インドネシアのバリ島で8月末に行われたWeb3イベント「Coinfest Asia 2023」(主催:CoinDesk Indonesiaを展開するCoinvestasi)のパネルディスカッション「Asian story of 10x-ing Trading Volume」(取引高10倍になりゆくアジアのストーリー)には、インドネシア最大の暗号資産取引所CEO、元バイナンスCFOでフィリピン最大のウォレット運営企業代表らが出席。暗号資産相場の低迷とともに、NFTへの関心も薄れつつあるが、アジアの暗号資産業界を代表するリーダー的存在が集まっただけあって、熱い議論が交わされた。各国の状況や課題についても存分に共有されたイベントの様子を紹介する。
登壇者は次の通り。
- オスカー・ダルマワン氏(暗号資産取引所「INDODAX」CEO、インドネシア)
- ウェイ・ゾウ氏(暗号資産取引所・モバイルウォレット「Coins.ph」CEO、フィリピン)
- パース・チャトゥルヴェディ氏(暗号資産ウォレット「CoinSwitch」インベストメント・リード、インド)
- アンダーソン・スマリ氏(株式・暗号資産投資アプリ「Ajaib」CEO、インドネシア)
なお、司会は、同イベントのメディアパートナーであるCoinDesk JAPANの代表取締役CEO、神本侑季が務めた。
インドネシアの暗号資産取引にかかる税は0.21%
冒頭、パネリストたちは自己紹介の後、各国・地域の状況について簡単に説明した。
まず、インドネシア最大の暗号資産取引所INDODAX共同創業者であるオスカー・ダルマワンCEOは、インドネシアの暗号資産業界は状況が特に大きく変化していると指摘、過去3年間で政府があらゆる法規制を進めてきたことを紹介した。
ダルマワン氏によると、インドネシアでは暗号資産の売買には、付加価値税(VAT)とキャピタルゲインに対する税があわせて0.21%がかけられるものの、これは取引所が支払うため、投資家は税金を支払う必要がないという。
また、インドネシアでは法定通貨ルピアや暗号資産も預託機関に預けられるといい、ダルマワン氏は「我々はそれに触れることができない」「政府系企業の一つによって非常に厳しく監視・規制されている」として安全性を強調した。
フィリピンは規制内容がはっきりしていて確実性がある
次に、フィリピンで最初に認可されたVASP(Virtual Asset Service Provider:暗号資産に関連するサービスやプラットフォームを提供する企業・団体)であり、決済サービスを提供するCoins.phを率いるウェイ・ゾウCEOは、フィリピンの市場について、規制当局や規制内容がはっきりしており、「確実性がある」と胸を張った。
その一方で、フィリピンの課題として取引人口の急速な減少を指摘。暗号資産価格の下落にともなって取引高も減っており、市場としては今年の第1・第2四半期が底だったと述べた。
暗号資産市場への関心はまだかなり強いとしつつも、インドネシアと同様、マーケットがリテール(個人投資家)主導で、価格に非常に敏感と説明。そのうえで、フィリピンは、ローカルプロジェクトがたくさん生まれていることが特徴で、自分たちもそうしたプロジェクトを支持し、ともに発展していきたいと意気込みを語った。
インドは「規制がより明確になることが待たれる」状態
かつてJ.P.モルガンで、ブロックチェーンを使ったデジタル資産プラットフォーム「オニキス(Onyx)」に関わったほか、暗号資産プラットフォームのファルコンX(Falcon X)でトレーダーを務め、現在はインド最大の取引所の一つであり、大手VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)やセコイア・キャピタルから投資を受けているCoinSwitchでインベストメント・リードを務めるパース・チャトゥルヴェディ氏も登壇。
インド市場には他の新興経済国と同様、株式などの伝統的な資産より暗号資産のユーザーが多く、2500万人から1億人と見られているなど、インドはチャンスが非常に大きいとしつつも、現状を「規制がより明確になるのを待っている状態」と説明。規制が明確になり、価格が上昇すれば新しい参加者も参入するとの見込みから、市場は「爆発するだろう」と述べるなど、一気に拡大する可能性があることを示唆した。
また、インドには世界最大級のWeb3の開発拠点があり、数多くの興味深いプロジェクトが開発されていることにも触れ、CoinSwitchも企業VCも立ち上げて、初期段階の企業を支援しているなど「インドは非常にエキサイティングな市場になる」と語った。
インドネシアはステーブルコインに積極的な稀有な国
インドネシアで暗号資産取引所、証券、銀行を運営し、インドネシアのrobinhoodと言われるユニコーン企業Ajaibのアンダーソン・スマリ共同創設者兼CEOは、株取引サービスを提供、規制の厳しい銀行の株式を取得するなど、他の暗号資産ビジネス起業家とは異なるアプローチをとっていることに触れたうえで、インドネシアでは規制が明確になりつつあり、暗号資産市場には大きなチャンスがあると見ていると述べた。
スマリ氏は、インドネシアが世界にわずかしかない、ステーブルコインについて議会が正式に言及している国であり、暗号資産の規制フレームワークがあり、暗号資産を監督する新しい規制当局をつくって、当局が規制できるようにしていることなどを紹介。規制が明確なため、時間はかかるものの多くのイノベーションが生まれると考えており、「かなり強気だ」と話した。
各サービスの強み・注力しているサービスは何か?
