米証券取引委員会(SEC)は、ペイパル(PayPal)の新しいステーブルコイン「PYUSD」に関して文書の提出を要求している。決済大手のペイパルは四半期報告書で、この要請に応じていることを明らかにした。
これは、ゲーリー・ゲンスラー委員長率いるSECによる、暗号資産(仮想通貨)業界に対する一連の規制措置の最新事例だ。注目すべきは、SECが3月、パクソス(Paxos)が発行するバイナンス(Binance)ブランドのステーブルコイン「BUSD」に対して起こした訴訟。ペイパルのステーブルコインもパクソスが共同管理している。
物議を醸すPYUSD
市場関係者の多くは、今回の要請が必ずしも訴訟につながるとは考えていないが、ステーブルコインにおけるSECの「勝者選び」的な印象がある。暗号資産ネイティブが支配していたこの領域では、ペイパルは初めての大手フィンテック企業であり、その直後にビザ(VISA)が続いた。
ペイパルの参入は「暗号資産の冬」のなか、アメリカにとって有益だと多くの人が考えているステーブルコインへの強い支持を示すものだった。ステーブルコインは主に米ドル建てであり、間違いなく米ドルへのグローバルな需要とアクセスを増加させ、アメリカの通貨覇権の強化につながる可能性さえある。
しかし、PYUSDは物議を醸すものでもあった。2019年から2023年まで、下院金融サービス委員会を率いていたマキシン・ウォーターズ下院議員(民主党)は8月、ステーブルコインについて「深く懸念している」と述べた。ステーブルコインは議員や規制当局にとっては大きな論点であり、立法面で進展が見られる暗号資産の数少ない分野のひとつになっている。
ウォーターズ議員は「新しい形態の通貨の発行」には「連邦政府の安全対策」が必要だと述べている。
しかし、実際にはそうはならないかもしれない。SECがある資産が管轄下にあるかどうかを決定するために使用するガイドライン、いわゆる「ハウィーテスト」がSECが訴訟を起こすことを決めた場合、PYUSDが既存の証券法における「投資契約」にあたると主張するために使われる可能性が高い。
「問題なのは、(中略)すでにより厳しい規制がある場合だ」とかつてパクソスでポートフォリオ管理責任者を務めたジェシー・オースティン・キャンベル(Jesse Austin Campbell)氏は語った。
「ハウィー法では捉えられないものもある。銀行業務と保険だ。JPモルガンの当座預金口座は、たとえ利息が支払われたとしても有価証券ではない」
ペイパルはPYUSDをローンチする際、世界有数の金融規制当局であるニューヨーク金融サービス局(NYDFS)のルールに従っている。
ステーブルコインは証券か
そもそも米ドルなどの法定通貨に連動することを意図したステーブルコインが、証券に似ていると言えるのだろうか。私はキャンベル氏に、SECの主張を最大限に解釈するとどうなるか聞いてみた。
「SECはステーブルコインに対して、『我々はこれが、証券取引だと思う』と主張すると考えている。というのも、ハウィーテストを(具体的な4つの要件を持つテストではなく)首尾一貫した全体として見た場合、原則に基づくその趣旨は『共同事業』が金儲けのために存在するのであれば、それは証券取引に当たるということだから。そのレベルまで単純化して考える必要があるだろう」
「ペイパルとパクソスは、彼らが人々に販売するわけではないステーブルコインを発行するために共同の商業協定を結んでいる。つまり、利益をあげるための共同事業が存在しているため、証券となる」
キャンベル氏は、この解釈の唯一の問題は、既存の証券規則では、問題となっている「利益」は、「利益の期待」が主に「他人の努力」によってもたらされる「共同事業」から生まれる必要があることだと述べた。
こんなことを言うのは馬鹿げているように思えるが、ペイパルとパクソスの共同事業は、彼ら自身のためのものだ。
この問題に対する答えは、ペイパルに送金し、ステーブルコインを受け取る人々の存在をどう考えるかだ。人々から受け取った資金は、ペイパルとパクソスによって準備金として保管され、ペイパルとパクソスは再投資して利子を稼ぐことができる。テザー(Tether)とサークル(Circle)の2大ステーブルコイン発行企業を高収益企業にした仕組みだ。
線引き
さらに、ペイパルやパクソスが再投資のリターンの一部をステーブルコインのユーザーやマイナーに支払うかどうかも問題となり得る。私の知る限り、PYUSDにおいてこの点は議論されていないが、「共同事業の利益」という考えを複雑にすることになる。
SECは事実上、自分たちが「証券だ」と言いさえすれば、何でも証券だと言えてしまう。暗号資産を専門としたブライアン・フライ(Brian Frye)弁護士やルイス・コーエン(Lewis Cohen)弁護士なども同様の発言をしている。
ハウィーテストはかなり曖昧であり、高級美術品からコレクション可能なスニーカーに至るまで、利益につながる可能性のある購入はすべて、証券募集と見なされる可能性がある。問題はどこで線引きするかだ。
「仮にSECがすべては証券に当たるとするなら、法的には、何も証券には当たらないと主張することができる。なぜなら、SECの主張は、証券法の前提を根底から覆すものだからだ」とキャンベル氏は語った。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Rokas Tenys / Shutterstock.com
|原文:If PayPal’s Stablecoin Is a Security, Anything Could Be