6月23日、新たに日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の代表理事(会長)に就任した小田玄紀氏。直後には京都で開催された「IVS2023」に登壇、「暗号資産交換業者の規制対応状況とSBIグループのWeb3領域の取組みについて」と題したセッションは海外からの参加者も含め、日本市場の今後に可能性を感じさせるものになった。7月には東京で開催されたWeb3カンファレンス「WebX」にも登壇。これまで副会長として上場審査プロセスの迅速化やIEOの課題改善などに取り組んできた小田・新代表理事に話を聞いた。
──会長就任直後に登壇された「IVS2023」のセッションは大きな反響を集めました。具体的に、どのような反響がありましたか。
小田:副会長に就任した21年9月から2年弱でさまざまな改革に取り組んできました。それをお伝えしたところ「こんなに変わったんだ」と評価していただいた。特に海外からの参加者は「日本はまだできないことが多い」と思っていた方も多く、変わったことにびっくりしていたようです。改革は当然、これからも続けていきます。
最も大きな改善は、暗号資産の上場審査プロセスの改善です。以前は暗号資産を新たに上場しようとすると、審査の開始までの待ち時間を含めて1年以上かかる状況でしたが、今では日本初の上場となる暗号資産も1カ月程度で審査が完了します。
改善には、いろいろな要因がありましたが、協会側も会員会社側も審査を繰り返すことで、それぞれポイントが見えてきた。かつてはお互いに「何をすればいいのか?」という面もありました。それが実績を積むことでポイントが明確になった。そこが大きいと思います。
──市場の状況は「暗号資産の冬」と言われますが、昨年末ぐらいから口座数が急激に増えています。
小田:確かに口座数は増えていますが、日本の取引業にとっては、まだまだ厳しい状況が続いています。本当にこれからもいろいろな意味で改革を続けていけば、マーケットが活性化するのではないかと思っています。
その意味で考えているのは、暗号資産のレバレッジ取引の上限倍率の引き上げです。2017年4月、当時はレバレッジが25倍で、ビットコイン取引高の50%が日本円で取引されていました。ちょうど中国が取引を禁止した時で、日本円の取引が増えたという背景もありました。一方、今はレバレッジは2倍で、日本円での取引はわずか1〜3%しかありません。この状況では、いくら政府や自民党のweb3PTがweb3を後押ししても、そもそも取引高がありません。潤沢なマーケットが存在しないところには、海外企業も進出してきません。日本のプレゼンスを高める観点からも、ここは改善していきたいと考えています。
──引き上げに対する、金融庁のスタンスはどのような感じですか。
小田:2倍に規制された当時から、流れはかなり変わってきたと感じています。マーケットが活性化して日本に海外企業が参入してくることもそうですが、機関投資家が増えてくると別の意味、別の価値が生まれてくると思います。つまり機関投資家が増えてくると、例えばアメリカで申請が続いているビットコインETFなど新しいプロダクトも登場するでしょう。ここには大きな可能性、価値があると思っています。さらに機関投資家が増えてくると、暗号資産投資への関心も広がり、一般投資家も増えてきて、結果的に日本のマーケット全体が良くなっていくのではないでしょうか。
──レバレッジ改正の提案に向けた動きは、いつ頃から始まっていたのでしょうか。
小田:話は以前からありましたが、実際に動き始めたのは1月頃です。今年、何かポジティブな話題となるようなことを提案したいと考えていました。以前も金融庁や金融機関との話の中でレバレッジ改正の話題が出ることがありましたが、2019年、2020年頃はまったく可能性が見えませんでした。それがここに来て、検討できるかもしれないという感じになってきました。
6月の自民党のweb3勉強会で説明させていただいたときは、金融庁も参加していましたが大きな異論もなく、まさに今、原案をまとめているところです。内容をしっかり検討したうえで、金融庁や政府関係者に話を持っていきたいと考えています。できれば、来年度には実現したいと考えています。
レバレッジ改正と言うと、我々取引業者の利益のためにやっていると思われがちですが、対応するためのコストもかかりますので、わずかな利益かもしくは赤字になります。また、顧客保護のためのリスク評価を行い、合理的なレバレッジ比率を提案することを考えています。
これをやることによって、暗号資産業界、Web3業界が活性化し、盛り上がっていって、結果的に現物取引の取引高が増え、収益が生まれてくるのではないかと考えています。業界の利益も重要ですが、まずは日本の暗号資産業界、Web3業界の活性化が第一と考えて、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)とも一緒に進めているところです。
