今年、上場する可能性のある暗号資産企業

ステーブルコインのUSDコイン(USDC)を発行する米サークル(Circle)は、株式公開に再挑戦している。2021年に特別目的買収会社(SPAC)との合併による最初の上場計画が失敗に終わった同社にとって、2度目のチャレンジとなる。

IPO活発化の年となるか

暗号資産(仮想通貨)が堅調な経済環境のなかで回復基調となっており、2024年はブロックチェーン分野での投資資金調達や新規株式公開(IPO)が復活しそうだ。

15年前から存在しているにもかかわらず、暗号資産セクターの上場企業は驚くほど少ない。

ゴールドマン・サックスは12月、2024年後半にIPOが活発化すると予測した。特に米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き下げれば、取引コストが下がり、経済が活性化する。

米大統領選、議会の内紛、戦争、インフレなど、多くの潜在的なハードルもあるが、ゴールドマンが言うように「金融市場が好調なとき、株式公開は堅調になる傾向がある」。そして暗号資産市場が強くなりつつあることは、ますます明らかになっている。

さらに先日、ビットコインETF(上場投資信託)がローンチされたことで、暗号資産はより成熟した段階に移行しつつある。

多くの企業が多額の資金を調達しており、伝統的企業を支援するベンチャーキャピタル企業は、通常10年の時間軸で動くが、おそらくリターンを求めている。

さらに、暗号資産市場が短期的に上昇を続ければ、長引く経済の不透明感もあり、IPOの好機となるかもしれない。

2021年初頭に直接上場を果たしたコインベース(Coinbase)は、前回の強気相場で上場を果たした数少ない企業の1つで、その代表格といえるだろう。

注目の「ユニコーン」

暗号資産業界には「ユニコーン」と呼ばれる、評価額10億ドル(1450億円、1ドル145円換算)を超える未上場企業が10社以上あり、IPOの最有力候補となっている。

もちろん、経営をコントロールできるレベルがより高く、監視の目がそれほど厳しくない「非公開のままでいること」を好む企業もある。一般的に企業が外部資本を調達した場合、投資家にとって最も可能性の高いエグジットは、上場か倒産の2つに1つになる。

米CoinDeskはこれらの企業を分析し、今年上場計画を発表する可能性のある企業を選定した。完璧なリストではなく、あくまでも可能性を示したものだ。上場は、取引所、カストディ、ステーブルコインなど、暗号資産の回復の中で大きな成長の可能性を秘めている分野に集中しそうだ。

クラーケン(Kraken)のCEOデイブ・リプリー(Dave Ripley)氏は11月、同社は株式公開を積極的に検討していると述べた。

クラーケンはかつて、SECによる審査を開始し、最初のステップを踏んだが、1年後、SECはクラーケンを有効な候補企業とは認めなかった。しかし、それ以来、クラーケンは最高コンプライアンス責任者のC.J.リナルディ(C.J. Rinaldi)氏や最高財務責任者のキャリー・ドラン(Carrie Dolan)氏など、株式公開の経験豊富な人材で経営幹部を埋めているとThe Blockは報じている。

クラーケンの最新の企業評価額は110億ドル弱で、弁護士のマルコ・サントーリ(Marco Santori)氏が率いる業界屈指の強力な法務・コンプライアンス部門を擁している。

だだし、クラーケンにとって不利な要因は、上場を承認するSECが昨年起こした訴訟だ。

イスラエルを拠点とするeToroやCoinDeskの親会社であるBullishなど、他のいくつかの取引所や証券会社が上場を模索したが、SECによって阻止されたことは注目に値する。アメリカ市場以外にも話を広げるのであれば、EUのBitpandaとメキシコのBitsoにも注目すべきだろう。

他にIPOする可能性のある企業は?

暗号資産カストディ分野では、アンカレッジ(Anchorage)とビットゴー(BitGo)も上場を模索しているようだ。この分野のリーダーとされる両社は、他のセキュリティサービスや今注目を集めているRWA(現実資産)のトークン化など、カストディの枠を超えて事業を拡大している。

「アンカレッジ・デジタルは、安全なデジタル資産インフラで、世界中の機関投資家にサービスを提供している。当社の顧客には、資産運用会社、登録投資顧問会社、暗号資産プロトコル、ベンチャーキャピタル会社などが含まれる」と、同社の広報担当者はCoinDeskの取材に電子メールで答え、IPOについての回答を避けた。

ビットゴーは2013年に設立され、2023年のシリーズCの資金調達で17億5000万ドルと評価されたが、これはSPACとの合併が可能な、十分に抑えられた評価額だ。一方、連邦政府公認銀行でもあるアンカレッジの評価額は30億ドル。

第3位のステーブルコイン発行会社であるパクソス(Paxos)も上場候補だろう。パクソスは、自社ブランドのステーブルコインを発行しようとするサードパーティにとって、頼りになる企業だ。

同社は例えば、ペイパル(PayPal)が最近スタートさせた独自ステーブルコイン「PYUSD」や、今は発行されていないバイナンス(Binance)の「BUSD」の発行元だ。

他にも名前を挙げるべき企業や新興セクターが多数ある。LedgerやTrezorなどの老舗の大手ハードウェア企業、リップル(Ripple)やビットペイ(BitPay)などの決済テクノロジー企業、ビットワイズ(Bitwise)のような金融サービスプロバイダーなど、IPOを検討している可能性のある企業が複数存在する。

強力なコーポレートガバナンスの他に注目すべきは、市場への適合性と成長の可能性だ。

チェイナリシス(Chainalysis)は政府機関との契約を多数結んでおり、今年上場する可能性が高いかもしれない。また、暗号資産関連の既存の上場企業のうち、大半が暗号資産マイニングに携わっていることは注目に値する。ビットコイン(BTC)の価格変動にもかかわらず、キャッシュフローが最も予測しやすいセクターであることがその一因だ。

最後に、復活したFTXがIPOを試みる可能性もあるだろう。他に資金を調達する方法がないという理由だけであったとしても。

「正直なところ、サークルのIPOがどうなるかにかかっている。うまくいけば、おそらく検討する企業が他にも多数出てくるだろう」とデルフィ・デジタル(Delphi Digital)のCEO、アニル・ルラ(Anil Lulla)氏は語った。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:What Other Crypto Firms Could Go Public This Year