- 信用格付け会社S&Pが、新しいステーブルコイン・ランキングシステムを公開。時価総額900億ドル(約13兆円、1ドル142円換算)でトップのテザー(Tether)社のUSDTは低スコアとなっている。
- ランキングシステムは、ステーブルコインのコア機能である「法定通貨に連動した安定した価値を維持する能力を評価」するものだ。
時価総額900億ドル、世界最大のステーブルコインであるテザー社のUSDTについて、S&Pグローバル・レーティングス(S&P Global Ratings)は、そのコア機能である1ドルの価値を保つという点でライバルよりも劣っていると評価した。
S&Pは債券と信用格付けの長い歴史で有名だが、新しくステーブルコインを評価するシステムを導入。ステーブルコインは、暗号資産(仮想通貨)と従来の金融システムのブリッジとして、暗号資産エコシステムで重要な役割を果たす。
米ドルやユーロのような伝統的な通貨の代用として機能し、法定通貨と連動している(USDTは1ドルとペッグされている。1ユーロとペッグされているものなどもある)。投資家が暗号資産を現金化する際、法定通貨ではなくステーブルコインの形で受け取ることができ、ステーブルコインはデジタル決済の一形態としても使用される。
S&Pによると、同社の新しい「Stablecoin Stability Assessmentt(ステーブルコイン安定性評価)」は「法定通貨と連動した安定した価値を維持する能力を評価」することを目的としており、ステーブルコインを1〜5の5段階で評価する。スコアが1であれば、そのステーブルコインは「非常に強い」ことを意味し、5であれば「弱い」ことを意味する。
最も人気のテーブルコイン、USDTのスコアは4(「制約されている」という意味)だった。時価総額で2番目に大きいステーブルコイン、サークル(Circle)のUSDコイン(USDC、時価総額240億ドル)は、2(「強い」)を獲得した。これは評価対象となったステーブルコインの中で最高評価であり、ジェミナイドル(GUSD)とパックスドル(USDP)も同じ評価を受けた。
準備資産の質
S&Pはこのシステムを紹介する声明の中で、「ステーブルコインの裏付けとなる資産の質は、最終的な評価の重要な要素だ。規制と監督、ガバナンス、透明性、流動性と償還可能性、実績を含む他の分野での弱点が低評価の要因となった」と説明した。
伝統的金融(TradFi)大手によるこの評価が、投資判断の指針になるかどうかは未知数だ。規制の厳しいTradFi企業、つまりS&Pのような権威の意見に耳を傾けることに慣れている企業にとっては、USDCはUSDTよりも透明性の高い選択肢となる。USDCは準備資産の構成についてより多くの情報を提供し、準備資産に関する報告書をより頻繁に発表している。
一方、数多く存在するUSDTのユーザーは、USDTを裏付ける資産の質について何年も疑問視されているにもかかわらず、USDTを保有し続けることで、準備資産をめぐる透明性についてはあまり気にしていないという態度を依然として表明している。
900億ドルのUSDTが流通しているのであれば、テザー社には同価値の資産、できれば現金やそれに相当するような安全で安定した資産が蓄えられているはずだ。
テザー社は公式な監査を公表したことはないが、四半期ごとに保有資産に関する「保証報告書」を公表している。テザー社は、第3四半期末時点で860億ドルの資産(うち726億ドルは米国債で、世界で最も安全な投資と広く考えられている)で、830億ドル相当のUSDTを裏付けていると述べた。
テザー社とその姉妹会社ビットフィネックス(Bitfinex)が、ニューヨーク州と和解するために2021年に1850万ドルを支払うことに合意したことで懸念はさらに強まった。ニューヨーク州は申し立ての中で、「暗号資産は常に米ドルに完全に裏付けられているという主張は嘘だった」と主張していた。
規制の欠如
テザー社とUSDTについて、S&Pは次のように指摘した。
「香港で法人化され、英領バージン諸島に登録されたテザー・ホールディングス・リミテッド(Tether Holdings Ltd.)が完全に所有するテザー・リミテッド(Tether Ltd.)は、他の一部のステーブルコイン発行者とは異なり、権威ある機関の規制や監督を受けていない。
これは、ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)のような当局による規制監督の対象であり、NYDFSのステーブルコイン・ガイダンスが設定するルールに従うことが義務付けられている、いくつかのステーブルコイン発行者とは対照的だ。我々は、USDTの規制、監督の欠如を弱点と見ている」
S&Pが評価した8つのステーブルコインのうち、スコア1を獲得したものはなく、USDTのほか、ダイ(DAI)とFirst Digital USD(FDUSD)もスコア4となった。TrueUSD(TUSD)とFrax(FRAX)は最低評価5となった。
S&Pのシニア・アナリスト、ラポ・グアダニュオロ(Lapo Guadagnuolo)氏は声明の中で、「将来を展望すると、ステーブルコインは金融市場構造にさらに組み込まれ、デジタル資産と現実資産(RWA)の間の重要なブリッジとして機能するようになると我々は見ている。それでも、ステーブルコインは資産の質、ガバナンス、流動性といった要素と無縁ではないことを認識することが重要だ」と語った。
CoinGeckoによると、USDTはビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)に次いで3番目に時価総額の大きな暗号資産となっている。
銀行危機がアメリカを襲った3月、いくつかのステーブルコインが本来の価値を維持できずに下落した。
サークルのUSDCは87セントまで下落し、業界にとって痛ましい出来事となった。USDTもデペッグしたが、S&Pのレポートが示唆するような恐ろしさはなかった。1.06ドルほどまで高騰したのだ。
中央銀行の世界的組織である国際決済銀行(BIS)は先月、ほとんどのステーブルコインは安定した状態を維持できていないと述べた。交換手段として機能するためには、安定性が不可欠であるとBISは延べ、S&Pと同様に、「準備資産の利用可能性と質に関する透明性」に対する懸念をあげていた。
当記事執筆時点、テザー社はコメントの求めに応じていない。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:T. Schneider / Shutterstock.com
|原文:S&P Faults Biggest Stablecoin, Tether’s USDT, as It Debuts New Industry Ranking