6月28日〜30日にかけて京都で開催された「IVS 2023」「IVS Crypto 2023」。国内のみならず海外からも起業家や投資家、開発者が訪れた。クリプト関連では、ステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を手がける米サークルの共同創業者兼CEO、ジェレミー・アレール氏の姿もあった。
「クリプト・ウィンター」を感じさせない熱い3日間のなかで、Web3ゲームプラットフォーム「YGG Japan」は、Web3ゲーム体験ブース「Game Zone SHAKE!」を設置。Web3のマスアダプションを切り開くと期待されるさまざまなWeb3ゲームをアピールするとともに、Wen3ゲームに特化したピッチコンテスト「SHAKE! KYOTO」を開催。10社のファイナリストが5分間のプレゼンを繰り広げた。なお優秀作品には今後、YGG JAPANによるサポートが提供され、Web3ゲーム、そしてWeb3のマスアダプションの一翼を担うことになる。
「Game Zone SHAKE!」の会場では、さまざまなセッションも同時並行で行われた。ここでは30日に文字通り最後のセッションとして行われた、CoinDeskスペシャルインタビュー「Web3ゲームの爆発的普及のため、SHAKE!が担う役割とは?」の様子を紹介。「SHAKE! KYOTO」の審査員を務めたコナミデジタルエンタテインメント(以降、KONAMI)の金友 健氏、YGG Japanの椎野真光氏がピッチコンテストの裏側やWeb3ゲームにかける思いなどを話し合った。モデレーターは、CoinDesk JAPANを展開するN.Avenueの神本 侑季CEOが務めた。
「SHAKE! KYOTO」の裏側
まずは今回、「IVS Crypto」の中でWeb3ゲームに特化したピッチコンテスト「SHAKE! KYOTO」を開始するに至った経緯を椎野氏が語った。実は、Web3に限らず、ゲームのピッチコンテストは日本では珍しく、開催は手探りだったという。
「今回は第1回というよりも、第0回に近い感じで始めた。1回やってみて、次から本格的にやろうと考えていたのですが、IVS Cryptoの中でメインコンテンツの1つに位置づけられることになったので大変なプレッシャーだった」
告知も、クリプト・ウィンターのなか、初回ということもあって、あまり大々的には行わなかったが、最終的に国内外から65の応募があった。そこからピッチコンテストに登壇するファイナリスト10社を、企画書もこれから作りというアイデアベースのものから、ベータ版を展開しているもの、すでにリリースしているがアップデートのための資金調達を目指すものなどを幅広く選定したと椎野氏は述べた。
「今回、ピッチコンテストをやってみて感じたことは、ピッチを行うための“壁打ち”が一番重要だったということ。日本ではまだ、ブロックチェーンゲームは『作り方がわからない』『どうすればいいのかわからない』という会社が多い。そうしたところに対して、私も含めたSHAKE!のプロデューサーがサポートし、壁打ちをして、資料づくりなどのサポートを行った。事業計画や事業のフレームづくりなど、かなり深いところからサポートした」
審査員を務めたKONAMIの金友氏は、そうした椎野氏の話を受けて、「各社のフェーズがまったく違うことはもちろん、企画の幅も広く、ピッチは見ごたえがあった。今の話を聞いて、準備が大変だったことを改めて知った」と語った。
金友氏はこの春まで同社のプロモーションの責任者を務めていたが、4年ほど前に兼任でブロックチェーン開発準備室を立ち上げた人物。「今回のIVSを見ればわかるように、Web3は非常に盛り上がっている。もう兼任でやっている場合ではない」と考えてWeb3ゲームに専念している。
正解は決まっていない
ピッチコンテストで最優秀賞を獲得したのは、「ファイナルファンタジーXV」を手掛けた田畑 端氏が率いるJP GAMESの「Gemina Games」。同社が、MMORPGを制作するために自社開発したツール「PEGUSUS WORLD KIT」を使って制作された。ピッチコンテストで最優秀賞を獲得したというニュースリリースを出した翌日、約60件もの問い合わせがあったという。
