マイケル・バー連邦準備制度理事会(FRB)金融監督担当副議長は9月上旬に「連邦政府の強力な監視がないステーブルコインについて深く懸念している」と述べた。これは、ペイパル(PayPal)やビザ(Visa)をはじめとする金融大手の間で、ステーブルコインの可能性がますます認識されつつあることに対する反応だ。
FRBは「暗号資産(仮想通貨)関連の活動の監視を強化する」意向だとバー氏は述べた。強い言葉だが、正式なフォワードガイダンスではない。アメリカでは現在、ステーブルコインに対する明確な規制が存在しない。業界の重要性と、その速い動きにも関わらず。
先を行く欧州
ヨーロッパの状況とは対照的だ。ヨーロッパでは、暗号資産関連法の包括的なパッケージであるMiCAを策定する際に、議員たちがステーブルコインを重大な焦点として取り上げた。
アメリカでは現在、米ドル連動型ステーブルコインに対する規制が明確になっていないため、米ドル連動型ステーブルコイン業界はアメリカから離れ、法的・規制的フレームワークが整っているヨーロッパに移動する可能性がある。
このシナリオが現実になれば、難解な規制が意図せずに1兆ドル規模の業界をアメリカ国外に押しやるパターンが繰り返されることになる。ステーブルコイン規制のために、実績のある技術中立的な枠組みを導入することを特徴としたヨーロッパの積極的なアプローチとは対照的に、アメリカはステーブルコインを広く受け入れるために必要なガイドラインを確立する競争で遅れを取っている。
この遅れは、イノベーションを促進するだけでなく、金融の安定性を高めることができる明確なルールを策定するうえで、議会や規制当局が主導権を握るチャンスを逸していることを意味する。
ステーブルコインは、銀行などの伝統的金融機関による仲介を必要としない、安全で効率的な取引とデジタル資産の保管を可能にする。規制ガイダンスの重要性はいくら強調してもしすぎることはない。規制は消費者保護の重要な防波堤となり、デジタル資産取引の信頼性と健全性を維持する。
アメリカの覇権を懸けて
ステーブルコインは、米ドルを扱う手段として世界的に利用されるツールに急速になりつつある。これは、ステーブルコインが米ドルの覇権を強化するツールにもなりつつあることを意味する。
シャルル・ドゴール元フランス大統領はかつて雄弁に、アメリカはその卓越した世界的地位のおかげで「法外な特権」を享受していると語った。
アメリカは国際債務を決済するためにドルを発行できる独自の力を持ち、米ドルは世界の基軸通貨として機能することで、アメリカにかつてない経済力と特権をもたらしている。
しかし、規制が明確でないため、米ドル需要が減少するリスクや、米ドル連動型ステーブルコインの市場がより有利な規制区域に移行する可能性などの課題が生じる。
1960年代に「ユーロダラー(ヨーロッパの銀行に預けられた米ドル預金)」市場が形成されたが、これは国際金融におけるオフショア保有米ドルをめぐる規制が明確でなかったためであり、歴史的に現状と類似している。現在、アメリカにおけるステーブルコインをめぐるガイダンスの欠如は、第2のユーロダラー市場の基盤を築きつつあるかもしれない。
議会と規制当局は、アメリカの規制条件に基づき、米ドル連動型ステーブルコインの優位性を主張することが急務だ。積極的な姿勢を取り、イノベーションを促進するだけでなく、金融システムの完全性を保護する包括的なガイドラインを提供する必要がある。
この責任を怠れば、世界経済におけるアメリカの地位を危うくするリスクがある。
アメリカとヨーロッパの利害は間違いなく大きく、両極端であることは明らかだ。ユーロダラー市場の復活の可能性は、ヨーロッパに数兆ドル規模のステーブルコインのチャンスが待ち構えていることを意味する。一方、アメリカは経済的優位性を維持するという課題に直面している。
後塵を拝することを避けるため、アメリカもヨーロッパも、この進化する情勢においてそれぞれの立場を確保するためにすぐに行動すべきだろう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Mathieu Stern/Unsplash(CoinDeskが加工)
|原文:U.S. Risks Unleashing Second ‘Eurodollar’ Market if It Dallies on Stablecoin Regulation