黒田東彦日銀総裁が9月4日、「日経FIN/SUM」(9月3〜6日)で講演し、「フィンテック企業と銀行が一体となって『銀行家』としての役割を積極的に果たすことができれば、新たな成長の源泉を生み出すことになる」などと述べた。総裁の講演以外にも多数のセッションが開かれ、あるセッションでは流出事件が絶えない仮想通貨のセキュリティが議論された。
黒田総裁が考える次の経済成長を生むために必要なこと
黒田総裁は「金融・技術の融合と新たな成長機会」と題して講演。シュンペーターの著書『経済発展の理論』を引き合いに、彼がいう「銀行家」とは、文字通りの銀行に限定される訳ではなく、「ベンチャーキャピタルのように、新興企業の事業内容やリスクに目利きのある資本家や、株式や社債など資本市場の機能も広い意味で銀行家に含まれる」と指摘。
また「人々の潜在的なニーズを掘り起こし、人々が対価を支払っても良いと思う財やサービスをこれまで以上に提供できるかどうか」が重要とし、新たな成長の源泉を生み出すためには、フィンテック企業と銀行が一体になってその役割を果たすことが重要との認識を示した。
「不正流出事件の影響で交換業登録に必要な人員が2倍になった」
仮想通貨のセキュリティをテーマにしたセッションでは、仮想通貨取引所ディーカレットCTO(最高技術責任者)の白石陽介氏が登壇。2018年に起きたコインチェックやザイフでの不正流出事件により交換業登録のハードルが上がったとの認識を示した。同社の管理体制を整えるために「最終的にガイドライン改定前に想定した人数の2倍が必要になった」と明かした。
また事業者としては、カストディだけがセキュリティの問題ではないと指摘。顧客取引など、ディーリング部分の堅ろう性を保つことも含めて「セキュリティを高めることになる」とも述べた。
同じセッションで、Coinbase日本法人の北澤直代表取締役は、トークンの上場を判断するうえでの基準について、「セキュリティ、通貨の保有状況、どの程度オープンか、金儲けじゃなくユースケースがあるか」などと明かした。そのために「そのコミュニティに向けたインタビューもしている」と話した。
このほかセコムIS研究所主任研究員の佐藤雅史氏、メルカリR4Dシニアリサーチャー中島博敬氏が登壇、ジョージタウン大学松尾真一郎教授が登壇し、Japan Digital Design・CTOの楠正憲氏がモデレートした。
このセッションに登壇した松尾、佐藤、中島、楠の4氏は、CGTF(クリプトアセッツ・ガバナンス・タスクフォース)のメンバー。CGTFは、消費者保護のリスク管理のための安全対策基準を策定するために、金融当局や自主規制団体による検討よりも早く設立された研究会で、セキュリティの専門家と仮想通貨交換業者の関係者で構成されている。
5日は麻生財務相があいさつする予定
日経FIN/SUMは9月6日まで開かれている。5日はマルチステークホルダー・ガバナンスに関するセッションや、ブロックチェーンの追跡可能性の観点から金融システムへの応用について考えるパネルディスカッションが行われる。麻生太郎財務大臣もあいさつする予定だ。
文・写真:小西雄志
編集:濱田 優