「トークン化」、特に「現実資産(RWA)のトークン化」は最近、暗号資産(仮想通貨)業界の次の目玉として注目されている。
ほとんどの人は、このトレンドがセキュリティ・トークンの別の形態に過ぎないことに気づいていない。セキュリティ・トークンは、2018年以降聞いたことがないかもしれないが、それにはそれなりの理由がある。
トークン化を大々的にアピールしている人々は、おおむね間違っている。しかし、彼らに悪気はない。何かが流行するのは誰のせいでもないが、「セキュリティトークン」「トークン化」、RWAはすべて同じ技術的連続体の一部であり、ガートナーの「ハイプ・サイクル」が正しいのであれば、またすぐに破綻するだろう。
「DeFiからの難民」
現在トークン化を推進している人たちの多くは、かつてハイプ・サイクルの覇者だった分散型金融(DeFi)からの難民だ。
伝統的金融(TradFi)の有力なインフルエンサーやCEOは、トークン化は金融の自然な進化だと考えているが(例えば、ブラックロックのCEOラリー・フィンク氏は、最近のビットコインETFのローンチは、すべてがオンチェーン化する「第一歩」だと述べている)、「あらゆる金融資産のトークン化」はもっと複雑で、賛成派も反対派も大きく誤解している。
RWAのトークン化は2017年後半に始まり、8年目を迎えようとしている。 私の会社Vertaloは、2018年3月に最初のReg D/S(米証券取引委員会による規則)に完全準拠した株式トークン化を開始した。
我々が遭遇した課題は、ここでは語り尽くせないほどたくさんあり、トークン化された株式の発行者としての最初の役割から、「デジタル資産のエコシステムをつなぎ、可能にする」ことを目的とした 「ピック&シャベル型(儲かるために必要な部分に投資する)」エンタープライズ・ソフトウェア企業へと軸足を移すことにつながった。
我々はそれ以来、NFTとDeFiの拡大とその後の大幅な縮小を目の当たりにしてきた。NFTとDeFiは、トークン化テクノロジーをより簡単に、よりエンドユーザーに親しみやすく応用したものだった。
NFTとDeFiの先例
NFTの場合、「オープンシー(OpenSea)」のような簡単にアクセスできるマーケットプレイスで、取引可能なトークンで表現されたコンピューター生成のアートを購入することができた。
NFTの進歩をガートナーのハイプ・サイクルに当てはめるなら、ピークを過ぎ、「幻滅の谷」を高速で落下している段階と言える。例えば、オープンシーの投資家であるCoatueは、オープンシーの低迷を考慮して、1億2000万ドル(約178億円、1ドル148円換算)の投資を1300万ドルに縮小させた。
同様に、かつて熱狂的だったDeFi市場も冷え込んでおり、多くのプロジェクトがリブランディングし、RWAに焦点を絞っているようだ。この中には、DeFiの大手であるメイカーダオ(MakerDAO)やアーベ(Aave)も含まれている。
RWAの信用を売り込むチームは現在、顧客やパートナーとして伝統的な大手金融機関を挙げている。多くのDeFi起業家は、ウォール街の銀行で働く前にスタンフォード大学やウォートン・ビジネススクールで学んだのだから、これは理にかなっている。
債券セールスマンや株式トレーダーをサポートするクオンツの仕事に飽き、分散化によってもたらされるボラティリティとワークライフバランスに魅了されたDeFiムーブメントは、グローバル金融の世界(とお金)には精通しているが、そのルール、規制、厳格さにはあまり興味がない。
トレンドの鋭い観察者である賢いDeFi起業家たちと、彼らが抱えるエンジニア兼数学者たちは、不吉な前兆を感じとり、2022年にガバナンストークンのエアドロップゲームから撤退し、「新しいもの」、すなわちトークン化を始めるためにマーケティングと戦略を再構築し始めた。
その結果として、RWAという呼称が大量に採用され、2020年から22年にかけてDeFiの世界では、特徴的な動きでありリスクであった、定型的なラグプルに見えるものから人々は速やかに逃げ出した。
「サプライヤーの拡散」
RWAプロジェクトの大半で一般的に管理されている資産や担保の大部分が、実際のハードアセットではなく、ステーブルコインという事実は問題ではないようだ。
トークン化は静かな動きではない。現在のRWA市場をハイプ・サイクルに当てはめると、おそらくピーク時の「サプライヤーの拡散(Supplier proliferation)」に当たる。誰もが今すぐRWAビジネスに参入したがっており、できるだけ早く参入したいと考えている。
RWAのトークン化は、実際に素晴らしいアイデアだ。今日、RWAの対象資産クラスであるほとんどのプライベート・アセットの所有権は、スプレッドシートや集中管理されたデータベース上で追跡されている。
資産の売却に制約がある場合(公開株式、無記名債券、暗号資産など)、売却を容易にするテクノロジーに投資する理由はほとんどない。プライベート・マーケットに見られる時代遅れのデータ管理インフラは惰性によるものだ。
そしてRWA支持者によれば、トークン化はこれを解決するという。
トークン化は実際に解決策となるのか?
