2017年の仮想通貨ブームと新規コイン公開(ICO)の流行以降、アジアの多くの国々が仮想通貨とセキュリティトークンをめぐる規制の明確化のための方策を講じてきた。
本稿では、まだ途上ではありながらも、デジタル資産に関し規制を持つアジアの国に焦点を当てる。
タイ:法制化で牽引
アジアにおいて、セキュリティ・トークン・オファリング(STO)と取引所に関する法制化が抜群に整っているのはタイである。
タイ政府は2018年5月、企業がデジタル資産関連事業を行うための要件を定めるデジタル資産法令を公布した。これは、仮想通貨とデジタルトークンの双方を射程に収め、タイ証券取引委員会(タイSEC)が管轄する。同法令は、トークン提供者や発行者に当てはまる発行市場での行為(資金調達)と、取引所や取引関連の仲介業者に当てはまる流通市場での行為(取引)をはっきりと区分している。
同法令の施行に伴って、タイは次の通り3種類の免許も整備した。
- デジタル資産取引所業務免許
- デジタル資産ブローカー業務免許
- デジタル資産ディーラー業務免許
これらの免許は、企業が行うことのできる具体的な行為を定めている。取引所業務免許は、デジタル資産の取引や交換の目的のために設立されたセンターやネットワークに適用される。ブローカー業務免許は、デジタル資産の取引や交換に関して、ブローカーまたは仲介業者としてのサービスを提供する場合に適用される。ディーラー業務免許は、取引所外の独自アカウントを用いたデジタル資産の取引や交換に関してサービスを提供する際に適用される。
同法令は別途、認可されたICOポータルを通じてのみトークン発行が行われるように制限をかけている。タイはまた、特定の認可仮想通貨のリストを制定している。これらは、ICO用の投資資金として受け入れられ、デジタル資産の取引所で他の資産と組み合わせられるもので、ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XPR)、ステラ(XLM)のことである。
タイ財務省は現在、タイSECの推薦のもと、デジタル資産取引所を5件、デジタル資産ブローカーを3件、デジタル資産ディーラーを1件、ICOポータルを3件認可している。
しかし、さらなる課題も存在する。タイはデジタル資産と仮想通貨事業のカストディ要件に関し明確なガイドラインを設けていない。現在のところ、証券に適用されている既存の基準がデジタル資産にも適用されるべきなのか、新しいガイドラインと規制が将来的に確立されるのかは不明である。
シンガポール:民間証券取引所を後押し
シンガポールの事実上の中央銀行にあたるシンガポール金融管理局は2018年11月、「デジタル・トークン・オファリングのためのガイド」と題された一連のガイドラインを発表した。
これは、どの種類のデジタル資産にシンガポールの証券先物法(SFA)が適用されるかを定めている。デジタルトークンがSFAの定義する資本市場商品(証券やデリバティブなど)に当たる場合には、SFAによる規制を受ける。その場合には、企業の活動内容に基づいて、トークン発行者、取引所プラットフォーム、助言業務、またはその他業者として、既存の関連する免許が適用される。
例えば、セキュリティトークン発行プラットフォームは、証券を含む資本市場商品の取引のために資本市場サービス(CMS)免許のもとで活動を行わなければならない。セキュリティトークンの取引を円滑にするデジタル資産取引所は、認可取引所、または公認市場運営業者としての免許のもとで活動を行う必要がある。
タイとは異なり、シンガポールのSFAは資本市場商品の定義に当てはまるデジタル資産にのみ適用される。その他のデジタルトークンは決済トークン(ビットコイン、イーサなど)に分類される。
シンガポール政府や関連組織はさらに、デジタル資産業界発展のための注力と熱意を見せている。具体的には2018年11月、MASはデジタルトークン取引を行うシンガポール初の民間証券取引所、1エクスチェンジ(1exchange)に公認市場運営業者(RMO)免許を与えた。シンガポールの主要証券取引所であるシンガポール証券取引所(SGX)は、1エクスチェンジに出資している。
MASは現在、不足点を把握するために、レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場:現行法の規制を一時的に停止する規制緩和策)環境下でフィンテック企業と連携を行なっており、シンガポール政府がデジタル資産業界の成長を支援しており、これからもエコシステムの構築を続けていくことは明らかである。
香港:レギュラトリー・サンドボックスを活用へ
アジアの主要金融ハブの一つである香港もまた、仮想通貨に関する規制を構築中だ。香港証券先物委員会(香港SFC)は2017年9月、ICOについての声明を発表し、2018年11月には、暗号資産ポートフォリオマネージャー、ファンドのマーケティング・販売を行うディストリビューター、取引プラットフォーム運営者向けの規制枠組みに関する声明と通達を出した。香港SFCは「仮想資産」という用語を用いており、それを「仮想通貨」、「暗号資産」、「デジタルトークン」とも呼ばれる、価値をデジタル化したものと定義している。
これらの新たな声明は、デジタル資産への投資と資金の管理について、規制に関する明確性を高めるものだ。
香港SFCは2019年3月、「セキュリティ・トークン・オファリングに関する声明」を発表した。特段の免除が適用されず、セキュリティトークンが証券とされる限り、(香港内であっても、香港人投資家を対象としたものであっても)、セキュリティトークンのマーケティングや販売を行う者は例外なく、証券先物法令(SFO)で定める第1種の規制業務(証券の取引)免許または登録が要件になると、各業者に対して再認識させる内容であった。
2018年11月の声明を通して、SFCは取引所運営業者に対し、取引所運営業者に与えるべき免許の種類を決定するために、レギュラトリー・サンドボックスへの参加を申し出るように呼びかけた。取引所運営業者はSFCによって規制され、SFO第1種(証券の取引)および第7種(自動取引サービスの提供)免許が必要となる可能性もある。
現状の規制では、カストディ行為はSFCによる規制を受けてはいないが、カストディアンとして機能する組織は、パブリック・トラスト・カンパニーとして登記され、香港企業登記所の発行するトラストまたはカンパニー・サービス・プロバイダー(TCSP)免許を申請する必要がある。
技術の進歩と法的枠組みの設計
アジア太平洋地域におけるその他の政府も、デジタル資産のための規制要件の範囲をより明確に定義するべく様々な方策をとってきた。
例えばフィリピンでは、フィンテックと仮想通貨関連事業を対象とした特別経済特区を管轄するカガヤン・エコノミック・ゾーン・オーソリティ(Cagayan Economic Zone Authority)を政府が設立した。並行して2019年2月には、フィリピン証券取引委員会がデジタル資産とトークン・オファリングに関する規制草稿を発表し、取引所向けの規則を提案している。マレーシアは、シンガポールに似た規制を有し、デジタル資産を所管する規制の導入に向けて取り組んでいる。
デジタルでない世界のために作られた現行の法的枠組みの下では、様々なことが不透明だ。それでも技術は進歩を続けていく。
現在、仮想通貨およびブロックチェーンプラットフォームの構築を手掛ける企業は、金融とテクノロジー業界の大企業が益々増えている。こうした動きは、絶え間なく変わるビジネスの現実についていくために、政府がデジタル資産を理解および規制することの緊急性を高めてきた。
STOや仮想通貨業界が世界的にどのような形に行き着くのかはまだ分からないが、間もなく規制整備で更なる展開が見込まれる。一つ確かなことは、多くの活動やイノベーションがアジアから生まれてくるということだ。
翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Abacus image via Shutterstock
原文:The State of Security Token Regulations in Asia