市場は、ステーキングは本当に良い取引だという意見で一致している。これは、コア開発者たちが期待していた以上の結果だ。イーサリアムブロックチェーン上で開発したいという需要だけでなく、イーサリアムのコンセンサスに参加したい、つまりステーキングに参加したいという予想を超えた需要が存在している。
ステイカーはネットワークを検証し、報酬を受け取るために、イーサリアム(ETH)を担保として差し入れる。利回りはバリデーターが預け入れたイーサリアムの額次第で、これが理論的には市場の均衡を生み出す。利回りが低すぎれば、人々はステーキングを解除する。バリデーターの預け入れ額が少なければ、利回りは上昇し、新規ステーカーが参入する動機となる。
愛着を込めて「ホーム・ステーキング」と呼ばれる最も純粋なステーキングでは、小型で、どこにでもある、エネルギー効率に優れたコンピューターでイーサリアムのソフトウェアを実行し、資産を管理する。しかし、ステーキングを行いたいが「ホーム・ステーキング」は行いたくないという2つのグループがある。1つ目は、必要なパソコンのセットアップ方法を学ぶ意欲も時間も、技術的な知識もない人々。もう1つは、ETHを3~6%の利回りのためにロックアップしたくない人々で、彼らはより大きなリスクと報酬に興味がある。
サードパーティによるステーキングの光と影
これら2つのグループはエコシステムの中に、有益でもあり、弊害にもなるものを生み出した。彼らは、受け取りトークンと引き換えに、ステーキングする資産をサードパーティに管理してもらうことにした。つまり、サードパーティは直接自らの資産をステーキングすることはないが、ネットワークに対する影響力は保持している。サービスを提供し、報酬の一部を受け取るのだ。
一方では、サードパーティはステーキングへのアクセスを民主化する。ステーキング参入への障壁は、初期投資や技術的な知識という点で非常に高く、「ステーキング・アズ・ア・サービス」プロバイダーは、オンボーディングを容易にする。チェーンにとってはプラスに働く。
一方、サードパーティ、言い換えれば中間業者、つまり暗号資産(仮想通貨)が排除しようとするタイプの市場参加者には問題が残る。
イーサリアムは4月にハードフォーク「シャンハイ(Shanghai)」を実施し、何年もステーキングし続けてきた人々がついにステーキングした資産を引き出せるようになった。これは、ステーキングに関心を持つ人々にとって、大規模なリスク回避の出来事だった。それ以来、ステーキング参加待ちの行列は数週間から数カ月に及んでいる。
誰もがステーキングに参加しようと押し寄せ、ステーキングをやめる人はほとんどいないため、ネットワークの安定性と中央集権化のリスクは、コア開発に携わる人々の最重要課題となっている。
ステーキングのブームとサードパーティープロバイダーの中央集権化問題は、ステーキングエコシステムに悪役を生み出した。そして、あるサードパーティーのステーキングプロバイダーは他のすべてのステーキングプロバイダーを凌駕している。リド(Lido)だ。リドは半中央集権的で、ノンカストディアルなステーキングプロトコルであり、分散型自律組織(DAO)によって管理されるETHのステーキングのために誰でも利用することができる。
リドが生む懸念
議論には2つの側面がある。リドは魅力的なUX(ユーザーエクスペリエンス)と堅実なビジネス展開で成功している。ステーキングされたETHの大部分をコントロールすることを目指し、経済的に合理的なアクターとして行動し、イーサリアムのプロトコルデザインの限界をストレステストしている。さらに、1つの組織だけでなく、38のオペレーターが存在する。
もう一方の側面は、リドがチェーンの分散化に有害だと言うだろう。なぜなら、リドはステーキングの独占に人為的に上限を設けることを拒否しており、その急速な独占的成長は、単一の個人や組織が全ステークドETHの3分の1を管理するまでに成長することを可能にした設計上の欠陥に対処する「コード化された」方法を見つけ出そうとする研究者に非協力的だからだ。さらに、38のオペレーターは、1つの組織によって管理されている。通常、わずか2つのウォレットによって意思決定が行われるリドDAOだ。
リドは、イーサリアムの核となる価値提案を脅かす欠点を悪用している。それは、分散化と、いかなる特別な利害にも屈しないということだ。
いずれにせよ、今取るべき手立ては、イーサリアムの研究者が議論し、ブレーンストーミングを行い、これらの経済上合理的なアクターを考慮するためにシステムを適応させる時間を増やすこと。コア開発と研究は、この中央集権化のリスクと、それをどのように軽減するか、あるいは積極的に考慮するかという課題に取り組む数百人ものテック業界最高の頭脳を持つ人たちによって、未知の領域で行われている。
すでに議論されているアイデアは存在する。コミュニティは個人と組織がステーキングプロバイダーを選択する際に明白ではないかもしれないリスクを周知するために懸命に取り組んでいる。私自身は、イーサリアムのコア開発チームから、これまでに生まれてきたものに匹敵する質の高いソリューションが登場することを期待している。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Opposing Centralization in Ethereum Staking