マネックスクリプトバンクは、独自の暗号資産(仮想通貨)格付け評価モデルを発表し、30種類の主要暗号資産に対して相対的なスコアを付与。この格付けをもとに、評価対象のスコアに変化を及ぼしうるイベントがあった際の分析や、各銘柄スコアの中期的な見通しについても発信していく。
今回は先月に話題となったリップル訴訟問題の進展によるXRP評価への影響について見解を述べてもらう。
MCBクリプト格付けとは?
分析の前に、今回用いる「MCBクリプト格付け」について要点を説明したい。この格付けでは、暗号資産への投資を行う上で必要不可決である7つの項目を選定し、各項目ごとに10段階で相対評価を行った。個別の評価項目は以下の通りである。
1.流動性
2.カタストロフィリスク
3.法規制リスク
4.集中リスク
5.ハッキングリスク
6.プロジェクト稼働度
7.スケーラビリティと分散性
流動性、カタストロフィリスク、法規制リスク、集中リスクの4つは伝統的な金融資産でも重要視される項目であり、これらは暗号資産においても必要な評価項目である。特に、法整備が依然不十分な暗号資産にとっては法規制リスクによる影響が大きく、一部の銘柄では当局との訴訟や新法の成立、法律改正などにより取引停止や新税率が適用される可能性があり、これらの変更は投資判断に大きく影響する。
一方、ハッキングリスク、プロジェクト稼働度、スケーラビリティと分散性の3つは暗号資産特有の項目として取り入れている。特にプロジェクト稼働度については、現状、ビットコイン以外の暗号資産は完全に分散していないとされており、ほとんどの暗号資産には運営元が存在している。そのため、彼らのプロジェクトへのコミット度合いを測ることで、暗号資産の将来性だけでなく、ガバナンス機能を評価し、健全な成長が見込まれるかを予測することを狙いとしている。
これら7項目の項目別評価に対して以下の比率で加重平均をとり総合評価を算出した。評価項目、各項目が含む指標、評価方法等の詳細はマネックスクリプトバンクが発行しているMCBリサーチのレポートを参照されたい。
イベント:リップル訴訟問題で一部判決
さて、ここからは先月に米国連邦地裁が下したリップル訴訟判決の内容と、それによるXRP評価への影響について述べる。
2023年7月13日、米国連邦地裁が暗号資産XRPの証券性を巡る裁判で部分的な判決を下した。この裁判は、2020年12月に米国証券取引委員会(SEC)がXRPの発行元であるリップル社を提訴して以来、両者間で争われてきた。今回の判決によれば、取引所における個人投資家向けのXRP販売は有価証券とはみなされないとのことである。この結論を受けてXRPの価格は前日比で一時約100%高騰した。判決後、XRPを上場停止していたCoinbaseやKrakenなどの主要暗号資産取引所でその取扱いが即座に再開されるなど、市場全体では好意的な受け止めがなされた。
一方で、機関投資家向けにXRPを直接販売する行為は、投資契約の該当性を判断するハウェイテストの諸条件を満たし、未登録証券の販売に当たることも認められた。XRPは国際送金の効率化を図る決済ネットワークにおいて用いられる暗号資産であり、リップルの決済網には各国の金融機関、政府機関を含めて多くのパートナーが参加を表明している。同社は裁判の中でXRPは独自のデジタル通貨であることを主張してきたが、それが限定的とはいえ証券であると判断されたことは、一部の投資家およびクライアントにとってネガティブなものとも受け取れる。
今回の判決で米国での暗号資産の証券性に関する基準が一つ示されたが、地裁判決であることや、米SECが控訴する可能性を示唆していることなどから、リップル社の訴訟問題が完全に解決されるまではしばらく注視が必要だろう。
項目別分析
前回のMCBクリプト格付では、XRPの総合スコアは6.40で11位となっている。時価総額比で見ても低い値だ。米SECとの訴訟がスコアを下げる要因となり、裁判の厳しい状況が続く中で法規制リスクの評価は対象となった30種類のトークンで最下位の3を記録。また、訴訟が発端となり、価格が最高値の時から大きく下落したためカタストロフィリスクのスコアも悪くなっている。
判決後、XRPの格付けはどのように変わりうるのだろうか。特に流動性と法規制リスクの二項目について影響が及ぶと考えられる。
XRP | 一年間の平均出来高($) | 直近一年の平均ボラティリティ(%) |
判決後 (2023/08/08) | 633,867,742.2 | 104.01% |
判決前 (2023/06/08) | 320,800,168.6 | 74.63% |
まず、流動性についてである。2023年8月8日現在の一年間の平均出来高($)を判決前となる前回格付け時の数値と比べてみると、その差はおよそ2倍となっている。年平均で倍増しているということは、判決後のこの短期間で一気に取引量が増えたということである。これは投資家たちの期待に加えて、Coinbaseをはじめとする米国の主要暗号資産取引所が判決を受けてすぐさまXRPの上場を再開したことが主な要因として考えられる。一方、急激な価格の上昇に伴い一年間の平均ボラティリティ(%)の値は悪化している。今後SECが控訴する可能性があることを考えると、裁判の動向に応じてXRP価格の上下が激しくなることが予想される。そのためボラティリティの観点では訴訟が完全に解決を迎えるまでは高く評価することは難しいだろう。
流動性項目の展望をまとめると、以前と比べて取引は活発化することが予想されるものの、裁判のSECの出方には引き続き注視が必要であり、手放しに格付けを引き上げる判断は難しい。流動性要素を大きく変化させうる個別ファクターが残るうちはXRPの投機性は以前として高く評価されるため、出来高とボラティリティともに中長期的に改善していくことが期待される。
法規制リスクの展望についても述べる。今回の判決で取引所を介した一般投資家向けのXRP販売が証券に該当しないと認められたことはポジティブである。このことはXRP以外の暗号資産についても当てはまるロジックであり、同じくSECによって証券性を指摘されている銘柄についても法規制リスクが一部軽減されたと言える。一方、機関投資家向けのXRP販売が証券であると判断されたことは、現時点においてSECに未登録のXRPは機関投資家にとって違法性があるということになる。他の暗号資産も同様、機関投資家が投資対象を選定する上でのコンプライアンスリスクは高いままか、むしろ違法性が明確化されたことによって高まっていると言えるだろう。
これらのことを踏まえて、法規制リスクに関してはやや下がるとはいえ、ビットコインやイーサリアムと比べれば依然高いリスクを抱えているという評価に落ち着く可能性が高い。
総評
今回の判決を受けてXRPの評価が流動性と法規制リスクの観点で改善される可能性はあるものの、格付けスコアをポジティブに見直すには中長期的な影響を見極めた上で判断する必要があるだろう。SECとリップル社の訴訟問題はXRPの評価を決める大きな要因であり、暗号資産全体のデジタルアセットとしての評価を左右する可能性があるため、その動向には引き続き注視していきたい。
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:マネックスクリプトバンク
|転載元:マネックスクリプトバンク