- 米証券取引委員会(SEC)が承認したばかりのビットコインETFは、暗号資産投資を一変させると大きた期待を集めている。
- 金ETFは20年前に金市場を一変させ、金価格の大暴騰を引き起こしたが、ビットコインETFにも同じことができると考える専門家もいる。
- スタンダード・チャータードは、ビットコイン価格は今年中に2倍の10万ドルになると見ている。
1月10日にSECの承認を得たばかりのビットコインETF(上場投資信託)は、暗号資産(仮想通貨)投資を、一般大衆に開放するとの期待に胸を躍らせる人たちによって大々的に宣伝されている。
しかし、金融の世界では、最新のものが不発に終わる危険性が常にある。例えば、ゲームストップ(GameStop)、AMC、ハーツ(Hertz)のようなミーム株は、パンデミック時に熱狂的なファンを獲得し、株価は一気に上昇した。しかし、それは一過性の流行に過ぎなかった。
金ETFという前例
しかし、ときには多くの人気を得ることもある。20年前、金(ゴールド)ETFが登場したときには、荒唐無稽なほど楽観的な予測が溢れた。
ETF分野で名の知れたジム・ウィアント(Jim Wiandt)氏は2004年11月、金ETFについて「爆発的に売れるだろう。投資家に新しい資産クラスを開くことになる」と語った。
彼は正しかった。世界最大の資本市場であるアメリカで取引される金ETFには、現在1000億ドル(約14兆5000億円、1ドル145円換算)以上の資金が投資されている。ETFのおかげで、金への投資は、金庫も武装した警備員も必要なく、普通の証券口座で購入ボタンをクリックするだけの簡単なものになった。
20年前に金ETFが登場した後、金は急騰した。グローバル規模の大手銀行であるスタンダード・チャータードは、これをビットコインETFにも関連性のある歴史と見なしている。
2004年にアメリカで金ETFがスタートした後の7年間で、金価格は4倍以上になった。「我々は、アメリカでの現物ETFの承認の結果として、ビットコインは同規模の価格上昇を享受すると見込んでいるが、ビットコインETF市場はより迅速に発展するという我々の見解から、価格上昇はより短期間(1~2年)で実現すると見ている」。同行は、ビットコイン価格は2024年末までに10万ドルまで上昇すると予測している。
People ask me: What happened when the first gold ETF launched in the US? pic.twitter.com/wJSchhWHvy
— Matt Hougan (@Matt_Hougan) 2023年10月23日
人々は私に尋ねる。アメリカで最初の金ETFが発売されたとき、何が起こったのか、と。
ビットコインETFに熱狂する暗号資産観測筋がいるのはこのためだ。資産運用大手のブラックロック(BlackRock)をはじめとする多くの企業が、アメリカでビットコインETFを提供する認可を取得したばかりだが、すでに投資エコシステムへの機関投資家や個人投資家の資金の流入が期待されている。
「最初の金ETFは、金を初めて投資ポートフォリオに含めることを可能にしたため、間違いなく業界を変えた」と、独立系ETF会社GraniteSharesの創設者兼CEO、ウィリアム・リンド(William Rhind)氏は語る。
しかし、ビットコインETFがその先例である金ETFに匹敵するものになるかどうかはわからないと続けた。
「究極的には、ビットコイン現物ETFに対する需要は、金ETFに対する需要よりも少ないだろう。なぜなら、ビットコインは常にデジタルであり、購入に金ほどの市場アクセスの問題を抱えてはいなかったからだ」
ビットコイン現物ETFは、すでに数年前から存在するビットコイン先物ETFとは対照的に、ビットコインそのものを所有する金融商品であり、一部のアナリストによれば、1000億ドル規模の商品に発展する可能性を秘めている。その結果、暗号資産業界に大きな変化をもたらす可能性があると期待されている。
投資家の選択肢を増やす
ビットコインETFがなければ、機関投資家は世界最大の暗号資産であるビットコインに投資するための選択肢がほとんどない。
大半はビットコインを直接保有するためのインフラを持たず、既存の取引所で取引する権限もないため、プロシェアーズ(ProShares)のBITOのような先物ETFか、グレイスケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)のようなクローズドエンド型ファンドを通じて投資することになる。しかし、これらの選択肢には高い手数料と複数のデメリットが伴う。
2003年に作られた最初の金ETFが数十億ドル相当の資金を金に集めたことと同様に、ビットコイン現物ETFにも同じことができる可能性がある。
証券会社のバーンスタイン(Bernstein)は調査報告書で、ビットコインの現物ETF市場は2~3年後にはビットコインの時価総額の10%に達する規模になると予想している(ビットコインの時価総額は約9000億ドル)。