さらに「SHAKE! KYOTO」では特別賞としてKONAMI賞も設けられた。KONAMI賞について金友氏は「どういう基準で選ぶかがかなり難しかった。正解が決まっているわけでもないうえ、それぞれ方向性も違う。どこを評価したかというと、リアルとつながることを重視した」と述べた。
KONAMI賞に選ばれたのは、ジーク ゲームズの「Play games! enrich our lives」。すでに台湾でサービスが展開されており、ゲームで得たNFTを、リアルな世界のコンビニで商品と引き換えることができるというものだ。
「それを日本に持ってきたいという提案だった。ゲームは、ユーザー数は非常に多いが、外とつながることが今まで不得意というか、分断されていた。リアルな世界とつながることへのトライは非常に面白く、ぜひいろいろディスカッションしたいという思いを込めてKONAMI賞に決めた」
海外からの熱い視線
「IVS Crypto 2023」では、ピッチコンテスト「SHAKE! KYOTO」のほかにも、二条城を舞台にWeb3ゲームのサイドイベントが開催されるなど、ゲームが大きなポジションを占めていた。YGG Groupは、世界中で10を超えるゲーム関連のDAO(分散型自律運営組織)を運営しており、グループ全体に対して「日本から良質なコンテンツを出してほしい」としばしば言われると椎野氏は述べ、次のように続けた。
「韓国ではブロックチェーンを使ったゲームを展開できなかったり、北米もサービスしづらい状況が生まれているなか、今、東南アジアが盛り上がっているものの、日本は規制が厳しくて難しいというような空気感があった。そこへ今回のIVS CryptoでWeb3ゲームが大きな存在感を示したことで、日本のマーケットを取りに行った方がいいのではないかというムードに、このIVS期間中に変わったと思う」
金友氏も日本のマーケットについて、「少し前までは、日本で売れているゲーム、特にモバイルゲームでは、日本製のゲームが多かった。今はそうではなく、グローバル企業が作ったゲームをプレイすることが当たり前になってきている。Web3ゲームでは、そうした状況が最初から起きることはあり得る」と述べた。
マスアダプションはいつか
モデレータを務めた神本は「Web3のマスアダプションは、ゲームがきっかけになるだろうと言われているが、いつ、どんな風になるのか。ゲームが本命と言われつつも、実は時間がかかっているのではないか」と2人に疑問を投げかけた。
金友氏は「マスアダプション」自体の定義が曖昧なところがあるとしつつも、現状の課題を指摘した。
「私が課題と考えているのは、エコシステム。ゲーム内でエコシステムを作ることに皆、苦労している。しかもゼロから構築しようとしているプロジェクトが多い気がしている。楽しい、面白いゲームを作るだけでも、非常に大変なのにもかかわらず、『Web3体験とは何か』ということに対する手探りがハードルを上げている。これももちろん目指していくが、もう1つのトライの方法としては、今ある遊びの中にWeb3的要素を加える、アップデートしていくことがあると考えている。Web3はゲームから浸透すると言われているが、ゲームに限る必要はない。いろいろな業界がWeb3にトライしており、そうした企業と一緒にやっていくという方向性がある。例えば、ゲームの中で使えるNFTが、リアルでも別の用途で使える。あるいは消費できるみたいな形。1つのNFTにサービスを超えた、複数のサービスをまたぐような価値を持たせることができれば、デジタルとリアルをつなぐ初めてのデジタルデータになり得る」
「プレイ・ツー・アーン(P2E)に縛られるのではなく、視点を変えてもいいと思っている。ユーザーにはゲーム以外に普段楽しんでいるサービスがあり、そのサービス、生活動線上の他のサービスでも使えるみたいなことになっていくと、そうした会社とのアライアンスも生まれる。単にNFTが使えるだけではなく、ブロックチェーンがユーザーの行動を蓄積していけると、ユーザーの各サービスにおけるロイヤリティが見えるようになる。課金以外のところLTV以外のところで、行動レベルのロイヤルティの高さに対してサービス提供側から感謝を伝えることができるようになる」
