2023年のイーサリアムステーキング:成長と変容の年

イーサリアムブロックチェーンにプルーフ・オブ・ステーク(PoS)メカニズムをもたらしたアップグレード「Merge(マージ)」は、ほぼ1年前のこと。それに続くアップグレード「Shapella(シャペラ)」は、ステーキングされたイーサリアム(ETH)の引き出しを可能にするもので、実施されたのは半年ほど前だ。

この2つの重大な変化によって、イーサリアムのステーキング業界が台頭してきた。ステーキングされた資産はすでに400億ドル(約5兆8000億円、1ドル145円換算)以上となり、総収益に当たるステーキング報酬の総額は16億ドルを超える。

以下、今後のイーサリアムステーキングに関する3つの重要なポイントを見ていこう。

機関投資家の関心の高まり

どのような指標を見ても、イーサリアムブロックチェーンのPoS移行は大成功だった。Staking Rewardsのデータによると、ステーキングされたETH(ステークドETH)の総額は現在415億ドルで、全ブロックチェーンにおけるステーキングされた総資産の46%に相当する。ステークドETHはすでに、イーサリアムの総供給量の21.7%にのぼり、MergeとShapellaが実施された時はそれぞれ6.5%、15.1%だった。

イーサリアム:ステークドETHの供給量が総供給量およびアクティブ供給量に占める割合

他の供給指標と比較すると、その普及度合いはさらに顕著となる。ステークドETHの供給量は、それぞれ過去1年間と6カ月間にアクティブだった供給量の50%と65%を超えた。

特筆すべきは、この激しい成長期間中、イーサリアムネットワークは数分間ブロックのファイナライズに失敗したもののなんとか自力で回復した2つの比較的小さな事案を除いて、スムーズに稼働していることだ。

機関投資家はもちろん、注目している。

ETHのステーキングが機関投資家にどのように広がっていったかを示す指標の1つが、機関投資家のみが利用するシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)におけるイーサリアム(ETH)とビットコイン(BTC)のベーシス(先物価格とスポット価格の差)の違いだ。理由は単純。ETHは現在ネイティブ利回りを導き出し、BTCは導き出さないことを考えると、BTCとETHのベーシスの違いは、先物契約のキャリーコストを削減するため、利回りに近似するはずだからだ。

下のチャートは、CME先物契約におけるBTCとETHの年率ベーシスの差の推移を示している。機関投資家が価格決定プロセスにおいて、ステーキングを考慮していることが浮かび上がってくる。この差は、約1年前まではごくわずかだったが、現在、最も流動性の高い契約(満期まで30日と60日)で3.2%と3.5%に達している。これは、イーサリアムバリデーターの平均ステーキング利回りを年率換算したコンポジット・イーサ・ステーキング・レート(Composite Ether Staking Rate:CESR)の3.9%に近い。

CME先物契約におけるBTCとETHのベーシスの差(FalconX)

ステーキング熱は冷めか?

しかし、楽観的な話ばかりではない。イーサリアムステーキングの普及の熱狂が減速し始める可能性を示すシグナルも出てきている。

イーサリアムのステーキング参加率(総供給量の22%がステーキング)は、ソラナ(71%)、カルダノ(62%)といった他のPoSネットワークに大きく遅れをとっている。これは、ETHの保有者層がより分散していること、ネットワークリソースとしてより多く使用されていることを考えると、ほぼ予想どおり。

問題は、この開きがどの程度まで縮まるだ。

ネットワークが同時に処理できる新規参入者数は限られているため、ETHのステーキングを望んで、待機しているバリデーター数を見てみよう。Shapellaアップグレード後、この数は2カ月足らずで10万人近くに増えた。これは、ほとんどの期間、事実上ゼロだったステークドETHを引き出したい人の数をはるかに超えていた。

ステーキングを待つ人(緑)とステークドETHの引き出しを待つ人(赤)の数

2023年6月以降、行列に並んでいるバリデーターの数は一貫して減少している。現在は3万人を下回り、5月以来の最低水準。この傾向が数カ月続けば、ステークドETHの増加率は数カ月で先細りになるだろう。

減速の背景には、より広範なマクロ経済状況が、利回り創出のために暗号資産(仮想通貨)に注目する投資家にとって、追い風から向かい風へと変化したことが一因だ。

コンポジット・イーサ・ステーキング・レートは、バリデーターの増加とネットワーク活動の低下により、Merge実施時の5.5%から3.9%に縮小。比較のため見ておくと、米国債2年物の利回りは同じ期間に3.8%から5.2%に上昇した。

もう1つの、おそらくより議論を呼びそうな懸念は、現在、総ステークドETHの3分の1弱を支配する大手ステーキングプロバイダーであるリド(Lido)が、Shapella後に維持することができた優位性だ。

3分の1という値は、イーサリアムネットワークのファイナリティに影響を与え始められる可能性があるため、重要だ。

最近、一部のステーキングプロバイダーは、イーサリアムバリデーターの22%未満に自己制限することを表明したが、リドは自己制限しないことを投票で決定したが、リドはオペレーターのさらなる分散化に取り組んでいる。

さらに、洗練されたMEV(最大抽出可能価値:Maximal Extractable Value)へのアクセスを民主化できる提案者と開発者の分離(PBS)や、バリデーターを複数のエンティティによってコントロールできるようにする分散バリデーターテクノロジー(DVT)など、さらなる取り組みがネットワークの分散化に貢献するだろう。リド自身もDVTの採用に取り組んでいる。

未来は明るい

2023年は、暗号資産史上最も長い弱気相場にもかかわらず、イーサリアムステーキングが軌道に乗った年となった。

イーサリアムステーキング業界は今後も勢いを増すと予想される。機関投資家は現在、自身のニーズに合わせたシームレスなステーキングプラットフォームを利用できるようになった。DeFiユーザーは、洗練された金利取引などの新しいユースケースにステーキング資産を活用する新しい取り組みの急成長を目の当たりにしている。

暗号資産の世界で一直線に進化するものはないが、イーサリアムステーキング業界の長期的な見通しには興奮せずにいられない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Micheile/Unsplash
|原文:Ethereum Staking in 2023: A Year of Growth and Transformation