2021年に暗号資産(仮想通貨)が最高値を更新していたとき、我々は友人たちから「すごい、<好きなトークンの名前を挿入>を見て!」というようなメールを頻繁に受け取った。だが、そのトークンを持っているかどうかを尋ねると「少ししか持っていないけど、もう手遅れ」とか「またチャンスを逃したよ」という答えが多かった。
なぜ「ブル(強気相場)」 は、突進して過ぎ去ってしまう前に捕まえることが難しいのだろうか?
「強気相場は悲観の中で生まれる」
有名な投資家ジョン・テンプルトン(John Templeton)氏は「強気相場は悲観の中で生まれ、懐疑の中で成長し、楽観の中で成熟し、陶酔の中で終わる」と言った。言い換えれば、強気相場はリスクが顕著でセンチメントが悪い、弱気相場での安値から始まる。
2023年はその好例だ。
暗号資産市場は、2022年に過去最悪級の市場環境を乗り切った後、弱々しく新年を迎えた。2022年、ビットコイン(BTC)は64%下落し、他の多くの暗号資産は80~90%下落。FTXやセルシウス(Celsius)などが破綻し、規制当局は業界の責任を追及する方針を明らかにした。
一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は史上最速のペースで利上げを行い、同時にバランスシートを縮小した。2023年に入ると、規制とマクロのリスクが大きく立ちはだかり、暗号資産市場のセンチメントを示す「Crypto Fear and Greed Index(暗号資産の恐怖と貪欲指数)」は「Extreme Fear(極度の恐怖)」を示した。
このように陰鬱な背景のなか、2023年1月は暗号資産史上最高の月のひとつとなった。ビットコインは40%、イーサリアム(ETH)は33%上昇し、トップ100の暗号資産のうち、7つは倍以上になった。
リスクは誇張されすぎていたのだろうか? そうは思えない。FRBは確かに2023年に4回の利上げを継続し、バランスシートを5000億ドル(約75兆円、1ドル150円換算)以上縮小した。6月には、米証券取引委員会(SEC)が2大暗号資産取引所のバイナンス(Binance)とコインベース(Coinbase)を適切な登録を怠ったとして提訴した。その後も多くの執行措置が続いた。
我々の見解では、2022年末に暗号資産が直面していたリスクはきわめて確かなものだったが、価格に十分過ぎるほど反映されてしまっていた。極端な悲観論が新たな強気相場の始まりのお膳立てをした。
「懐疑」の段階へ
現在、リスクは大きく変化している。FRBの利上げは始まりよりも終わりに近づいている。利下げはまだ9~12カ月先かもしれないが、市場はFRBの行動を何カ月も前から見込むことが多い。SECは暗号資産業界に対する訴追を続けているが、裁判所はリップル(Ripple)とグレイスケール(Grayscale)の件で、暗号資産業界に勝利を与えている。マクロリスクと規制リスクは依然として大きいが縮小傾向にある。
我々は、この強気相場が「懐疑」の段階に入ったと考えている。2023年の幸先の良いスタートにもかかわらず、「Crypto Fear and Greed Index」は10月4日時点で「中立」を示している。中央集権型暗号取引所のスポット取引は、8月に4750億ドルまで減少し、過去3年間で最低となった。ビットコインは年初から66%上昇しているが、史上最高値よりは60%下落した2万7525ドルで取引されている。
大手企業は暗号資産関連の取り組みを発表し続けている。グーグルはブロックチェーンとWeb3に積極的に投資している。ペイパル(PayPay)は最近、アメリカの大手金融機関として初めて独自ステーブルコインを発行すると発表した。そして、世界最大の資産運用会社であり、最も評価されるグローバルブランドのひとつであるブラックロック(BlackRock)はビットコインETFを申請した。
我々は、ブラックロックブランドのビットコインETFが、暗号資産の歴史の中で起こったどんなことよりも暗号資産のメインストリームでの普及を加速させると考えている。まだクリアしなければならない規制上のハードルはあるが、問題はクリアできるかどうかではなく、「いつ」クリアできるかだと考えている。
まだ懐疑的だろうか? テンプルトン氏は、もう強気と呼ぶかもしれない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Lieve Ransijn/ Unsplash
|原文:Crypto for Advisors: Waiting for the Next Crypto Bull Market? It’s Already Here.