MarketVector Indexのデジタル資産商品ストラテジストであるマーティン・ラインウェバー(Martin Leinweber)氏は、ビットコインの現在の取引所残高は約475億ドルに相当するが、ETFが承認されれば、現在すべての取引所が保有している金額の3倍以上の資金がビットコインに集まる可能性があると述べた。
最初の金ETFは金に対する需要を高めた。ビットコイン現物ETFも同じようになるかもしれない。2003年に最初の金ETFがローンチされて以来、金価格は約332ドルから1800ドルまで跳ね上がり、アメリカ市場では約35の金ETFが取引されている。金ETFの運用資産(AUM)は合計1050億ドルに上る。
ビットコインは2023年に155%急騰した。この上昇のほとんどは、ブラックロックが6月にビットコインETFを申請した後に起こった。ビットコインは6月15日の安値約2万5500ドルから、現在は約4万6000ドルまで上昇している。
リンド氏は、金ETFの主な市場は、ファイナンシャルアドバイザーやアセットマネージャーのようなプロ投資家であり、彼らはポートフォリオに初めて金を保有することができるようになったと説明した。
つまり、金ETFに対する需要はそれ以前から膨大に積み上がっており、それがかなりの短期間で指数関数的にAUMに反映された。
ラインウェバー氏は、伝統的な機関投資家が手掛けるビットコイン現物ETFが承認されたことは、暗号資産分野にとって重要な妥当性の承認となると述べた。
「アメリカは現在、ビットコイン現物ETFの面で他国に遅れをとっているため、この動きはウォール街を世界の暗号資産空間でより支配的なプレーヤーとして位置づける可能性がある」
現在、ビットコインETFはすでにカナダとヨーロッパに存在する。しかし、ユーロネクスト(Euronext)のデータによると、欧州のジャコビETF(Jacobi ETF)は8月にローンチして以来、取引高は低迷している。
ブラックロックのような金融機関は、顧客にポートフォリオの一部をビットコインETFに割り当てるようアドバイスする可能性がある。
「ファイナンシャルアドバイザーや機関投資家が、ビットコインETFを、現在の人気ETFと同様に、流動性があって便利だと判断すれば、1%程度、あるいはそれ以上を配分する可能性は十分にある」とラインウェバー氏は指摘する。
「伝統的な金融会社がETFを通じて暗号資産への少額の配分を推奨するシナリオを想像することは突飛な話ではない」とEthena Labsのリサーチ責任者であるコナー・ライダー(Conor Ryder)氏も同意する。
さらに「全体的なポートフォリオ配分の観点からは、非対称的なアップサイドを持つボラティリティの高い資産への小額配分は非常に理にかなっており、今なら自社のETFを勧めて手数料を手にすることができる」と続けた。
ビットコインのポジション強化
ビットコインETFは、暗号資産と伝統的金融(TradFi)という歴史的に別個の世界の融合を象徴している。AvantgardeのCEOモナ・エル・イサ(Mona El Isa)氏は、ビットコイン現物ETF承認がもたらす潜在的な影響の大きさを認識しており、「ビットコイン現物ETFが承認されたことは、暗号資産業界にとって非常に大きな意味を持つ。投資家が、信頼できる規制された商品を通じてビットコインへのエクスポージャーを求めるようになるため、潜在的には数十億ドル規模の巨額の資金を市場にもたらす可能性がある」と語った。
ビットコインETFは組成する際に原資産を直接保有することから、ビットコインそのものに対する大きな需要もあり得るとエル・イサ氏は言う。
「ブラックロックやフィデリティ(Fidelity)のような機関投資家を含め、より多くの投資家がビットコインをETFで保有しようとするため、結果的にビットコインの価値が上昇する可能性がある。その結果、連鎖的な効果をもたらし、世界の金融におけるビットコインのポジションをさらに強固なものにする可能性がある」
パワーバランスという点では、ビットコインETFの承認は「伝統的金融の中で暗号資産が認められつつある」ことを象徴するとエル・イサ氏は付け加える。
「暗号資産とウォール街の協力関係を強化することになり、最終的には私たちが知っている業界の力学を再構築することになるかもしれない」
ビットコインETFの登場前は、次善の選択肢はグレースケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)だった。GBTCの運用資産は約300億ドル。ETFよりも購入が難しく、魅力に欠ける仕組みであるにもかかわらず、GBTCの人気が高かったことは、ビットコインの現物ETFにかなりの意欲がある可能性を示している。
「ビットコインETFに需要があることは間違いないが、問題は最近の暗号資産業界での混乱の後に、投資家の投資意欲、あるいはビットコインへの熱意がどれほど見られるかだ」とリンド氏は指摘した。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Why Are Bitcoin ETFs Such a Big Deal? Gold Provides a $100 Billion Answer