「ブロックチェーン」に代わり、IMFとBISが多用する次の暗号資産バズワードとは?

国際通貨基金(IMF:実質的に世界で最後の貸し手として機能する国連組織)と、国際決済銀行(BIS:政府を超えた中央銀行組織)は先週、通貨システムの未来についてそれぞれレポートを発表した。どちらのレポートも、暗号資産(仮想通貨)と中央銀行デジタル通貨(CBDC)に言及しており、全体としてトークン化のポテンシャルに対して好意的だった。

大きな国際組織だけではない。今年4月、JPモルガン・チェースのデジタル資産プラットフォーム「オニキス(Onyx)」の責任者は「トークン化は伝統的金融のキラーアプリ」と語った。ゴールドマン・サックスも「現実資産のトークン化」を検討していると発表し、投資会社のバーンスタイン(Bernstein)が先日発表したレポートは「トークン化は5兆ドル(約716兆円)規模のチャンス」と試算している。

米CoinDeskの最高コンテンツ責任者マイケル・J・ケイシー(Michael J. Casey)は3月、テクノロジーによって現実資産のトークン化は「閉ざされたパーミッションド・プロジェクトから、パブリックなパーミッションレス・ブロックチェーンプラットフォーム」に移行したと指摘し、今度こそ、何かが変わるかもしれないと示唆した(ちなみに、この記事に登場する、現実資産のトークン化が実現するという考えに呆れた表情をした同僚は私だ)。

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トークン化というキラーアプリ

どちらにしても、IMFとBISのレポートは、官僚が暗号資産をどのように見ているかについて、興味深い知見を提供している。どちらのレポートも、トークン化は暗号資産のキラーアプリという考え方で共通しているからだ。

BISは「通貨システムは現在、大きな飛躍の時を迎えている。無券面化(dematerialization)、デジタル化に次いで、次なる重要な展開はトークン化。プログラム可能なプラットフォーム上で権利をデジタルに表すプロセス」と主張している。

簡単に説明すると、無券面化とデジタル化はどちらも世界経済と商業に素晴らしい成果をもたらした。無券面化とはつまり、あらゆる取引において、紙の紙幣を動かす必要なく、台帳への入力で記録を残すこと。一方、デジタル化とはその台帳への入力を紙からデジタルに移すこと。さらにトークン化とは、BISの表現を借りれば、「プログラム可能なプラットフォーム上で権利をデジタルに表すプロセス」という先進的なアイデアだ。

さてもう一度、見返してみよう。今度はゆっくりと。

トークン化とは、プログラム可能なプラットフォーム上で…権利を…デジタルに表す…プロセス。

待って! これはどういう意味があるのだろうか?

デジタル化、トークン化?

通貨システムのデジタル化は、明らかに、金融上の権利のデジタルな表現。ではトークン化とは、プログラム可能なプラットフォームを運営しているフィンテック企業こそが次なる飛躍ということなのか? それがトークン化なのだろうか?

いいや、そうではない。トークン化とは、IMFとBISに言わせれば、権利がプログラム可能なプラットフォーム上で取引されることを意味する。ブロックチェーンが関われば、そのような権利は「トークン」として表される可能性が高い。トークンは単に、データベース上のデジタルな入力事項ではない。むしろ、伝統的なデータベース上に普通なら存在する原資産の記録を、その資産の移転プロセスを支配するルールおよびロジックと統合したものがトークンだ。

例えば、家を買う人にとってトークン化は、譲渡証書がビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーン上のトークンとして表されることを意味するかもしれない。家の所有者が誰かを譲渡証書の移転で表す代わりに、トークンの移転で表す。トークン化された不動産は確かに、現時点では不安定な基盤の上に存在している。

もちろん「資産の移動プロセスを支配するルールおよびロジック」はトークンプラットフォーム上にも存在可能だが、法的書類や法的な手続きが所有権の何らかの側面を支配した瞬間に、その不動産を表すトークンのユースケース全体は無価値になってしまう。

IMFとBISのレポートの実際の内容を考えると、金融機関はコモディティや不動産のトークン化にはあまり関心がなく、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のトークン化に大いに関心があるようだ。

今、行われていることとは?

まず最初に、CBDCはこの記事で扱うよりも幅広い検討に値するが、ここではトークン化の観点からだけCBDCを取り上げることにフォーカスしよう。中央銀行がCBDCのトークン化についてどのような立場にあるのかを示すには、IMFのレポートから直接引用するのが一番だろう。

「支払いを行うには、参加銀行がエスクロー口座に準備金を預け入れ、他の参加者間の台帳上で銀行が移転できるような、エスクローのデジタル証明書をプラットフォームが作成する。最も単純なケースでは、受け手の銀行はトークン化された準備金を送り手の銀行から受け取り、並行して受け手の口座に入金する。その後、受け手の銀行はトークン化された準備金をプラットフォーム上の他の参加者に売却し、国内の準備金と交換することができる。単純な決済だけでなく、多くの活用が可能である」。

CBDCのトークン化に関するIMFとBISのレポートをつなぐ中心的な考え方は、単一または統一された台帳の存在だ。これらの組織は中央銀行以外の資金に大きな不信感を抱いているため、決済の安定性と「資金の単一性」を確保するためには中央集権的な権力を生み出さなければならない。

BISはこの統一台帳を「貨幣やその他のトークン化されたアイテムが集まり、取引のシームレスな統合を可能にして、まったく新しいタイプの経済的取り決めへの扉を開く『共通の場』」と定義している。

トークン化は目くらまし

トークン化に関するこうした議論や調査、検討から何かが生まれるとして、それが何なのかはわからない。多くの国がCBDCを研究しているが、これらのシステムを導入している国はほんのわずかだ。

ひとつ確かなことは、技術的な難解さは目がくらむということだ。IMFやBIS、そして似たような組織が単一で統一された中央集権的な台帳を持つCBDCを作りたいのであれば、そのために暗号資産(仮想通貨)を使っているふりをする必要はない。ビットコイン(BTC)のようなものとCBDCのトークン化を混同することは見当違い。

よく言えば、テクノロジーを駆使した通貨システムへの誤解に満ちた憧れ。悪く言えば、ビットコインや暗号資産はデジタルだから魅力的なわけではなく、中央集権的なコントロールがないから魅力的という点から不誠実かつ意図的に目を逸らしている。中央集権的なコントロールこそ、まさに中央銀行と規制当局が差し挟もうとしているものだ。

単にイノベーションの旗を振るだけでは、実際にイノベーションを起こすことにはならない。トークン化は、金融機関がすでに行っていることを改善しているとは言い難い。目くらましだ。何の意味もない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:christianthiel.net / Shutterstock.com
|原文:Step Aside ‘Blockchain Technology’, IMF and BIS Have a New Crypto Buzzword