金友氏は、Web3による「体験のアップデート」が重要であり、ユーザーの行動自体を大きく変えることがなくても、行動を少しずつリッチなものに変えることができると述べた。一方、サービス提供側もユーザー一人ひとりにフィットしたものを提供できるようになると付け加えた。
「地方、食、乗り物など、いろいろなものと組むことができる。ユーザーにわざわざ何かをさせるのではなく、もともとあるニーズに対して応えていくアプローチも取りたいと考えている」
経済的成功とステーブルコイン
椎野氏もマスアダプションに向けてのハードルを語った。
「今、一番、Web3に足りないものは経済的成功、事業的成功だと思っている。ゲームが最もキャッシュマシーンとしての能力が高いので、安定的な売り上げを生み出すゲームが登場することが一番わかりやすい。プレイ・ツー・アーンが流行って、月に数百億円売り上げたけど、2カ月から3カ月でピークアウトして、今やトークンは崩壊しているみたいなものではいけない。1次流通での売り上げと、2次流通からのロイヤリティを含めて、月商5億〜10億ぐらいの売上をあげるようなものができれば、状況は一気に変わる。クリプト・ウィンターも一気に晴れると思う」
Web3ゲームには、ゲーム設計に加えて、トークンを扱うことの難しさもあるのではないかと神本は指摘。ゲーム内トークンと、さらにガバナンストークンを設計するようなことは現実的かと質問した。
椎野氏は「トークンで資金調達を行うから、トークンの価値を上げないといけないという話は、投資家が利益確定をするタイミングでトークンを売却するのでバランスが崩れてしまう。そもそもトークンをコントロールすることは難しいので、違う形でWeb3ゲームを考える必要があるという風に流れは変わってきている」と述べた。
金友氏も「資金調達はプロジェクトの構造の話であって、ゲームの面白さの話ではない。その2つを結びつけることは、やはりハードルが高い」と続けた。
そこで、2人が注目しているものがある。ステーブルコインだ。まず金友氏が語った。
「トークンにも、NFTにもボラティリティがある。NFTのボラティリティは避けようがないので、もう片方を安定させようという考え方は、正解ではないかもしれないが、ゲームは作りやすくなる。そういうモデルが日本でも、たぶん来年には出てくるだろう。そうすると、今度は逆に『トークンでなくていいのか』という議論が生まれて、いろいろな方向性が出てくると思う。少なくとも、日本でステーブルコインが可能になったことは注目すべきことだ」
椎野氏も「ステーブルコインは非常に重要で、ゲームで使いやすいステーブルコインが登場すれば、やりやすくなる。非常に期待している」と続けた。
ウォレットは課題であり、チャンス
またステーブルコインに期待する2人が、同じように重要と考えているのがウォレットだ。例えば、ステーブルコインが登場しても、サービスごとに独自のウォレットを設定するような状況では、ユーザーにとっては管理が面倒になってしまう。
椎野氏は「初心者がまずつまずくところがウォレット。例えば、パスワードを忘れてしまうと、資産がすべて取り出せなくなってしまう。恐怖以外の何物でもない」と述べ、「マスアダプションに向けた最大のハードルは『Web3はリスキーで、怖い』だと思う。そこをどういう風に払拭できるか」と続けた。
金友氏は、Web3をユーザーに意識させないことがポイントになるだろうと語った。「NFTは、ゲームのキャラだったり、アイテム。トークンはゲーム内で使えるコインやポイントで今までもあった」、つまり、裏側ではWeb3テクノロジーが使われているが、ユーザーにはそれを意識させないところまで、UI/UXが進化すれば、心理的ハードルもなくなるというわけだ。
UI/UXの進化、そしてユーザーの心理的ハードルがなくなるのに、どれくらいの時間がかかるのかが課題だが、金友氏はもう1つのアプローチがあると続けた。
