自民党web3PTの事務局が新しい体制となった。事務局長を務めていた塩崎彰久議員をはじめ、多くのメンバーが大臣政務官に就任して政権に入ったためだ。新しい事務局長には、事務局次長を務めていた川崎ひでと議員が就任した。
新しい体制をどのように構築していくのか、どのようなメンバーになるのか。さらに新体制では何に注力していくのかなどを新事務局長に聞いた。
新体制の課題
──新たに事務局長に就任されたところで、直近の課題はどのようなものと考えているのか。
川崎:web3PTはこれまで、事務局長は塩崎彰久議員、事務局次長は私、神田潤一議員、小森卓郎議員、土田慎議員で構成されていたが、メンバーの多くが今回の内閣改造で大臣政務官に就任した。政務官は大臣、副大臣に次ぐ重要なポストで、非常にうれしいことだが、一方で、政策を立案する自民党の立場としては、優秀な人材が政権に入ってしまったので厳しい局面にあるといえる。
web3PTとしては、4月にホワイトペーパーを出して以降、まさにどういう形で実現に向けて進めていけるかを各省庁と一緒に考えているところ。特にこの年末には暗号資産(仮想通貨)にかかわる税制改正を進めなければならない。昨年、いわゆる「暗号資産の自社保有」については税制改正を行うことができたが、第三者保有の部分がまだ課題として残っている。ここをしっかり進めることが大きなミッションになる。
──第三者保有についての改正は実現可能性が高いと考えてよいのか。
川崎:まだ難しい部分も当然あるが、実現できるよう全面的に注力していかなければならないと考えている。ひとつ心強いことは、web3PTの事務局次長の一人だった神田議員が金融庁を担当する内閣府大臣政務官に就任したこと。神田議員と連携して進めていきたい。
web3PTは前任の事務局長の塩崎議員がさまざまにハンドリングしながら進めてきた。彼は議員の中でもさまざまなコネクションを持ち、弁護士なので、web3に詳しい弁護士チームとの懸け橋にもなった。さらに海外で活躍しているweb3事業者とのコネクションもあった。そういう意味ではまさに適任だったが、今回、厚生労働大臣政務官として、自身がテーマのひとつとして掲げていた医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことになった。
塩崎議員のあとを引き継ぐことはハードルが高いが、逆に大臣政務官から党に戻ってきたメンバーもいる。具体的には、神田氏の前任として内閣府大臣政務官を務め、金融庁を担当していた鈴木英敬議員、デジタル副大臣を務めていた大串正樹議員、デジタル大臣政務官を務めていた尾崎正直議員をweb3PTにリクルートして、事務局次長として参加していただくことになった。皆さん、ポテンシャルが非常に高く、政策をよく知っている方々であり、いろいろなコネクションを持ち、心強く感じている。
だが一方で、web3は本当にものすごいスピードで進んでおり、新しく参加する方々はすぐにキャッチアップして、政策づくりに当たらなければならない。理解度を上げることにあまり時間はかけられないので、業界の皆さんにも協力していただきたいと考えている。
DAO関連の法整備
──年末に向けては税制改革が大きなミッションになるが、来年、あるいは2、3年先を見据えたときに、テーマになることはなにか。
川崎:今、web3を活用した地方創生の事例が数多く生まれている。我々も東京一極集中を是正するという政策を推進しており、例えば、山古志村が手がけているような、NFTを活用してデジタル住民票を発行し、デジタル村民とともにDAO(分散型自立組織)を作り、新たな村づくりを進めていくような取り組みは、非常に良いモデルと考えている。
とはいえ、DAOについては、まだ法律が十分に整備されておらず、やりたくても踏み出せないという声も多い。そうした方々が不安なく、DAOを活用して地方創生を進められるように、DAOに関する法整備を進める必要があると考えている。
法整備には2つの方法があり、ひとつは現行の法律、DAOの場合は会社法になるが、会社法を改正したり、特例を設けることによってクリアできるかもしれない。あるいは、完全に新しい法律を作るやり方もある。ここは実際に事業を推進している多くの方々に話を聞いて、しっかり考えていかなければならない。
また各省庁に任せて、新たに法律を作るとなると時間がかなりかかるので、議員立法で進めていく可能性もある。さまざまな方法が考えられるが、まずは必要としている皆さんの多くの声を集めることが必要になる。
──地方創生を目的としたDAOに関する法整備は、地方から声が上がっているのか。
川崎:私のところにも声は上がっているし、座長である平将明議員のところにも届いている。DAOは、これまでのようにリーダーがいて、組織を引っ張る仕組みではなく、たくさんの人々が参加して組織を運営していく素晴らしい仕組みだが、現状の法律では法人格を持つことができず、集めた資金の管理をどのように行うかについて法的な枠組みがない。DAOを活用した地方創生を推進したくても、法人格がない、つまり法律上実態がない組織を地方自治体が支援することは難しい。
今日(10月23日)は、山古志村が大きな被害を受けた新潟中越地震からちょうど19年。震災で人口が減ってしまった村が「デジタル村民」を集め、大きく息を吹き返し、復興のシンボルになっている。web3を使って、今から何かを始めるのではなく、すでにデジタルの力を活用して地域課題の解決などに取り組む事例として総務省から表彰も受けている。そうした事例をもっとアピールして、広めていきたい。
DAOを使いやすくすることをはじめ、税制や暗号資産まわりのさまざまな法律を見直すことで、本当は日本で起業したかったが税制の問題でシンガポールで起業したような人たちに日本で起業したいと思ってもらいたい。さらには海外の人たちにも日本での起業を考えてもらえるようにしたい。
