ないという判断もあり得る。「純粋に販売所の業務のほうが利ざやは大きい」と話す交換業者幹部もいる。
資金規模の小さい交換業者が、証券会社の傘下に入るというシナリオも想定できる。しかし、仮想通貨に注目が集まっていた2017年後半〜2018年初には、交換業者の登録を終えている企業の価値は高く評価されていたが、現時点ではかなり低下しているとも考えられる。
コインベース、クラーケン
米国の大手取引所の日本進出も控えている。
米国の大手取引所コインベース(coinbase)は2016年1月に日本法人を設立し、日本市場への参入を目指している。複数の関係者によれば、交換業者としての登録に向けた準備も進めているという。
また、以前、日本で取引所を運営していクラーケン(Kraken)も日本市場への再参入を目指しているという。
サンフランシスコに拠点を置くコインベースは2018年10月、3億ドル(約318億円)の資金を調達した時点で同社の企業価値が80億ドルに達したと報じられた。一方のクラーケンは今年初めに1億ドルを調達したが、企業価値は40億ドルに上るとされている。
2年ほど前までは、日本の仮想通貨業界は、“怪しい”会社を含め多くのスタートアップ企業がひしめいていた。しかし、来春以降はさらに大会社化、証券会社化が進みそうな情勢だ。
取材・文:小島寛明
編集:佐藤茂
写真:Shutterstock