Progmatは自らステーブルコインを発行しない?──誤解と知られざるインパクト

10月2日に設立されるProgmat, Inc.は、「国産ステーブルコイン」の発行に向けた共同検討を開始している。だが、代表取締役 Founder&CEOに就任する齊藤達哉氏は「我々が自分たちのステーブルコインを発行するわけではない」「“プログマコイン”が登場するわけでない」とCoinDesk JAPANに語った。

ステーブルコインの時価総額(流通額)は、CoinMarketCapのデータによると約1240億ドル(約18兆円)。1位はテザー(USDT)で約830億ドル(約12兆円)、2位はUSDコイン(USDC)で約260億ドル(約3兆8000億円)にのぼる。

最近では、米決済大手ペイパル(PayPal)の参入というビッグニュース以外に、「トルコリラ」に連動したTRYBが「米ドル」ペッグ以外のステーブルコインで時価総額世界2位となったこと、「コロンビアペソ」連動のステーブルコインが100億ドルの送金市場を狙って登場したことなどを伝えた。

そしてProgmat設立と「国産ステーブルコイン」のニュース。

「ようやく、日本円に連動したステーブルコインが登場するのか」「“プログマコイン”という名前のようだ」と思われがちだが大きな誤解があるという。齊藤氏によると、

  • Progmatは、自分たちのステーブルコインを発行するわけではない
  • 日本円に連動したステーブルコインに限らない。むしろ米ドルを含む外貨連動型が主軸
  • 発行する企業は日本企業に限らない


とのこと。一体、どういうことだろうか?

世界一安全で、信頼性の高い「ドル連動型」ステーブルコインが日本から登場


ステーブルコイン、より具体的には米ドル連動型ステーブルコインは、主に暗号資産(仮想通貨)取引での決済手段として使われている。さらに新興国では自国通貨のボラティリティを避けるための手段として、さらにはクロスボーダー決済の手段としてのユースケースが拡大している。

だがその一方で、No.1ステーブルコインのUSDTについては、裏付け資産の安全性や不透明性への疑念が長く指摘されている。USDTへの疑念を受けて、米サークル(Circle)が発行するNo.2ステーブルコインのUSDCが一時シェアを伸ばしていたが、USDCは今年春の米銀行危機の影響を受けて短期間だがドルペッグを失い、信頼性に大きな疑問が浮かんだ。今はUSDTが再びシェアを取り戻している。

そうした状況のなか、日本は世界に先駆けてステーブルコイン規制を整備。今年6月には改正資金決済法が施行された。この意味を一言で表すなら、「世界で最も安全、かつ信頼性の高いステーブルコイン」が登場するための環境が整った。しかも、積極的な動きを見せるProgmatには、日本を代表する3つのメガバンクグループが参画している。グローバルな視点で見ても、テザー(Tether)社やサークルと比較した信頼性は言うまでもないだろう。

そして改めて指摘しておくと、Progmatはあくまでも「デジタルアセット全般の発行・管理基盤」、つまりプラットフォームだ。一部報道で「プログマコインを発行する見通し」などと伝えられているが、「Progmat Coin(プログマコイン)」は、Progmatの中のステーブルコインのための基盤の名称であって、ステーブルコインの名前ではない。

9月11日に行われたProgmat設立の発表会で齊藤氏が語ったように、Progmat Coinを基盤に発行の検討を進めている「国産ステーブルコイン」の一番のターゲットは「貿易決済」。貿易決済で決済手段として使われるのはほとんどの場合、米ドルだ。

同日、三菱UFJ信託銀行が出したプレスリリースには「日本法に準拠したステーブルコインの発行・管理基盤である『Progmat Coin(プログマコイン)』基盤を活用し、グローバルに流通可能な“国産ステーブルコイン”の発行に向けた共同検討を開始」とあるが「日本円に連動した」という言葉はもちろん、「日本円」という単語すら登場していない。

Progmat Coinを使ったステーブルコイン発行には、さらにユニークなメリットがあると齊藤氏は続けた。

海外企業も規制に則ったステーブルコインを発行できる

新たに施行された規制では、ステーブルコインは「銀行預金型」「資金移動業型」「信託型」に分けられている。その中でも、Progmatが最初に実装するのは、最も制度のバランスが取れているとされる「信託型」。最大の特徴は、例えばある企業「A社」が、ステーブルコインビジネスを展開するときに、実際の実務、いわば面倒な部分はすべて信託銀行に任せられることだ。発行にまつわるライセンスも不要だ。つまり、「信託の委託者」というポジションでステーブルコインビジネスを行うことができる。

さらに委託者は、日本企業に限定されるわけではない。海外企業は海外に籍を置いたまま、日本の規制下で裏付け資産を保全する信託銀行と組むことで、Progmat Coinを使った米ドル連動型ステーブルコインを、世界に先駆けて整備された規制に則って発行する、というビジネスが可能になる。

