Web3、AI、フィンテックの融合と、マシンエコノミーという新しい時代

何十億ドルという価値と何百万人というユーザーを抱えているもかかわらず、多くの人々はいまだに暗号資産(仮想通貨)の「キラーユースケース」を探しており、唯一無二のソリューションが存在するのかどうか疑問に思っている。そのような人たちが理解していないのは、イノベーションとは斬新さの探索とその結果としての発見のプロセスであり、正解が1つだけのマークシート試験ではないことだ。

物事がどこにつながっていくのかわからず、迷ったり、苛立ったり、混乱したりしても構わない。かつては、携帯電話が世界のタクシー網を支配するようになるとか、実際の財布とクレジットカードをApple Payに置き換えるとか、伝統的なメディアがデジタル広告とパーソナライズされたソーシャルネットワークに全面的に屈するようになるなど想像できなかったことと同じだ。

迷宮の中で

苦境に身を置き、出口を探すことこそが重要であり、実践することによってのみ、次に何が起こるかを発見することができる。迷宮が見えないからといって、迷宮の中にいないと考えるのは間違いだ。

ということで、暗号資産の現在地を考えてみよう。

暗号資産は我々に、デジタルの希少性と金融の抽象化をもたらす。Web2のハイパーリンクが情報を指し示し、トークンが価値を指し示すように。分散型金融(DeFi)は、テクノユートピア主義者、超資本主義的裁定取引者、理想主義的DAOアーティストの世界的な集合体であるWeb3のために銀行業界を構築した。

デジタル財産権システムは機能し、その金融インフラは従来の中央集権的なものよりも優れたパフォーマンスを発揮することが実証されている。それなのに、私たちはハイパー金融化と自己反映的なポンジスキームゲームに迷い込んでいる。私はコンセンシス(Consensys)で数年間、トークノミクスとガバナンスに焦点を当て取り組んたが、この業界にはまだやるべきことがたくさんあるという結論に達した。

実体経済なくして持続可能な金融サービスはありえない。GDPは生産的な仕事を通じて生み出され、実用性を生み出す交換のために商業に接続されなければならない。

人々がモノを作り、他の人々がそれを消費する。伝統的な経済はGDPの約10~20%を金融部門に割り当てており、Web3も同様であるべきだ。その生産性の一部は、現実世界の需要に対応する製品のデジタル化とトークン化によってもたらされ、レガシー経済活動を統合する。残りはイーサリアムのエコシステムのレール上に構築される必要がある。

DAO(自律分散型組織)はすでに、この分野の中小企業部門として機能しており、デジタルアイテムを作成し、人間の活動を組織して、経済的利益を生んでいる。消費者心理と裁量支出に対する圧倒的なマクロ経済的圧力を考えると、これらのアイテムはまだ有意義な市場を見つけられていない。しかし、マネーサイクルは移り変わる一方で、テクノロジーの進歩は前進するばかりで、何十億ものアバターのソーシャルグラフを持つデジタルツインへと社会を再編成している。

マシンエコノミーという新しい時代

私たちは新たなマシンエコノミーの時代に突入している。人間、ソフトウェアマシン、そして進化し続けるそのハイブリッドは、フィンテックの金融ネットワークを通じてつながり、ブロックチェーンに固定されている。生成AIが動かし、加速するデジタル生産は、アートやコードからモノやサービスに至るまで、無数のデジタルアイテムの創造につながり、経済需給の基幹を形成するだろう。暗号資産は通貨を作り、DeFiは市場を作り、NFTはこのマシンエコノミーが繁栄するための商業パッケージを作った。

メタバースのコンセプトとフェイスブックは、短期的に間違いをおかしている。VRヘッドセットやおしゃれなインターネット文化が要点ではないはずだ。これらは前から存在し、ブロックチェーンを必要としない。むしろ、最も差別化されたフロンティアは、Web3を通じて構築された経済アーキテクチャと金融ネットワークにある。

AIは今、マシン規模で価値ある労働力を生み出す能力をマシンシステムに追加し、その力は自己主権的なサイファーパンク(社会変革の手段として暗号資産の利用を推進する人)やそのDAOによって行使される。AIの普及は、Web3が人々にセルフカストディする力を与え、プライバシーとコントロールを維持させるように、人々に開発する力を与える。DAOはまだ自律的にはなっていないかもしれない。

AIには、対処しなければならない巨大なリスクが伴う。歯止めがかからなければ、Web2の問題を悪化させ、ストレスで疲弊した私たちの脳に、広告会社が中毒性のあるドーパミン・コンテンツを無限に届けるだろう。刺激に終わりはない。私たちのデータ、プライバシー、尊厳は、私たち以外のものによって所有されることになる。すでにアップルは、Vision Proヘッドセットのビデオ通話で操作できるように、私たちの顔をスキャンしてディープフェイクしている。

三位一体

私は、AIにおける驚くべきオープンソースの動きが、ビッグテックのモデル開発を統合し、凌駕すると楽観視している。しかし、私たちはWeb3の力を使って、私たちの情報が私たちのウォレットに保管されるようにしなければならない。お金がノンカストディアルになったように、私たちのアバター、デジタルツイン、パーソナライズされたサービスもそうでなければならない。

Web3ウォレットは、高度に訓練されたAIエージェントをNFTとして保存し、私たちの明示的な許可を得た場合にのみ展開できるようにするべきだ。NFTは、写真を越えてソフトウェアカプセルへと移行し、やがては私たちに代わって仕事をする準知的ソフトウェアロボットへと発展するだろう。

NFTは私たちのマインドの延長として世界とやり取りするにあたって、要求をし、私たちの利益を永続させ、通貨システムに接続し、実用性を最大化する能力を必要とするだろう。そのようなことは、レジリエンスがあり、デジタルでプログラム可能な商取引と金融機能を備えた、分散型オープンソースの仕組みの上で起こるべきことは明らかだ。政府も企業も、私たちのデジタルな自己を消したり、検閲したりする力を持つべきではない。

私たちの生活がこの世界にさらにシフトしていくにつれて、マシンエコノミーのますます多くの部分を開発する必要が出てくるだろう。多くの投資家は、目新しさと注目度の高さからAIにシフトしている。私の主張は、フィンテック、Web3、AIはひとつのエコノミーであり、それぞれを成長させる私たちの能力は、それらの深い統合に依存しているというものだ。

この確信から、私はジェネレイティブス・ベンチャーズ(Generatives Ventures)という、このテーマに焦点を当てた新しいベンチャー・ファンドを立ち上げるに至った。その戦略は、マシンエコノミーからもたらされるであろう斬新なデジタル成長に基づいている。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Machine Economy and the Convergence of Web3, AI and Fintech