司会の神本から、INDODAXがインドネシアで最大のサービスになりえた背景や要因について問われると、ダルマワン氏は2013年と早い段階で会社を設立したことをラッキーだったと述べ、常に2つのことに非常に多額の投資をしてきたと説明。1つは製品そのもの、もう1つはカスタマーサービスであり、常に顧客が必要としているものを尋ねるように努めていると強調、これらが同社を業界首位に導いた要因との分析を示した。
同様にCoins.phの強み、注力している分野について聞かれたゾウ氏は、同社のサービスとして、毎日の支払いに暗号資産を直接使えるウォレットをあげた。
フィリピンでは現在、支払いプラットフォームが国の統一規格「QRPH(国家QRコード)」に切り替わっており、Coins.phのアプリでも、スキャンして支払いを行うだけで、フィリピンのその他の電子ウォレット(GCashやMayaなど)と同様に便利に使え、持っている暗号資産を直接、支払いに使えるとして利便性が高いことを強調した。
ゾウ氏は同社がもう一つ注力していることとして、Web3サービスをあげた。フィリピンのWeb3ゲームコミュニティは世界最大級だとしたうえで、同社のアプリに追加した機能である「コインアーケード」を紹介。ユーザーがWeb3ゲームで獲得したトークンをWeb3ウォレットに保管できる機能だと述べた。
インドでのCoinSwitchの取り組みについてたずねられたチャトルヴェディ氏は、「(株式などの従来型の資産クラスから取り扱い始めた)Ajaibとは逆のアプローチ」として、暗号資産に初めて投資した人に、他の資産クラスにも投資してもらえるよう努めていると語った。
さらに、インドではほとんどの暗号資産ユーザーが二級・三級都市(注:Tier2、Tier3。人口規模でそれぞれ100万~400万、100万未満の中小都市。最も人口が多いTier1はデリーやムンバイなど8都市しかない)の出身で、難しいという理由で株式や債券に投資したことがないという実態に触れたうえで、アプリを使うと暗号資産投資は簡単に始められるが、長期的に富を生み出したいなら、他の資産クラスも持つ必要があると強調。暗号資産はあくまでポートフォリオの一部であるべきであり、ウェルステック・プラットフォームのようなものを目指していると説明した。
各地の規制の状況は?
さらにチャトルヴェディ氏はインドの規制について、「グレーゾーンのようなもの」と話し、長期キャピタルゲインのような利益には30%の税金がかかっているほか、取引ごとに源泉徴収される税金もあると紹介、世界的な観点から見て規制がより明確になることを期待していると話した。
一方、フィリピンの規制状況について問われたゾウ氏は、取引所の運営は、各国独自のルールに従うほかなく、厳格な国もあれば、そうでない国もあり、「ペトリ皿(シャーレ)のようなものだ」とたとえた。
規制は国や地域によって状況が異なるものの、エクスチェンジ、つまり資産や価値の交換こそが我々のビジネスであると述べ、やるべきことはプロダクトをつくり、ユーザーが使えるようにすることだと指摘、「市場に参入する最も簡単な方法は、対象国の取引所にトークンを上場させることだ」などと述べた。
規制についても、事業者が気にすべきことはその時々によって変わってきており、以前はAML(アンチマネーロンダリング)、KYC(顧客確認)だったが、今ではカストディ(顧客の資産管理)になっており、これからはフェアプラクティス、公正な慣行が重要になると指摘した。
「これらのことは伝統的な金融の世界では非常に簡単なことだが、暗号資産業界も成熟するにつれて、ますます正しくルールに従わなければならなくなる」と説いた。
NFTについての見通しは?
