パッシブ投資戦略は、ベンチマークを追跡するETF(上場投資信託)やインデックス・ファンドが大きな力を持っている伝統的金融でのトレンドと同様に、暗号資産(仮想通貨)でも人気を得ている。
だが、暗号資産という黎明期の資産クラスの欠点や非効率性に対処できるインデックスを設計することが重要だ。
スマート・ベータ・インデックス:入門編
株式市場でのパッシブ投資は、時価総額で加重平均されたインデックスが長らく主流だった。その起源は、1950年代〜60年代にまで遡る。ハリー・マルコウィッツ(Harry Markowitz)とウィリアム・シャープ(William Sharpe)の「現代ポートフォリオ理論」だ。1975年にジョン・ボーグル(John Bogle)が最初のインデックス・ファンドを作って以来、時価総額加重型インデックスが業界の標準とされてきた。
ようやく1992年には、ユージン・ファマ(Eugene Fama)とケネス・フレンチ(Kenneth French)が、経験的に株式リターンをよりよく説明する3要因モデルを開発し、資本資産価格モデルを拡張した。よく知られたベータに加え、小型株と低い株価純資産倍率がシステマティック・リスク要因として追加された。
長年にわたり、市場の非効率性を利用するために、新しいファクターや別の加重方法が導入されてきた。最もよく知られているファクターには、モメンタム、最小ボラティリティ、クオリティ、配当などがある。新たな加重方法には、均等加重、リスク・パリティ、最大分散などがある。
そして、これらを表すためのバズワードがついに生まれた。「スマート・ベータ」だ。2003年、S&P500の均等加重インデックスに初めて導入された。それ以来、何千ものスマート・ベータETFがアメリカとヨーロッパで承認されている。現在、アメリカだけでも約1兆7000億ドル(約246兆円、1ドル140円換算)がこのETFで運用されている。しかし、成功にもかかわらず、時価総額で加重平均される伝統的なETFと比較すると、相対的にわずかな額にすぎない。
スマート・ベータ・インデックスの設計が暗号資産において重要な理由
暗号資産インデックスでは、ベンチマーク作成者は伝統的な金融から時価総額加重を受け継いでいる。しかし、このやり方は、特に暗号資産という新しく、発展途上の資産クラスにおいては最適な結果をもたらさない可能性が高い。結果的にビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)のような2、3の構成銘柄に集中し、分散投資というインデックス投資の基本目標が達成できなくなる可能性がある。
多くの暗号資産インデックス・プロバイダーが冒しているもう1つの過ちは、市場を広範に定義しすぎて、投資不可能なインデックスや、特に危機の時に十分な流動性を持ち得ないインデックスを作成していることだ。伝統的な取引所で取引可能であるためには、インデックス構成銘柄は、広くアクセス可能な取引所において、最低レベルの流動性が保証されている必要がある。つまり、流動性に基づいて除外基準を設けると、投資可能な銘柄は著しく限られることになる。
さらに、暗号資産では、定性的な組入基準を確立することが不可欠。企業が取引所に上場する前に規制当局、銀行、監査法人によって徹底的に調査される株式とは異なり、暗号資産プロジェクトやトークンはデューデリジェンスに限界があるため、テラ/ルナ(Terra/Luna)やFTXのような予期せぬ大失敗が起きる。厳密な分析は、このような状況を回避する手助けとなる。
こうした問題に対処するためには、時価総額加重インデックスによくある落とし穴を避け、投資対象を市場流動性の高い暗号資産に限定することが重要だ。
可能性はほぼ無限だが、私たちはリスク・パリティと時価総額の組み合わせに基づくインデックスを構築することにした。リスク・パリティ加重方式は、インデックス構成銘柄のリスク寄与度のバランスを取ることを目的とし、その結果、時価総額加重方式に比べて時価総額の小さな暗号資産に大きく加重した指数となり、より分散した投資を実現する。このようなインデックスは市場全体の動きに遅れをとる局面もあるだろうが、市場サイクル全体を通じてインデックスが市場を上回る可能性は高い。