アメリカにおける暗号資産(仮想通貨)規制と弱気相場の復活をめぐる不安のなか、大手国際投資銀行のデジタル資産チームからのEメールは、私に逆張り的な指標と、業界をアメリカの視点だけで見てはいけないことを思い出させてくれた。
メールの件名は「大規模な国際的調査によって、年金基金、ファンドマネージャー、その他の機関投資家や資産マネージャーがデジタル資産にポジティブで投資を計画していることが明らかに」というもの。現実とは正反対のことが起きているパラレルワールドから届いたメールかと錯覚してしまった。
5月に開催された「Consensus 2023」でステージに上がった投資会社の採用担当者たちから話を聞いたところでは、担当者たちの多くは今、エリザベス・ウォーレン米上院議員の「アンチ暗号資産軍団」のターゲットになることを恐れて、暗号資産への関心を公に示せないでいる。
しかし、メールに記されていた調査は確かなもので、重要な結果が出ていた。
驚きの調査結果
調査を行ったのはレーザー・デジタル(Laser Digital)。日本の金融大手でウォール街でもよく知られた野村ホールディングスの子会社だ。同社によると、調査は「運用資産額が合計4兆9560億ドル(約694兆円)にのぼる年金基金、資産マネージャー、ファミリーオフィス、ヘッジファンド、投資ファンド、保険会社、政府系ファンド」を対象としたものだ。
調査からは、驚くような結果が浮かび上がった。
- 回答者の96%がデジタル資産を投資分散化のチャンスと捉えている
- 91%はデジタル資産を「インフレリスクや法定通貨の価値の切り下げリスクに対処」するための「あらゆる状況に対応できる」収入戦略を作ることに役立つと考えている
- 82%はこの先12カ月の見通しとして、デジタル資産全般、特にビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)をポジティブに捉えている
- 暗号資産業界の見通しについてネガティブなのはわずか3%、中立的は15%
総括としては、暗号資産の導入には課題があることが指摘され、その1つとして当然ながら規制が取り上げられていたが、暗号資産についての見解をあまり公表したがらない業界からの回答としては驚くほど好意的なものだ。
明るい見通し
私がこの調査結果から感じたことは次のとおり。
- 機関投資家は以前よりも暗号資産を深く理解し、強い確信を持っている。暗号資産業界に対して回答者たちが確固たるスタンスを取っていることは、今やその多くが十分な知識を持っていることの表れ。良いことだ。
- 調査は国際的なものだった。組織構造、オーナーシップ、地理的な立地などの点で幅広い多様性を含んでいた。つまり、ウォール街の言葉やマインドセットと密接に結びついた銀行やアメリカのファンドマネージャーからヒアリングするよりも、はるかに幅広い視点を得ることができた。
- アメリカ以外の金融センターにおける暗号資産に対する見解がアメリカと正反対なのは、当地の政府がより建設的なアプローチを取っていることが一因。香港、ドバイ、シンガポール、ロンドン、バミューダ、スイス、パリは、さまざまな機関投資家や資産マネージャーとつながりのある金融ハブだ。
これらの都市はデジタル資産のための法的フレームワークを作り出すために計画的なステップを講じてきた。それらはさまざまな厳格さでコンプライアンス要件を設定しつつ、この分野でのイノベーションを実現するよう設計されている。一方、アメリカでは、証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の間、そして民主党と共和党の間の縄張り争いで身動きが取れなくなっている。 - 「暗号資産の冬」のなか、ブロックチェーンテクノロジーを既存の金融システムにインテグレートする方向へと振り戻しが起きている。特に「現実資産(Real-World Asset:RWA)」のトークン化に焦点があてられている。RWAのトークン化は、機関投資家の関心を引き出し、維持することに役立っている。機関投資家の多くは、トークン化に適した資産を保有しているためだ(しかし、回答者が法定通貨のリスクヘッジとしてもビットコインに関心を示したことは特筆に値する)。
- アメリカでの不安はなくなっていくだろう。世界の他の地域が前進しているのに、アメリカだけが孤立したままでいられるわけがない。
元気を出そう。ここから抜け出す道はある。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:What Winter? Institutions’ Crypto View Rosier Than You Think