- イーサリアム/ビットコイン(ETH/BTC)レシオは先週、市場全体が暴落する中でも上昇した。
- 一部のアナリストは、イーサリアムの異例な好パフォーマンスは、先物ベースのETFのローンチの可能性による楽観的雰囲気によるものとした。
- アルトコインへの関心の低さとマーケットメーカーのヘッジを理由と考えるアナリストもいる。
先週の市場暴落では、イーサリアム(ETH)の下落幅はビットコイン(BTC)よりも小さかった。通常、ビットコインは市場下落時に好まれる資産であることから、その理由についてアナリストの意見が分かれている。
CoinDeskのデータによると、ビットコインが先週10.5%下落したのに対し、イーサリアムは8.3%下落し、イーサリアム/ビットコイン・レシオは2%以上上昇した。暗号資産(仮想通貨)全体の時価総額は8.3%減少して1兆200億ドル(約148兆円、1ドル145円換算)となった。
投資家は通常、緊張感があるときには時価総額が最も高く、最も流動性の高いビットコインを好むため、レシオの上昇は異例と思われる。歴史的に、レシオは市場が低迷している時に低下し、好調時に上昇してきた。
CoinDeskのコラムニストでニュースレター「Crypto Is Macro Now」を発行するノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏によると、今回は、イーサリアム先物ベースの上場投資信託(ETF)のアメリカでのローンチが目前に迫っているという楽観論がイーサリアムを後押ししたようだ。
イーサリアム先物ETF
「イーサリアム市場は、10月にイーサリアム先物ETFが登場する可能性にようやく目覚め始めたようだ。これは現物ETFほど優れた商品ではないが、それでも個人投資家や機関投資家が暗号資産エクスポージャーを分散する便利な方法であり、暗号資産への新たな資金流入を促進する可能性が高い」とアチェソン氏はイーサリアムが好調な理由を説明した。
先物ベースのETFは、資産の先物契約の値動きに連動する公開有価証券を発行する。イーサリアムETFは、プロシェアーズ(ProShares)のビットコイン・ストラテジーETFがビットコインに対して行っていることと同様に、イーサリアムのパフォーマンスを模倣しようとするものだ。2021年10月の登場以来、プロシェアーズのビットコイン先物ベースのETFは現物価格に密接に連動し、20億ドル以上の資金を集めている。ロールコストがかかるため現物ベースのETFには劣ると考えられているが、暗号資産を所有せずにエクスポージャーを得たい人には有効だ。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、現在、アメリカでは少なくとも16件のイーサリアム先物ETFまたはイーサリアム・ビットコイン先物ETFの申請が規制当局の承認を待っている。
アチェソン氏は「今後上場に関する認知が広まるにつれ、関心がさらに高まり始めるはずだ」と述べ、さらに、より多くの投資がイーサリアムのオンチェーン活動を後押しし、毎日バーン(焼却)されるイーサリアムの量を増加させる可能性があると付け加えた。
「これは価格にさらなる追い風となり、オンチェーン取引数をさらに押し上げ、より多くの取引手数料、より多くのバーン、より多くの供給削減などを生み出す可能性がある」
アルトコインへの関心の低さ
一方、暗号資産サービスを提供するマトリックスポート(Matrixport)のリサーチ・戦略責任者マーカス・ティエレン(Markus Thielen)氏は、ビットコインがより大きく下落したのは主にイーサリアムや他のコインへの関心の欠如に起因していると述べた。
「いくつかのマーケットメーカーが暗号資産から手を引き、複数の取引所が手数料ゼロの取引を廃止したため、暗号資産市場は流動性が低下し、大口投資家は流動性の低いアルトコインを取引せず、ビットコインに集中した。これが、先週の市場暴落時にビットコインのパフォーマンスが低調だった理由」とティエレン氏は語った。
流動性、つまり安定した価格で大量の注文を吸収する市場の力は、昨年11月にサム・バンクマン・フリード氏率いるFTXが破綻して以来、著しく悪化している。米証券取引委員会(SEC)がバイナンスとコインベースに対する訴訟の中で、いくつかのアルトコインを有価証券と名指して以来、状況はさらに悪化した。
パリに拠点を置くカイコー(Kaiko)によると、アメリカを拠点とする取引所におけるアルトコインの流動性は、11月の3200万ドルから2000万ドル程度に減少した。
流動性が低いということは、スリッページ(取引注文が実行されたときの価格と、注文がリクエストされたときの価格との差)が大きいということ。そのため、大口トレーダーは今年、アルトコインから遠ざかっている可能性がある。
マーケットメーカーがイーサリアム下落を阻止
最後に、暗号資産運用会社Blofinのボラティリティトレーダーであるグリフィン・アーダーン(Griffin Ardern)氏によると、イーサリアム・オプションのマーケットメーカーによるヘッジ活動が、イーサリアムがビットコインのパフォーマンスを上回った主な原因だったという。
「ビットコインについては、マーケットメーカーのヘッジが価格下落の一因になったと思うが、イーサリアムについては、それが価格の急落を防ぐ重要な要因となった」とアーダーン氏は述べ、次のように続けた。
「イーサリアムは1600ドル付近の権利行使価格付近でしっかりとしたプラスのガンマを持っており、トータルガンマはまだプラス。つまり、価格が下落すると、マーケットメーカーは売り手ではなく買い手になる」
マーケットメーカーは、オーダーブックの流動性を生み出す役割を担う存在だ。彼らはガンマがプラスの時、市場の方向性に反して取引を行い、それによって価格の変動を阻止する。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Analysts Split on Why Ether Outperformed Bitcoin During Last Week’s Slide