ビットコインから学んだ、テキサスの空港での価値ある教訓

米CoinDeskの暗号資産・Web3イベント「Consensus 2023」から2カ月以上経った今になってやっと、私が体験した恥ずかしい出来事について書くことができる。どの出来事も、私はひどい痛手や損失を受けずに済んだので、それはよかった。私がなぜブロックチェーン業界にこれほど長く留まっているのかを考えさせられる出来事だった。

最小限の情報で取引するという原則は重要なものであり、(ネタバレになるが)ブロックチェーンを使ったからといって、そのような取引になるわけではない。

恥ずかしい体験その1:フォーチュン500企業のCEOにインタビュー

私が最初に恥ずかしい思いをしたのはCoinDesk TVで、ジョージ・カルーディス(George Kaloudis)記者と一緒に、資産運用会社フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton )のジェニー・ジョンソン(Jenny Johnson)CEOにインタビューさせてもらった時。予想外だった。フランクリン・テンプルトンCEOが暗号資産(仮想通貨)に積極的と知らなかったのだ。

さらに予想外だったのは、ジョンソンCEOがインタビューで語ったこと。同氏は冒頭で、ビットコインは「最も偉大なディストラプション」であるブロックチェーンから「気を逸らすもの」と語った。

もちろん、私はそうは思わない。ビットコインが存在するからこそ、私はインターネットを通じて誰とでも、最小限の情報を交換するだけでグローバルな取引ができる。サイファーパンク(社会変革の手段として暗号資産の利用を推進する人)たちが1993年に、インターネットの商業的な方向性に初めて疑問を呈したときに説明したとおりだ。

これは、データベース技術であるブロックチェーンのおかげではない。通貨であるビットコイン(BTC)が、ネットワークであるビットコイン・ブロックチェーンを支える経済的インセンティブを提供し、私の取引を安全に保ち、情報を最小限に抑えているからだ。

もちろん、私はこんなことをジョンソンCEOに語ったわけではない。私は、誰かに本音を伝えるべきではない時を見極められるくらいには長く、この業界に携わっている。

しかし、その数日後、オースティン・バーグストロム国際空港のセキュリティチェックを通過しているとき、詩人のライナー・マリア・リルケが言ったとおり、「問いを生きている」自分に気づいた。ビットコインとは何の関係もなく、テキサス州オースティンにいた時の私の誤った判断のせいで、最小限の情報を伴う取引を直接体験した。

恥ずかしい体験その2:空港での特別検査

Consensus最終日の夜、私が勤めるクロスチェーン・コミュニケーション・ネットワークのアクセラー(Axelar)はドラゴンフライ・キャピタル(Dragonfly Capital)と共同でパーティーを開催した。他の最高のサイドイベントと同様、居心地の良いもので、参加者は厳選されていた。私は何人かの人たちに会った。しかし、Consensus最終日の夜ということもあって疲れていた。共同主催者に言い訳をして、NBAの試合を観るために少し早めに帰った。

近くのバーで、ベビーシッターを確保して夜の街に繰り出していた2人の女性たちとおしゃべりを始めた。そのあとの出来事はぼんやりとしか覚えていない。女性たちと別のバーに行ってダーツをしたことは覚えている。ダーツのセキュリティチェックのために、州発行の身分証明書をバーテンダーに渡した。

そこからオースティン市内のさまざまなバー、車、アパートを転々とした。疲れたとはよく言ったものだ。

空港に到着したのは午前6時。ごく短いセキュリティチェック待ちの列に並び、財布に手を伸ばした。その瞬間、驚くほど鮮明にダーツのことを思い出した。バーテンダーに身分証明書を預けたままだった。1時間半後に出発する飛行機に間に合うかどうか、見当もつかなかった。

最小限の情報で空港のセキュリティチェックを通過する方法

アクセラーでは、自分たちのプロジェクトを国際航空貨物ネットワークに例えることがある。各ブロックチェーンは主権国家であり、ブリッジとチェックポイントだけで済む接続もあるが、より高度な商取引は、空港、航空管制システム、税関検査官を経由して行われる。

アクセラーのような分散型のクロスチェーン・コネクターでは、税関に相当するもの(バリデーター)を通過するために自分が誰であるかを証明する必要はない。身分を証明することなく、同じように飛行機に乗る方法はあるだろうか? なんと、あったのだ。

20分ほどすると、新しい制服を着た2人の運輸保安局(TSA)職員がやってきた。2人は普通のTSA職員とは違っていた。まるで軍人のような身のこなしだった。

彼らは私の財布の中身を確認した。図書館カード、健康保険証、そして数枚のクレジットカードだ。彼らは私のキャリーバッグをX線検査機に通し、さらに厳しい「スワブテスト(表面を拭って行う検査)」を行った。バッグを開けて、中からサンプルを取り出し、分光分析を行った。

私が脅威ではないと判断されるまでには、10分ほどかかった。手続きはやや非効率的で、私のバッグは精査の対象となった。それは……パブリック・ブロックチェーン上での取引、つまりビットコインのような暗号資産を使った経済的インセンティブによって、正直な認証が強制される取引によく似ていた。

ビットコインは「スワブテスト」

ビットコインが登場するまで、取引を許可する銀行を介さずにインターネット上で送金する方法はなかった。現在、イーサリアムを使えば、同様に分散化されたグローバルネットワーク上で送金できる。イーサリアム、コスモス、関連ネットワーク間でパーミッションレスな形でクロスチェーンで演算するスーパーアプリを開発することもできる。

ブロックチェーンという「基盤テクノロジー」のおかげではない。ビットコイン、イーサリアム(ETH)、アクセラー(AXL)のようなトークンが、マイニングやステーキングを通じて分散型検証にインセンティブを与えるおかげだ。

面倒だし、気が散ることも多い。分散型ウェブを使うことは、自分の取引をバリデーターのオープンなネットワークによるセキュリティ・チェックにかけなければならないということだ。信頼できる機関があるのに、なぜそれを選ぶのか?

抑圧的な体制や通貨危機から、最小限の情報交換が望まれるあらゆるデジタル取引に至るまで、現在、その疑問に対しては明確な答えが存在する。

過剰な盛り上がりはそのようなユースケースを凌駕し、気を逸らすほどになっているのだろうか? ほぼ間違いなく、そうなっている。しかし、インターネットはまだ歴史が浅く、最小限の情報で取引を行う能力が重要な役割を果たすと信じている私たちにとっては、長期的に取り組む価値があるように思える。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Taught Me a Valuable Lesson at Austin’s Airport