データサイトのコインメトリクス(Coin Metrics)による最新レポート『State of the Network(ネットワークの現状)』は、米暗号資産(仮想通貨)取引大手コインベース(Coinbase)の収益について深く掘り下げている。アメリカの暗号資産取引所市場を理解しようとする人々にとっては、いつでも興味深いテーマだ。
最新の数字によると、コインベースのキャッシュインフローの源は、長年にわたり同取引所の収益の90%以上を占めてきた取引手数料から多様化している。
取引手数料減少という現実
直近の四半期収益報告書を見ると、コインベースの収益は7億700万ドル(約1025億円、1ドル145円換算)、うち3億2700万ドル(約474億円)がスポット(現物)取引によるものだった。手数料はキャッシュフローの最大の源泉であることに変わりはないが、今や総収益の77%を占めるに過ぎない。プロ製品のサブスクリプション料、ウォレット、ステーキング、オンチェーン・スケーリングサービスをはじめとする他のビジネスラインの占める割合がますます大きくなっている。
コインベースはなぜ、金のなる木である取引手数料を永遠に活用し続けないのだろうか?
コインベースはこれまで、おそらく最も信頼できるアメリカの取引所として、またアメリカの暗号資産ユーザーは、より安価な海外のライバルを利用することが本来許されていないため、高い取引手数料を請求することができた。
この状況は、米証券取引委員会(SEC)との訴訟が続いているものの、すぐに変わるわけではない。そもそも、SECに標的にされていないフィンテック企業などあるだろうか?
しかし、コインベースが成長する余地は限られていることは確かであり、同社のグローバル展開はうまくいく時も、そうでない時もあり、また日本やインドなどの市場からは撤退したことを考えると不安が募る。
コインベースの最大株主であるキャシー・ウッド(Cathie Wood)氏以外にも、世界にはまだ多くのコインベース支持派がいる。コインメトリックスのレポートは、メイカーダオ(MakerDAO)との提携、USDコイン(USDC)からの収益、デリバティブの推進など、成長の可能性を秘めた多くの潜在的なビジネスラインについての考え方を含め、前向きな内容で締めくくられている。
しかし、成功したかのように思われるコインベースの多角化にまつわるストーリーが盛り上がっているなかでも、現実を直視する必要がある。コインベースの総収入に占める取引手数料が減少しているのは、取引手数料そのものが減少しているから。それに尽きる。
もしこれが2021年のような熱狂的な年なら、シーケンサー(レイヤー1ブロックチェーンのトランザクションを検証、オーダー、圧縮し、高速処理するためのレイヤー2の機能)手数料やステーキング・アズ・ア・サービスのような一見成長しているように見えるセクターは相対的には微々たるものだろう。
コインベースが、アメリカの顧客ベースに縛り付けられている現実を忘れてはならない。これは、ブライアン・アームストロング(Brian Armstrong)CEOによる海外移転の脅しが空虚に聞こえる理由と同じだ。ブラッド・ガーリンハウス(Brad Garlinghouse)氏による、リップル(Ripple)を海外に移すという発言には信ぴょう性がある。なぜなら彼は、明らかに有価証券の募集に似ている(しかし、必ずしもそうではない)取引で何億ドルものエックス・アール・ピー(XRP)を販売するような火遊びをする人物だからだ。
問題はユーザー不足
しかし、コインベースは本当に追い詰められているのだろうか? 現状を打開するために成長したり、買収したりできるのだろうか?
ここで、地理とも、成長とも関係ない話をしよう。 コインベースは現在、600を超える資産ペアを扱っているにもかかわらず、同社の歴史の初期に上場されたコインやトークン、例えばビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)が、その取引高の大半を占めていることをコインメトリックスは発見した。
「単に新たな暗号資産を追加することは、取引手数料収入を得るための保証された方法ではない」とコインメトリックスは指摘している。
見方によっては、これはコインベースの将来の成長にとって不吉なことかもしれないし、単に常識的な問題かもしれない。ビットコインとイーサリアムは2大暗号資産だが、だからといってその事実は、例えばソラナ(Solana)がユーザーベースを見つけることを妨げてはいない。
すべてのトークンが勝者になるとは限らないが、おそらくSuiやアプトス(Aptos)のような最近ローンチされたトークンも、破滅的なことが起こらない限り、用途とユーザーを見つけるだろう。
そして「トークンを増やす」ことが、長引く弱気相場に対処するための戦略であるとは思えない。問題はコインではなく、ユーザー不足であり、それゆえにコインベースは相対的に取引手数料収入を下げているのだ。
期待される新規事業の展望
同社にとって幸運なことに、最近スタートさせたBaseを通じたL2ロールアップならびにステーキング業務への拡大の試みは、初期の成功を収めている。コインメトリックスによれば、これはオンチェーン活動の将来にとって良い兆しだ。
コインベースにとってさらに良いことは、個人投資家や機関投資家のトレーダーが利用するステーキング手数料から得られる収益だ。イーサリアムのステーキングは同取引所の純収入の13%以上を占め、初期ソフトウェアとハードウェアのコストを差し引けば、実質的には受動的収入となっている。
確かに、コインベースのステーキング事業は、SECが法的措置を講じる予定であることを伝える「ウェルズ通知」や法的懸念に直面しており、いつか停止を余儀なくされるかもしれない。
同様のリスクが、イーサリアムのスケーリングレイヤーであるBaseにもあると私は考えている。Baseはコインベースによって、トランザクションを検証するためのシーケンサー手数料を得る唯一のバリデーターとして完全に収益化されている。Baseは今のところ、ゲンスラー委員長率いるSECの標的にはなってはいないが、ソーシャルメディアプラットフォーム「Friend.tech」の意外な成功もあって、コインベースの稼ぎ頭になりつつある。
しかしBaseは、ときには1日に支払われるすべてのイーサリアム手数料の1%以上を占めることもあるイーサリアムブロックチェーンへのデータロールアップなど、明らかなコストを伴う。
コインベースが行っている、あるいは今後行う可能性のあるビジネスラインは、すべて犠牲の大きすぎるものなのだろうか?
どういうわけか、そのようだ。例えば、コインベースは多くのビットコインETF申請において、ビットコイン市場の監視を担当する取引所として指名されているが、ビットコインETFは承認されれば、ビットコイン取引市場を侵食する可能性がある。
とはいえ、コインベースはまだ大成功を収めている取引所ビジネス、新進のステーキングプラットフォーム、USDCの後援者として、満足な立場にいる。
しかし、コインベースの成長の可能性が制限されていることを考えれば、ブライアン・アームストロングCEOが時間のある時に「オンチェーン広告」、現実世界のオンチェーン化、「フラットコイン」のようなスタートアップによる悪あがき的なアイデアについて考えていても驚きではない。
イノベーション投資家のキャシー・ウッド氏が、コインベースのビジネスプランが本質的に「なんでもやってみて、見つける」だと聞いたとしても、動揺するようなことはないだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Sergei Elagin / Shutterstock.com
|原文:Does Coinbase Have a Diversification Problem?