米債務上限合意に暗号資産は含まれず──ビットコインにはプラス【コラム】

米下院では、債務上限合意を含んだ「財政責任法案」が賛成多数で可決された。まずは、現状をおさらいしておこう。

「crypto(クリプト)」「cryptocurrencies(暗号資産/仮想通貨)」という単語は、法案の第1稿にはまったく含まれていなかった。それが良いことなのか悪いことなのか、私は悩んでいたが、デジタル資産マイニングエネルギー(Digital Asset Mining Energy:DAME)税が含まれなかったことから、業界にとってプラスと考え、良いことという結論に落ち着いた。

DAME税は、暗号資産マイニング事業者に30%の税金を課すもの。マイニングでの化石燃料の利用と、それに伴う環境への負担にまつわる懸念から提案されたものだ。

マイニング企業への課税は回避

皮肉なことに債務上限合意は、化石燃料推進派の勝利と見ることができるかもしれない。ウェストバージニア州とバージニア州の間の天然ガスパイプラインを早期に完成させるための条項も含まれている。このパイプラインはシェールガス田で採掘された天然ガスを米大西洋沿岸の中部および南部の市場に届けることになる。

表面的にはこの条項は、ビットコイン(BTC)マイニング事業者(マイナー)にとってはプラスとなるかもしれない。ビットコインマイナーの一部は、エネルギー源として余剰天然ガスを使っているため、シェールガス田の近くに施設を整備している企業もある。

天然ガス用のインフラが強化されれば、生産量が増える可能性が高く、余剰天然ガスも増える。つまり、同地域のマイナーのエネルギー源が増えることにつながる。これは間接的なメリット、そして間違いなく意図しなかったメリットと言うことができるだろう。

間接的なメリットはともかく、ビットコインは債務上限合意に好意的に反応。バイデン大統領とマッカーシー下院議長が基本合意に達した27日の翌日には、4%上昇した。

上昇は、確実性の向上と、暗号資産に対して敵対的な条項が含まれていなかったことへの安堵が少なくとも関係しているようだ。

ビットコイントレンドインジケータ(CoinDesk)

今回の上昇は、1日の値動きとしては2023年で10番目に大きなものとなった。

今後の見通し

その先はどうなるのだろうか?

国債などの公的債務は間違いなく増加し、政府が支払う利子も増えるだろう。

連邦政府の債務の合計(St. Louis Fed)

短期金利が長期金利よりも高い状態になっているため、米2年国債と10年国債の利回りの差はマイナスのまま。このような「逆イールド」問題は無視できない。2年後よりも、10年後に返済してもらえる可能性の方が高いと信じていると宣言しているようなもので、現在の経済の強さを高らかに表明するものではない。

政府預金口座(TGA)の残高を回復させるために、国債の発行が増える可能性がある。その結果、金融市場から流動性が失われ、ビットコイン価格には逆風となるかもしれない。

もう1つの解釈としては、政府による借入と支出は、暗号資産が価値を持つ理由と見ることができるというものだ。特にビットコインのように供給量に上限があるものはなおさらだ。イーサリアム(ETH)支持者たちも、そのデフレ的な性質をアピールするだろう。

政争の具にしない

この先、暗号資産がどの程度、政治的な争いに勝利するための手段として使われるのかは興味深い。民主党、共和党のどちらにも暗号資産に賛成する人、反対する人がいる。この1年で明らかに党派争い的な色彩を強めており、私はそこを問題視している。

暗号資産マイニングへの課税が除外されたことで、現政権としてはビットコインに対して敵対的な姿勢を取らなかったと主張する余地が生まれ、いまだにどう転ぶかわからない問題を避けることができた。

この先、政治の世界で暗号資産について誰が何と発言したかに目を光らせていくことが大切だ。しかし、今回の債務上限合意に限って言えば、まったくと言っていいほど何も語られなかった。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Washington Ignored Crypto for Now. That’s Good for Bitcoin.