暗号資産市場が乱高下し、金利上昇と市場流動性の低下によってビットコイン(BTC)が下方にブレイクアウトする直前の8月半ば、ハビエル・ミレイ氏がアルゼンチンの予備選挙で予想外の勝利を収め、世界的なニュースとなった。
リバタリアン候補で右派政党「La Libertad Avanza」(自由前進)党員のミレイ氏は、ビットコイン支持派で、ビットコインは「通貨の本来の創造者である民間部門への回帰を象徴する」と述べている。ミレイ氏はまた「政治家がインフレ的な税で善良な国民をだます仕組みであり、詐欺」と自身が形容する、アルゼンチンの中央銀行の廃止を求めている。
インフレで悪名高い(現在、年率約100%以上と推定される)国の候補者が中央銀行に批判的な見方をすることは当然だが、暗号資産(仮想通貨)保有者にとっての世界的な経験について、より広い疑問を投げかける態度でもある。
ドルがもたらす「法外な特権」
「ビットコインはリスクが高すぎる」といった発言を私たちが耳にするときは、アメリカ市民として、またドル保有者として、この単純な発言は実質的な特権、具体的には「法外な特権」を持つ立場から出たものであることを忘れてはならない。
1960年代に当時のフランスのヴァレリー・ジスカール・デスタン財務大臣が初めて唱えた「法外な特権」とは、国際貿易や金融に、そして世界的な準備通貨としてドルが広く使われていることによって、アメリカが享受している独自の利益のことだ。
世界中の至る所にドルが存在していることと、ドルへの飽くことのない需要からもたらされる恩恵のいくつかは、米政府がドルを増刷してもその影響は最小限で、他国(その多くはアルゼンチンのように経済的に暗い過去も抱えた国)よりも低い金利で借り入れできることだ。
さらに、世界的な準備通貨としての地位は、アメリカの金融政策決定を単純化する。米連邦準備制度理事会(FRB)は事実上、世界の中央銀行であり、他の中央銀行が自国の為替レートを守るために同じような金利政策を取るような流れを作る。あるいは、リチャード・ニクソン大統領の財務長官だったジョン・コナリー氏が、欧州の財務大臣グループに対して、率直に次のように言った通りだ。
「ドルは我々の通貨だが、あなた方の問題だ」
ドルシステムの外では
では、ドルシステムの外にいる世界中の保有者にとって、ビットコイン投資の経験はどうだったのだろうか?
過去5年間、アメリカ国外のほとんどのビットコイン保有者の大半は、ドルに対するビットコインの31%のリターンに加え、アメリカの金利が上昇した結果、自国通貨がドルに対して相対的に下落したため、ビットコインでより大きな利益を経験した(以下の図1を参照。比較のためには、ビットコイン対米ドルのリターンのオレンジ色のバーを参照)。過去5年間のビットコインは、強いドルよりもさらに強かった。
この期間の注目すべき外れ値としては、アルゼンチン(ミレイ氏の予備選挙の勝利の要因)とトルコ(同国指導者は、低金利の刺激効果を追求する「エルドヤノミクス」を試した後、最近になって伝統的な経済理論を復活させるようになった)があげられる。
アルゼンチンとトルコの5年間の実現インフレ率はそれぞれ60%と33%で、アルゼンチンとトルコのビットコイン保有者は、分散型のデジタル価値保存手段を活用することで、購買力を維持し、国内の政治・経済状況をおおむね乗り切ることができた。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bitcoin Dreams Are Coming True in Argentina and Turkey