シンガポールで開催された、Web3の第一線で活躍する人たちが一堂に集まるカンファレンス「Token2049」 から帰国し、私の認識は大きく変わった。本当に驚かされたのは、Web3におけるアジア太平洋(APAC)地域の深さとダイナミズムだった。
アメリカとヨーロッパがグローバルな暗号資産(仮想通貨)関連の話題を独占することが多いなか、私はAPACには目に映る以上のものがあると常に感じていた。それでも、実際にその複雑さを体験して圧倒された。
APACは「一枚岩」とは決して言えないが、万華鏡のようなユニークな文化圏となっており、それぞれが進化するWeb3のストーリーに明確な貢献を行っている。そして、貢献は多くの場合、欧米の視点に挑んだり、あるいは補完するものだ。
デジタル世界が広がり続けるなか、真のグローバルコラボレーションを進めるためには、APACの多様なカルチャーに対する理解を深めることが不可欠だ。
最近の暗号資産業界はイベント産業にもなっている。さまざまなイベントで私は、どこに行っても同じような顔ぶれに会うようになった。その人たちに対して悪気はないが、意味がわからなかった。新規ビジネスの獲得が見込めない場所に行くことに何の価値があるのだろうかと自問し始めた。
もし私たちが、さまざまなイベントで北米やヨーロッパの同じ知り合いと話すことに時間を費やし、彼らにばかり重きを置いているのだとしたら、実際に何かを成し遂げることができるだろうか?
安全地帯を飛び出す
世界中の新しい地域で開催されるイベントに参加することは、Web3で躍進する新しいフロンティアにアプローチする手っ取り早い方法であり、個人的に新しいことを成し遂げる方法でもある。
結局のところ、これこそが暗号資産に携わる私たちが行うべきことだ。安全地帯を飛び出し、暗号資産がどのように使われ、どのように活用され得るかを直接体験するべきなのだ。
シンガポールのイベントに参加するには確かにハードルがあった。私の同業者の多くは、参加を予定していなかった。アジア太平洋地域を相手にしないような姿勢は必ずしもではないが、ときに外国人嫌いな態度に映ることもあった。東洋で起きていることを、あたかも下に見ているところが私たちの業界にあるように感じられた。それは、Token2049に参加する前も、そして参加した後も私には理解できなかった。
典型的な西洋人として、アジア太平洋地域を構成する独特の文化を無視することは簡単だ。だがAPACの人たちと話をすることで、現地にいることがいかに重要か、実際の人々に会い、異なる視点から実際に学ぶ機会を得ることがいかに重要かを再認識した。
APAC各国の違い
それぞれの国を振り返ってみると、いくつかの違いが際立っていた。シンガポールと香港はグローバルビジネスのハブになることを目指しており、大きな資本を集めている。多くのベンチャーファンドが、頻繁かつ透明性の高い規制の更新に惹かれて、拠点を開設している。
日本は知的財産(IP)の所有権に関する微妙な問題に取り組んでいる。韓国では、Upbitのような中央集権型取引所がバイナンス(Binance)のような大手よりも好実績をあげていることが多い(韓国の暗号資産に対する熱意と賭博に対する規制が一因)。
ベトナムは資本力に欠けるものの、愛好家や開発者のコミュニティがある。一方、タイには著名な開発者や愛好家は存在しないが、コングロマリットがWeb3セクターに強い関心を寄せている。
これらはある意味で大雑把な一般論だが、私が感じたのは、これらの地域や国はそれぞれ、熱心な注目に値するということだ。それぞれの地域には、Web3に最初に飛び込むことを待ち望んでいる開発者、資本、そしてユーザーがいる。
シンガポールでは、今が弱気相場の真っ只中だとは思えなかった。誰もトークンの価格については話題にしておらず、その代わりに自分が取り組んでいる、あるいは投資している新しいプロジェクトについて興奮気味に話をしていた。このような精神が、次の強気相場へと私たちを導いてくれる。
グローバルなコラボレーションを目指して
シンガポールが何よりも私に教えてくれたことは、興奮があるところに行こうという直感に従い続けることだった。現実にWeb3は、北米やヨーロッパだけで開発されているわけではない。
Web3は世界的なムーブメントであり、実際に勝利を収めるためには、その全体に浸ることをいとわない心構えが必要だ。そのためには、APAC地域という多次元的で強力な地域を適切に受け入れる必要がある。
このテクノロジーを主流にすることに役立つものに取り組み、私たちが注目していない方法でイノベーションを実践している人々がいる。私の印象では、この分野は孤立や優越性ではなく、相互のつながりが重要になる。
Web3の未来は、世界そのものと同じくらい多様だ。この分野における真の進歩とは、慣れ親しんだ場所にとどまることでも、過去の栄光に安住することでもない。ギャップを埋め、ニュアンスを理解し、グローバルなコラボレーションを育むことだ。
シンガポールから戻った私は、思い出だけでなく、新たな決意を胸に刻んでいる。イノベーションを追求し、学び続け、Web3の本質、その普遍性を支持するという決意だ。
北米であれ、ヨーロッパであれ、APACのどの地域であれ、暗号資産の心臓は、その集団的な野心、共有された夢、そして無限の可能性の中で鼓動している。
だから、もしあなたが私を探しているのなら、私はあなたの近くのアジアのどこかにいるはずだ。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:There Is a World of Web3 Outside the U.S. and Europe