「海外企業がステーブルコインをビジネスとして展開するときは、どこの法域でビジネスを展開するか、つまりどこに裏付け資産を置くかを検討することになる。これまで日本は選択肢になく、テザー社は香港を選び、サークルはアメリカからスタートし、今はヨーロッパやシンガポールに進出している。だが、おそらく日本がステーブルコインビジネスを展開するときには一番いい法域になった。規制が明確なため、将来予見性があり、我々のような受け皿もある」と齋藤氏。

さらに「日本に支社を作って、日本のローカルライセンスを取得する必要もない。海外に籍を置いたまま、日本の信託型スキームを利用するだけで、日本の中だけで使えるステーブルコインではなく、ドル連動型で国を問わず流通可能なステーブルコインを日本から発行できる」と続けた。

「“Progmat Coin基盤“を活用したステーブルコイン」のあまり知られざる本当の姿が見えてきたようだ。「日本は世界に先駆けてステーブルコイン規制を整備した」と言われるが、それにとどまらない、グローバルで見てもきわめてユニークなビジネスモデルだ。

グローバル展開を実現するクロスチェーン技術

グローバル展開を主軸に置いているからこそ、ステーブルコインを発行する最初のチェーンは、パブリックでパーミッションレスなイーサリアムブロックチェーンを選択。さらにより広い利用を目指してマルチチェーン、クロスチェーンでの展開を実現していくという。

その重要なパートナーとなっているのが今回、新たにProgmat, Inc.の設立に株主の一角として加わったDatachainと、アラブ首長国連邦ドバイに拠点を置くTOKIだ。マルチチェーン、クロスチェーンが実現するユースケースについて、TOKI代表の石川大紀氏は次のように語った。

TOKIの石川氏、齊藤氏、Datachainの久田氏

「例えば、イーサリアムからアバランチへの移動をネイティブでサポートする。さらに他のアプリケーションとのインテグレーションも可能になり、Aチェーン上のステーブルコインで、Bチェーン上のNFTをユーザーがチェーンの違いを意識せずに購入できるようになる。さまざまなアプリケーションをインテグレーションすることで、NFTの決済、セキュリティ・トークンの決済、クロスチェーンでのレンディングやスワップなど、チェーンを超えたあらゆるユースケースが実現可能になる」

マルチチェーン、クロスチェーンでの展開は、Progmat Coinを基盤に発行されたステーブルコインのユーザビリティを向上させることにつながり、ユーティリティの向上は流通量拡大につながる。プラスα的な機能ではなく、ステーブルコインにとって「根幹の機能」になるという。

「国際的な取引のユースケースや、今のDeFi(分散型金融)のユースケースを考えると、米ドルがメインになっており、現実的にはまずそこに対応していく。中期的には日本円の基軸通貨としてのポジションを上げることに貢献したいという思いはあるものの、現実的にはまず、米ドルから」と付け加えた。

さらに石川氏は、Progmatについては、あまり知られていないが、もう1点、グローバルで見てもユニークな点があると述べた。RWA(現実資産:Real Wordl Asset)トークン化プラットフォームとしての実績だ。

世界最大級のRWAトークン化プラットフォーム

RWAのトークン化は、暗号資産の新しいトレンドとなりつつある。最近では、米暗号資産取引大手のコインベース(Coinbase)、サークル、DeFiのアーベ(Aave)やCentrifuge(セントリフュージ)、データ・プラットフォームのRWA.xyzなどがコンソーシアム「Tokenized Asset Coalition」を設立した。

RWAは定義やデータの取り方がまた確立されていないものの「現状、最も規模が大きいセントリフュージが数百万ドル規模。一方、Progmatのセキュリティ・トークン関連ファンドの運用残高は800億円(約550万ドル)を超えている。確立されたデータがないので明確に世界一とは言えないが、世界トップレベル。少なくともトップ3に入っている」と石川氏は述べた。

今回のステーブルコインの取り組みは、すでに世界トップレベルの実績を持つRWAプラットフォーム「Progmat」が、ステーブルコイン発行基盤を本格的に稼働させるという話でもあるわけだ。

齋藤氏もProgmatの実績について「Progmatは今から新たにスタートするわけではなく、RWAにおいては世界最大級の実績を新会社として独立する前から既に有しており、2024年3月までに運用残高が1000億円を超えることは確実」と述べた。

「Progmatは日本だけのプラットフォームではなく、海外のどこからでも、日本の明確かつ厳格な規制に基づいた、絶対にデペッグしない、かつクロスチェーンで柔軟に使えるステーブルコインを発行するためのプラットフォーム。既に発行されているステーブルコインとも競合せず、むしろイネーブラー/パートナーとして補完的なポジションで協業していく立場。既存のステーブルコインが指摘されてきた問題をクリアした米ドル連動型ステーブルコインを、一緒に実現していくことができる」(齊藤氏)

Progmatの取り組み、メリットが海外に伝わるにつれて、そのインパクトはますます大きなものになりそうだ。

|文:増田隆幸
|画像:Progmat設立発表会での齊藤達哉氏(CoinDesk JAPAN)
※編集部より:写真キャプションのお名前に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。