NFTの状況について問われたAjaibのスマリ氏は、インドネシアは一人当たりのNFT保有率が最も高い国の一つだが、現状かなり減速していると説明。暗号資産市場と同様に価格が下がると同時に興味も消えるものだと述べたが、ワクワクするようなユースケースは、暗号資産から生まれる可能性があると指摘し、「考えられるほぼすべてのユースケースにかかわることで、どこから来てもいいように備えておきたい」などと話した。
同じくNFTについて、フィリピンの状況をゾウ氏が説明。「2022年に発表されたデータによると、20〜30%の人々がNFTを保有している」と述べた。これは国民的人気を誇るNFTゲーム「アクシー・インフィニティ」の影響だという。
ゾウ氏は、フィリピンでもNFTやNFTゲームは一時期ほどは話題にならなくなったとしながらも、たった一つのゲームが、これほど多くの人をNFT保有に導き、暗号資産を保有させ、MetaMask(メタマスク)を使わせ、NFTを保有することの意味を理解させた意義は大きいと強調。
さらに今の状況を「PoC(概念実証)の段階」にたとえて、こうした時期は相場やトレンドは非常に大きく変化するものだとの見解を述べた。そして、次のサイクルでは重要な存在になりそうなゲームが10個程度はあり、すごいことになるはずだと語った。
CoinSwtichのチャトルヴェディ氏は、NFTゲームがマスアダプションのきっかけであることは証明済みだと述べ、「NFTは、単にゲームアセットやアートコレクションを表すだけでなく、金融の世界であらゆる資産のオーナーシップについて、ユースケースを生むかもしれない。再び関心が高まるかもしれない」との展望を示した。
今はビジネス構築の絶好機。業界の巨人がアジアから生まれる
アジア各国での暗号資産ビジネス参入に関心を持つ聴衆に向けて、最後のコメントを求められたダルマワン氏は、東南アジアでもどの国でも、暗号資産は規制産業であり、市場を理解する必要があるとして、規制体系と市場への理解を求めた。
ゾウ氏は、厳しかった過去2年間を振り返り、強気相場が戻ってくることを楽しみにしているとして、「トンネルの終わりに光が見え始めている」「大きなグローバルトレンドが起きようとしている」と語った。その要因として、ビットコインオーディナルズ(ビットコインNFT)を含む、巨大なエコシステムと時価総額を持つビットコイン全般の進化について触れ、次の強気市場の大きな推進力になる可能性があるとの見方を示した。
またこれまでに起きた危機から学ぶべきことは、暗号資産の保有者でも、投資家でも、使用しているアプリ、サイトの利用規約(Terms of Use)を確認すべきと説明。ビットコインを送金する前に利用規約をチェックして、正しい救済手段の有無を確認すべきだと注意を促した。
チャトルヴェディ氏はイベント会場の盛況ぶり、参加者たちの熱狂ぶりに触れ、昨今のベアマーケット(弱気相場)の中で、これだけの熱量を感じて興奮しているとの感想を述べ、ベアマーケットの今はビジネスを構築することに適した時期であり、「次のブルマーケットはアジアから生まれる。暗号資産ビジネスの大企業や世界的なジャイアンツがこの地域から出てくるだろう」と熱く語った。
スマリ氏は、短期的には困難な時期だろうが、長期的には楽観的としたうえで、自社のサービスや暗号資産サービスがあらゆる金融サービスと融合していくことで、これまで考えたこともなかった方法、ユースケースが生まれることを最も楽しみにしているなどと話した。
|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
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