「逆説的だが、日本には暗号資産保有者が一定数存在する。つまり、そこもターゲットになり得る」というわけだ。コンテンツが突き抜けていれば、既存のゲームユーザーという枠を超えて行けるはず。ユーザーに寄り添ったUI/UXの進化と、突き抜けて面白いコンテンツの2つのアプローチがあるはずと述べた。
確かに暗号資産保有者であれば、ウォレット設定などへの心理的ハードルは低いだろう。椎野氏は「ポケモンカードには、カード自体で楽しくて遊んでいる人と、投資として遊んでいる人が混在している。だが、ポケモンカード全体としては非常に盛り上がっている。両方が重なると大きなムーブメントができる」と続けた。
日本のWeb3ゲームの今後は
ピッチコンテストの裏側、評価基準、海外からの注目、マスアダプションの時期、ステーブルコインやウォレットとさまざまな話題に触れてきた金友氏と椎野氏のセッション。IP(知的財産)についての興味深い発言もあった。
IPについて簡単に触れておくと、IPにとって最も大切なことは既存のファンを大切にすることであり、その観点からはWeb3ゲームは「ノンIP」、つまり新しいIPで新しい形を生み出していくことが現実的だろうと2人は考えている。
最後に、日本のWeb3ゲームにおける、それぞれのポジションと役割、日本のWeb3ゲームの今後の展開について聞いた。
椎野氏は、「我々の役割は、成功に必要な材料を供給していくこと」とその役割を述べた。
「グローバルのパートナーシップとか、資金とか、自分たちでゲームは作らないが、ゲームを作ろうとしているところに対して必要なものを提供する、マーケティングも担当させてもらう。(金鉱を掘ることに必要な)ツルハシを作っていくようなポジションだと思っている」
YGG Japanのスタートは2022年5月。ちょうど1年くらいで状況は大きく変わったという。
「去年の今頃は、検討すべきかどうかを検討するみたいな状況だったが、今はほぼ検討は終わっていて、動き出していて、結果を出すフェーズも見極められている状況になっている」
「相当な数のWeb3ゲームが東京ゲームショウ(9月21日〜24日)の前後に登場してくるはず。今年の東京ゲームショウは、最初のWeb3の年になると期待している」
金友氏は、自身のWeb3との関わりを振り返りつつ、次のように語った。
「2018年か19年ぐらいに、はじめて『クリプトキティーズ(CryptoKitties)』を見た時に、NFTという概念がゲームに入ってきたら、ゲーム体験が丸ごと変わると感じた。もしかしたら1年後、2年後にそういう世の中になっているかもしれないという焦りが非常に強くて、わからないながらも新しい部署を作って、研究開発を行ってきた。今はもう2023年で、まだ市場として立ち上がっていない状態は、時間ができて良かったともいえるし、時間がかかり過ぎている感じもする。やはりクリプト・ウィンターのような外的要因も大きい。ただモメンタム自体はどんどん強くなっているので、いつ、大きなタイトルが出てきてもおかしくない状況にあると思う」
「モバイルゲームが出てきて市場全体が盛り上がっている。コンソールも熱い。そうしたゲームをめぐる経済がWeb3にシフトするのではなく、Web3ゲームの体験がアップデートされることによって注目度が上がって、ユーザーが増えてくる。いつ(ヒット=マスアダプションが)来るかは正直わからないが、我々も最初のヒットを狙っていきたいと考えている。仮にどこかがヒットを出したとしても、それに追いつけるようなポジションで頑張っていきたい」
椎野氏は「大手が出すコンテンツのどれかは何らかの成功をすると思っている」と述べ、一気に大勢のユーザーが参入してくる状況が「2023年後半から2024年のはじめには、そうなっていることを期待している」と語った。
「あとは日本のコンテンツが成功するのか、海外のコンテンツが成功するのかがポイント。今、韓国のゲームが日本をマーケットと捉えて力を入れている。ですが、個人的には最初のヒットはやはり日本の会社に出してもらいたい。中国と韓国が今のWeb2ゲーム、ソーシャルゲームの市場を席巻していますが、Web3ゲームも最初に彼らがヒットを出し、それがスタンダードになってしまうと日本としてはもったいない。ぜひ、日本のゲーム会社に頑張って欲しいと思っている」
|文:増田隆幸
|画像:YGG Japan