web3PTとの関わり
──そもそもweb3PTとの関わりはどのように始まったのか。
川崎:自民党デジタル社会推進本部にNFT政策検討PT(NFTPT)が設置され、NFTやブロックチェーンを成長戦略に位置づけるなかで、web3PTへと発展した。当時、NFTPTの立ち上げについて、推進本部の本部長である平井卓也議員と平議員が話をしていたときに、私はたまたま近くにいておふたりの話を聞いていた。そこからNFT、さらにはweb3について勉強し、平議員のところに行って、NFTPTへの参加を願い出た。
その際、日本銀行に入行して金融庁に出向し、その後、マネーフォワードで執行役員を務めた当選同期の神田議員と、大蔵省(現財務省)から金融庁という経歴の小森議員を誘った。どちらも、まさにこの分野にぴったりの人材だと考えた。
私自身は大学卒業後にNTTドコモに入社し、携帯電話の料金やクレジットカードに関わる事業を担当した。ちょうど「フィンテック」という言葉が登場して、携帯電話と金融が結びついていくタイミングで、金融と触れることになり、今につながっている。
──そう考えると初期のweb3PT事務局はすごいメンバーだった。
川崎:まさにそう。だからこそ、新しいメンバーとなり、まずは一気に知識レベルを上げていきたい。そのうえで、金融庁を担当する政務官の神田議員と連携しながら進められるという意味では、以前よりももっと面白いチームになると考えている。メンバーとしては申し分ない。
まもなく税制改正の要望の取りまとめが始まり、12月から本格的な議論になるので、税務調査会での議論に乗せてもらうための準備を急いで進めなければならない。税制改正は皆さんからの要望があることが大前提なので、そのためのヒアリングも進めている。
web3業界へのメッセージ
──新しい体制になったタイミングで、web3業界や民間事業者に対してメッセージをお願いしたい。
川崎:このような記事で、web3PTのメンバーが変わったことをまず皆さんにお知らせさせていただいた。皆さんも私をはじめ、web3PTのメンバーとの接点を積極的に持ってほしい。例えば、私のスケジュールが合わない場合は、鈴木議員にアポイントを取って話をするなど、皆さんにとって多くのコンタクトチャネルを作って欲しいと考えている。
多くのチャネルができることで、我々も多くの意見を聞かせていただければ、DAOに関する法整備などを積極的に進めることができる。そして我々web3PTの本気度が伝わることで、DAOを地方創生に活用してみようと考える自治体や組織が増えていくことは、我々にとってもうれしいこと。DAOに限らず、web3をツールとして使ってもらい、地方創生や人口減少といった社会課題を解決していきたい。
議員との接点というと、ハードルを感じられる人もいるだろうが、今は変革の時期と認識している。前回、2021年の選挙で議員はかなり世代交代が進み、若い議員が増えた。皆さんにとっても、以前よりも話をしやすい環境ができていると思っている。
──確かにweb3業界から見ても、デジタルに詳しい方が増えたことは心強い。
川崎:私が大学生の頃に、学生でも携帯電話を持てるようになった。携帯電話にカメラがつき、液晶がカラーになり、ワンセグでテレビまで見られるようになり、もう1台で何でもできる時代が来たと感じて、ドコモに入社した。
だが、1台で何でもできる時代になって、逆にメーカーごとの違いや特徴がなくなってしまった。一時は軽さばかりを競うこともあり、iPhoneという黒船が入ってきて、携帯電話は業界的には暗い時代に入ってしまった。
日本はポテンシャルは高いのだが、戦うフィールドを少し間違っただけで世界から取り残されてしまったという危機感を持っている。web3においても、日本は世界に誇るコンテンツを持っているのに、まだまだ活かしきれていない。むしろ海外の方がコンテンツ市場が盛り上がっている面もある。勝ち筋を見極めることが重要だ。
極端な例かもしれないが、例えば相撲。100年に1回あるかどうかの決まり手があるが、コンテンツとして活用できていないと思う。アメリカではNBAのスーパープレーが動画コンテンツとしてNFT化され、高値で取引されたりしている。相撲もそうした視点でNFT化すれば、価値が生まれる可能性がある。テレビで見る画像もいつも同じ画角で、土俵下など違う画角で見れば、アート的な価値が生まれるかもしれない。アイデアや切り口で可能性はもっと広がると思う。
そうしたことを誰かが実際にやってみようと考えたときに、アイデアを形にできるような環境やマーケットを整えていきたい。具体的には、現在のホワイトペーパーは、かなり大きな網でさまざまな課題を網羅していたが、広範囲ゆえに進捗が見えにくい面もあった。新体制では、ターゲットをある程度絞り込みたい。そのひとつがDAOで、事例も増えてきているので注力していきたい。
──法律が整備され、さらに2024年にはステーブルコインが登場するといわれ、税制改正も進むと一気に進展する可能性もある。
川崎:いろいろな人が使えるように規制緩和を進めていきたいが、注意しなければいけないのは、一方で世界では紛争が絶えず、暗号資産はテロ組織などの資金源とされる可能性がある。そうしたリスクには十分に対応していかなくてはならない。世界全体を見据えて、必要な対策を進めていくことは我々の忘れてはならない責任でもある。
前任の塩崎氏が進めてきた道を途切れさせることがないよう、しっかりと引き継ぎ、新たなメンバーで、税制改革やDAOに関する法整備などを進めていく。そのためにも皆さんからぜひ、多くの声を聞かせていただきたい。
|取材・文:増田隆幸
|撮影:小此木愛里