この罪のない嘘に一部真実は含まれるが、絶対的な真実は、トークン化自体はプライベート・アセットに関して流動性や合法性の問題を解決しないばかりか、新たな課題をもたらすこともあるということだ。
RWAトークン化の推進者たちは、この問題を都合よく避ける。トークン化される現実資産と呼ばれるもののほとんどは、単純な負債や担保商品であり、規制対象となる証券と同じコンプライアンスや報告基準が適用されないため、そうするのは簡単だ。
現実には、ほとんどのRWAプロジェクトは「再担保化」と呼ばれる古いプロセスに関わることであり、担保はそれ自体が規制された暗号資産であり、商品はローンの一形態だ。ほとんどすべてのRWAプロジェクトが、マネーマーケット的な利回りを売り文句にしているのはそのためだ。ただ、担保の質は気にしていない。
融資は大きなビジネスであり、トークン化の将来や長期的な成功を切り捨てるつもりはない。しかし、現実資産をオンチェーンに持ち込むという表現は正確ではない。トークン化とは、単に暗号資産の担保化を、トークンで表すことだ。トークン化はパズルの重要な1ピースに過ぎない。
ラリー・フィンク氏やJPモルガン(JPMorgan)のジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)CEOが「あらゆる金融資産のトークン化」について語るとき、彼らは暗号資産担保RWAについて話しているのではなく、実際には不動産や未公開株式のトークン化、そして最終的には公開株式のトークン化について話している。これは単にスマートコントラクトで達成されるものではない。
実体験から
デジタル名義書換代理人とトークン化プラットフォームの開発に7年以上を費やし、100社近い企業の株式を表す約40億株をトークン化した経験から言わせてもらうと、大量の「金融資産のトークン化」の現実ははるかに複雑だ。
まず第一に、トークン化は比較的単純でマイナーなビジネスだ。トークン化はコモディティビジネスであり、何百もの企業が資産をトークン化できる。
トークン化それ自体はあまり収益性の高いビジネスではなく、ビジネスモデルとして、トークン化は手数料に関してはローコスト競争だ。多くの事業者が同じものを提供しているため、トークン化はあっという間にコモディティ化してしまうだろう。
第二に、しかしはるかに重要なこととして、RWAのトークン化と移転に関しては受託者責任がある。そこが難しい部分であり、台帳、つまりブロックチェーンが重要な役割を担う。
ブロックチェーンは、不変性、監査可能性、信頼性を提供することで、金融資産のトークン化に真のメリットを提供する。証明可能な所有権の基盤が構築され、すべての取引について瞬時にエラーのない記録が可能になる。これがなければ、トークンを使った金融革命は起こり得ない。
ブロックチェーンは、金融の専門家とその顧客がラリー・フィンク氏やジェイミー・ダイモン氏の言葉を支持することを可能にし、DeFiや暗号資産のような面倒で技術的な世界よりも、RWAのトークン化をより普及させるだろう。
だから、ハイプ・サイクルに乗り始める前に、過去に何があったのか、そして次に何が起こるべきなのかを見極めてほしい。サイクルの間違った部分に乗ってしまわないように。さもなければ、NFTの二の舞になってしまう。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Real World Asset Tokenization Is Fake News