ハリー・スタイルズのコンサートアプリ、ブロックチェーンを活用──ファンとのエンゲージメント向上を目指す

NFTを使った特典やポイントなどの提供は、アーティストとファンの関係を変え、物理的な体験とデジタル体験の間に新たな境界線を築くサインと見なされることが多い。

6月はじめ、イギリスのポップスターで元「ワン・ダイレクション」のメンバー、ハリー・スタイルズはアイルランドのスレイン城でコンサートを開催。ファンは、公式イベントアプリ「EVNTZ」を使用し、今後展開されるブロックチェーンベースの特典やポイントなどを保管できるセルフ・カストディ型デジタルウォレットをセットアップした。EVNTZは、Web3インフラ企業のCo:Createと提携して作成され、イーサリアムのレイヤー2チェーンとして知られるポリゴン(Polygon)とAPIを介して接続する。

EVNTZの創業者キム・オキャラハン(Kim O’Callaghan)氏は、参加した約8万人のファンのうち5000人がアプリを通じてウォレットを開設し、10万を超えるユニークなインタラクションを体験したとCoinDeskに語った。

オキャラハン氏によると、アプリはコンサートに参加したファンにとってワンストップ・サービスの役割を果たしたという。アプリを通じて、交通機関の予約、ソーシャルメディアへの写真投稿、グッズ購入が可能になった。さらにオキャラハン氏は、ファンコミュニティとのエンゲージメントにつながるアプリ内特典の計画を明らかにした。

「EVNTZのチームは、Web3が可能にするさまざまな特典やポイント機能を検討している。それらは次世代の音楽ファンをエンパワーするためのもの。私たちの目標は、ファンのロイヤルティに応え、高まる期待に応えること。ファンたちは純粋に素晴らしい体験に値する存在」

アプリは、2024年には他のアーティストにも提供する予定。ブロックチェーンを使ったことがなくても、意識せずに使えるように設計されているという。

アプリのユーザーインターフェイス(UI)を通して、ブランドは「Web3やスマートコントラクトの展開方法を理解することなく」リッチな体験を提供することができるとオキャラハン氏。

「ファンの視点からは、ウォレットの開設、シードフレーズ、取引手数料の支払いといったWeb3的要素は、すべてUIの下に隠され、最適化されたユーザー体験が提供される」

アーティストとファンの新しい関係

オキャラハンの意見では、イベント産業はファンとの断絶を生んでおり、アーティストへの献身に対して本質的にファンは報われない。同氏は、ブロックチェーンベースの特典や体験は、アーティストとファンの新しい関係を切り開くことをサポートすると述べた。

「Web3を活用することで、コミュニティーのロイヤルティを強め、ファンに特典やポイントを提供するエンターテインメント化され、ゲーム化された体験を創造することができる。ファンは、好きなアーティストへの献身とエンゲージメントが認められ、特典やポイントを手にすることができる。そしてファンたちがコンサートで体験することのすべては、統合され、ゲーム化され、包括的なエクスペリエンスとなる」

Co:Createのタラ・ファン(Tara Fung)CEOは、こうしたエクスペリエンスをオンチェーンで提供することによって、透明性が確保され、ブランドとファンがつながりやすくなると語った。また、ファンはブロックチェーンツールを使ってブランドの方向性に影響を与えることができ、同時に特典やポイントを得ることができると指摘した。

「ブロックチェーンを使えば、特典やポイントを得るために誰が同じようなエクスペリエンスに参加しているかを把握できる。リアルあるいはオンライン、特定の瞬間、それ以前、あるいはその後を問わない。Co:Createは、コミュニティのために素晴らしいエクスペリエンスを創造している人を見つけ、コミュニティ主導のブランドにフォーカスし、そのビジョンの実現にむけてサポートすることに取り組んでいる」

Web3評論家たちがユーティリティの定義に頭を悩ませているなか、ブロックチェーンを活用したチケット販売、ロイヤルティ、メンバーシップの取り組みが増えてきている。

3月、ポリゴンはSaaS大手のセールスフォース(Salesforce)と提携し、顧客のWeb3ロイヤルティ・プログラム開発のサポートを開始した。

|翻訳:CoinDesk JAPAN
|編集:増田隆幸
|画像:ハリー・スタイルズ(Shutterstock)
|原文:Harry Styles Concert App Takes Fans in More Than One Direction With Blockchain Rewards