できれば、日本円でのビットコイン取引高を6〜10%程度まで持っていきたい。そうなると、世界での日本のプレゼンスも上がってくるはずです。現状では韓国ウォンよりも少ない。そこが変わってくるのではないかと思っています。
──IEOの課題にも取り組んでおられますね。
小田:2021年以降、IEOが再開して国内で現状、4件のIEOが実現しています。web3PTでもIEO推進が上げられていますが、4件のうち2件で価格が低迷していることが問題だと考えています。
ただこの件についても良かったことは、我々から金融庁と政府関係者に一度、業界団体で自主的に考えるので時間をくださいと提案させていただきました。従来なら、このような状態が続くようならIEOは一律禁止、などと言われるような可能性もありましたが、今はコミュニケーションが取れていて、業界団体が自主的に考えるのであれば、その期間は待ちましょうとなっています。ここは以前と大きな違いです。
──IEO直後の価格下落と取引高が少ないことが課題でしょうか。
小田:IEO直後に価格が下落してしまうことについては、関係者については一定期間のロックアップを設けるなどの対策を検討しています。また取引高を増やすことは重要なポイントと考えていて、例えば、株式市場で上場する際に、証券会社に主幹事、副幹事とあるように、IEOも取引所が複数で連携して行うようなことも考えられます。
より本質的なところで言えば、IEOは資金調達が目的ではなく、調達した資金を活用してプロジェクトを展開していくことが目的。IEOしたトークンを活用したエコノミクスを作っていくことが重要です。我々取引業者がIEOの目的をしっかり捉え直すことが重要だとも思っています。
冒頭でお伝えした暗号資産の審査プロセスとともに、IEO審査プロセスもチェックポイントを明確にしました。IEOについても、審査開始から大体3カ月くらいで完了するところまで改善されているので、IEOの目的はなにかをしっかり考え、広く発信していくようなことも考えています。
3〜4年周期の流れをつかむ
小田:いろいろ改善を進める一方で、この3年ぐらいで、各社の管理体制などが非常に強化されてきたことです。それがあるからこそ、金融庁や政府関係者も我々の話を聞いてくれるのだと考えています。去年のFTX破綻の際には結果的に、日本のレギュレーションの確かさが証明されました。あの事件が流れをポジティブに変えた、象徴的な出来事だったと思います。
──KYC/AML(顧客確認/アンチマネーロンダリング)対策なども取り組んでおられますが、直近の話題としてはステーブルコインについてはどのようにお考えですか。
小田:ステーブルコインは今後、活性化していく可能性があると思っています。一方で難しいのは、ステーブルコインのビジネスモデルは簡単なものではありません。日本は、銀行のATMが各所にあり、QRコード決済なども便利に使えます。クレジットカードもあります。ステーブルコインを使う必要性はなにか、という議論になると思います。ビジネスモデルをしっかりと構築できるかどうかが、非常に重要になると思っています。
海外のステーブルコイン発行業者は、ステーブルコインと引き換えに顧客から預かった法定通貨を運用して、利回りを稼ぐことができます。ですが、日本ではそれは許されていません。取引業者の立場で言えば、興味はあるものの、どう取り組めばよいのか、まだ模索しているところです。
取引業的には、セキュリティ・トークン(ST)にも可能性を感じています。不動産STから市場が活性化していますし、おそらく今年後半には流通市場も立ち上がると言われていますので、マーケットが活性化していくと期待しています。
──少し違った観点からの質問ですが、小田さんはSBIホールディングス常務執行役員も務められています。今回、代表理事(会長)になられたことは、SBIグループの力を生かして業界を盛り上げていくというスタンスの表明でもあるのでしょうか。
小田:それは実はまったく意識していません。これまでJVCEAの副会長を務めていた私が今回、会員投票の結果として会長になったということです。北尾さん(SBIホールディングス代表取締役会長兼社長)とは最近、よく話をしていますが、SBIとしてというよりも、暗号資産業界、web3業界を盛り上げていくためにどうするかという観点で話をしています。
──市場の先行きは誰にもわかりませんが、今年後半、どのように展開すると予想されていますか。
小田:この業界は3〜4年の周期があります。ちょうど来年は景気が良くなる周期にあたります。ビットコインの半減期もありますので、来年は良くなるのではないかと考えています。逆に来年良くならないと、もうかなり厳しいのではないかという思いもありますので、来年度中にレバレッジ改正は実現したいと思っています。
|インタビュー・文:増田隆幸
|写真:小此木愛里