政治メディアのポリティコ(Politico)は1月8日、今年の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利すれば、暗号資産(仮想通貨)に有利な方へと「潮目が変わる」可能性があるとする記事を掲載した。
バイデン政権からの大きな転換
「政権と規制当局が暗号資産を消費者と広範な金融システムに対するリスクと見なし、一貫して懐疑的なアプローチを取っているジョー・バイデン大統領からの大きな転換を意味する」とジャスパー・グッドマン(Jasper Goodman)記者は書いている。
下院多数党院内幹事のトム・エマー(Tom Emmer)氏や元通貨監督庁長官のブライアン・ブルックス(Brian Brooks)氏などの有力者の言葉を引用し、「反体制派」の大統領候補であるトランプ氏が勝利すれば、暗号資産に有利な政策を実施し、規制を撤廃する可能性が高いという主張を展開した。
トランプ氏はかつて、暗号資産は「何の根拠もない」と発言した(しかし現在は、NFTから数百万ドルを得て満足しているように見える)。だが、暗号資産との連携を明言せずとも、バイデン政権の敵対的なスタンスよりもマシだろう。
コインベース(Coinbase)やクラーケン(Kraken)のような定評ある企業に対しても米証券取引委員会(SEC)が訴訟を起こしていること、司法省がバイナンス(Binance)と歴史的な和解をしたこと、バイデン大統領が業界を取り締まるために政府全体でのアプローチをとっていることを考えれば、これは当然の指摘だ。
一方、より友好的な規制の可能性が、いずれにせよSEC委員長の任期が終わることになるゲーリー・ゲンスラー氏よりも、暗号資産業界にデメリットとなる可能性もある。
暗号資産関係者が規制を批判する一方で、明確化を求めるのは定石となりつつあるが、ボーダーレス、分散型、無国籍のプロトコルは、試行錯誤を経て初めて真のボーダーレス、分散型、無国籍になれると主張することもできる。
詐欺と不正の蔓延
そして実のところ、暗号資産は、悪意ある参加者や国家からの脅威に耐えることができる、本格的で広く利用可能なプロトコルを開発する最大のチャンスを台無しにしてしまったようだ。
それどころか、この4年間、世界中、特にアメリカで敵対的な当局からの圧力を受け、15年の歴史を持つこの業界は、ブロックチェーンを基盤としたテクノロジーがいかにレジリエンスがあり、オープンで実用的であるかを証明する機会を逃してしまった。
これは明らかに言い過ぎだが、大きく的外れということもない。
この業界は、例えば核兵器による悲劇に耐えられるような便利なツールを開発する代わりに、なぜこのテクノロジーが規制されなければならないかという理由を示す事例を次々と生み出してきた。
テラ(Terra)の崩壊や数十億ドル規模のFTX事件のような大きな技術的失敗は特別な例としても、暗号資産は小さな詐欺や悪用で溢れている。このような行為を野放しにすることが、暗号資産にとって良いことであるはずがない。
私は、不正行為のようなシステミックな問題に対して、規制による解決策があるとは思っていない。ブロックチェーンやインターネットのようなオープンでパーミッションレスなプロトコルは常に悪用され、誤用されるだろう。
しかし、詐欺師の急増と暗号資産業界の資本の間には明確な関係がある(例えば、前回の強気相場と弱気相場のデータを比較すれば良い)。
規制緩和のリスク
米政府が暗号資産に対する規制を緩和することを示すようなセンチメントの変化は、悪質な行為者に多くの力を与える可能性がある。また、企業がリスクの高い金融商品を再び個人消費者に販売することを暗に容認することにもなりかねない。
暗号資産レンディングは、大手暗号資産レンディング事業者がすべて破綻した後、本当にその欠陥を解消したのだろうか?
確かに、暗号資産を支持することがますます政治化されつつあるとしても、規制が党派的な問題である必要はない。
トランプ大統領の盟友である共和党のJ.D.バンス(J.D. Vance )上院議員はポリティコに対して、共和党は「非常に初期段階にある業界を破壊することなく、消費者保護」を優先しようとしていると語った。
そして、今年の大統領選がどうなるかはわからないが、バイデン政権がまた4年続き、ゲンスラー氏が長年切望していた財務長官に昇格する可能性もある。
政治化を超えた開発を
理想は、開発者たちが政治を完全に排除し、規制当局が手を出せないようなプロトコルを開発することだ。
しかし残念なことに、「Choke Point 2.0」と呼ばれた、暗号資産業界が銀行サービスを利用できないようにするバイデン政権と規制当局による取り締まりや、DAO(自律分散型組織)やDeFi(分散型金融)に対する規制強化を受けて、多くの開発者はより良いプロトコルを開発するために奮起する代わりに、単に屈従してしまった。
これらはすべて、オープンソース開発はその名が示すように共同作業であり、教訓を共有することで分野全体を進歩させることができるという考え方に基づいている。また、オープンプロトコルは十分なハッキングを経て、やがて「ハッキング不可能」になると考える人もいる。まるで、ゴミを圧縮し続けてダイヤモンドを作るようなものだ。
2025年にトランプ氏が再び大統領に就任した方が、暗号資産にとっては良いのだろうか? 2016年末にトランプ氏が大統領に当選した頃にも、さまざまな予測があったことは注目に値する。
CoinDeskは、トランプ氏への政権移行を「スマートコントラクトの試運転」と書き、一方で、ビッグテックに対するトランプ氏の否定的な見解を懸念する者もいた。
面白いことに、元ニューヨーク・タイムズのコラムニストであるファラッド・マンジュ(Farhad Manjoo)氏が、テックセクターがトランプ氏の勝利を嘆くことについて書いている一方で、ポリティコはテック業界の著名人ピーター・ティール(Peter Thiel)氏に思いがけず金銭的な恩恵がもたらされる可能性があるとして取り上げていた。ポリティコのトニー・ロム(Tony Romm)氏が最初に言及したことは? ティール氏のビットコイン投資だった。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ドナルド・トランプ元米大統領(Evan El-Amin / Shutterstock.com)
|原文:No, a Trump Victory Might Be Bad for Crypto