ポリゴンの共同創業者が新事業を設立
マネックスクリプトバンクは、独自の暗号資産(仮想通貨)格付け評価モデルを発表し、30種類の主要暗号資産に対して相対的なスコアを付与。この格付けをもとに、評価対象のスコアに変化を及ぼしうるイベントがあった際の分析や、各銘柄スコアの中期的な見通しについても発信している。
今回はイーサリアムのスケーラビリティソリューションとして利用が広がるポリゴン(MATIC)の直近の動向について取り上げる。MATICトークンは暗号資産の時価総額ランキングでもトップ20に位置し、国内においてもコインチェックやbitFlyer、bitbankなど複数の取引所に上場している。
ポリゴン開発の一線から退きコミットメントは一時的に減少か
2023年10月4日、ポリゴンの共同創業者であるJaynti Kanari氏がポリゴンでの日常的な業務から離脱し、新しい事業を始めることをX(旧Twitter)上で発表した。同氏が2017年にポリゴン(旧MATIC)を創設してから、この6年間で時価総額は約52億ドルにまで成長している(2023年10月11日現在)。
Kanari氏は「日常業務から退く」という表現を使っており、完全にポリゴンから離れるわけではなさそうだが、一時的にプロジェクトへのコミットメントが減少すると考えられる。LinkedInによれば、今年に入ってから新たに2社を起業しており、当面はそちらへ注力するのではないだろうか。ポリゴンでのフルタイム勤務は今年3月までとなっており、内部ではKanari氏の辞任について半年以上前からわかっていたと思われる。そのため今月の発表に向けてポリゴンは、ガバナンスモデルをコミュニティへ徐々に移行する方針を打ち出し、体制の強化・刷新を行なってきた。
それにしても共同創業者がプロジェクトの一線から退くとなるとコミュニティ全体の熱量が下がることが予想される。ポリゴンが他の機関との協力を進め、さらなる成長を目指す今、新しい開発者を積極的にリクルーティングするなど新陳代謝を進めていくことが求められている。
Polygon2.0という変革:技術もトークノミクスも世代交代へ
創業者が去ることがすでに決まっていた中で、ポリゴンは新たな手を立て続けに打っている。その中でも特筆すべきは新しい開発計画である「Polygon2.0」である。
その大きな特徴の一つは、Polygon PoSからzkEVM Validiumへ移行し、ゼロ知識証明を活用したL2ソリューションにアップデートすることである。これによりポリゴンの機能性とセキュリティが向上し、ユーザーはすべてのネットワークをあたかも単一のチェーンのみを使っているかのように利用できるという。
また、新しいプロトコルトークンとして「POL」を導入することも著しい変革となるだろう。POL保有者は誰でもバリデーターになることができるのだが、このアップデートによって一人が複数のチェーンを検証できる仕様になり、各チェーンごとに複数の役割とそれによる報酬をバリデーターに与えることができる。これにより、ポリゴンのコミュニティに対して多くの収益機会を与え、活発なエコシステムの発展に繋げようとする狙いである。
このような一連のPolygon2.0に伴う大幅なアップグレードは、ポリゴンがさらに高い技術を持った、コミュニティ中心のエコシステムになることを示唆している。
項目別分析
前回のMCBクリプト格付では、MATICトークンの総合スコアは6.35で13位となっている。共同創業者が離脱してなお、ポリゴンは新しい開発計画を進めることができるのだろうか。格付けの観点の中でも大きな変化が予想されるプロジェクト稼働度と流動性の観点から考察してみたい。
プロジェクト稼働度:共同創業者は離脱も、他機関との協力を進めプロジェクト全体では活性化
先述の通り、ポリゴンは共同創業者の離脱があったものの、大規模アップグレードを控えるなど今後のプロジェクトの将来性をユーザーに示す努力を続けており、内的な変革だけでなく、外的なコラボレーションもますます進めている。
例えば、韓国最大の金融グループであるミラエ・アセット・セキュリティーズがポリゴンとの提携を9月に発表したことが挙げられる。セキュリティ・トークンの分野での技術コンサルタントという形で関与するようだ。
他にも、シンガポール金融管理局との実験的取り組みの中で、ポリゴンネットワーク上で外国為替とソブリン債の取引を実行したことが報じられており、このようなパブリックセクターからの信頼を得ていることはポリゴン全体にとっても大きなプラス要因であるといえよう。
また、米ドル建てステーブルコインUSDCを発行するサークルは今年6月にブリッジ版のポリゴンUSDCの対応を開始し、10月にはコインベースが初めて対応取引所となってネイティブ版のポリゴンUSDCの取引が始まった。
さらに、4月にはGoogleクラウドとポリゴンが長期的戦略提携を公表するなど、GAFAMからのサポートも受けている。既存の影響力の大きい組織との協業で非連続的な成長とユーザー数の増加を目指すポリゴンの狙いが透けて見える。
ポリゴンは大きな戦力を失った一方、Polygon2.0という大変革を前に数多の組織との協力を実現し、プロジェクトとしての能力とコミットメントを強化している。
流動性:アップグレードの実施にもかかわらず、流動性は単調に低下
ポリゴンはさまざまな機関とのコラボレーションを発表し、大規模アップグレードに向けて、さらなる可能性をユーザーに見せ続けているが、MATICトークンの流動性は単調に減少している。年明けから暗号資産市場全体で価格が上昇しているにもかかわらず、MATICトークンの価格は2月以降下がり続けている。重要なアップデートに関する発表のタイミングで一時的に上昇することはあっても買いが継続していない。
また、出来高で見ても2023年2月にピークを付けてから低調が続いている。価格と同様にPolygon2.0関連の発表後、一時的な盛り上がりは見られるが、10月頭のJaynti Kanari氏がプロジェクト離脱を発表する時には最低レベルまで下げている。今後、アップデートが進む中で流動性が回復する可能性は十分にあるが、他のレイヤー2ソリューションによる追随もある中で、市場は不安が先行しているようだ。
参考)
総評:プロジェクトのロードマップの遂行度が鍵に
ポリゴンは大型アップデートだけでなく他の機関との協働を進め、イーサリアムのスケーリングソリューションとしての確固たるポジションを築こうとしている。今後、同時進行する複数のプロジェクトがそれぞれどの程度順調に進むかが最も重要なポイントとなるだろう。プロジェクトがうまく機能するならば、現在の価格は過小評価されている可能性が高い。
ポリゴンはPolygon CDKという開発キットもローンチし、技術インフラとしての立場も強めている。ポリゴンのフォークチェーンとして知られるシバリウムがリリース直後に障害を起こした際には問題解決をサポートし、先月には日本発のパブリックブロックチェーンであるアスター・ネットワークもポリゴンとの協業を発表した。
このように多角的にポリゴンのエコシステムを拡大しようという姿勢は期待が持てるため、アウトルックはポジティブとする。一方で、プロジェクト稼働度の高さとは対照的に落ち込む流動性については、投資適確度を下げるファクターになるだろう。これらを踏まえてポリゴンの動向を引き続き注視していきたい。
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Polygon 2.0の紹介ページ(キャプチャ)