公共財の資金調達と収益性は必ずしも相反するものではない。これは、イーサリアムベースの分散型クラウドファンディングプロジェクト、ギットコイン(Gitcoin)がその運営構造を見直し、注力ポイントの大幅な変更を発表するなかで実践に活かしている教訓だ。
抜本的改革
コミュニティ主導のこのプロジェクトは、レイヤー2であるPublic Goods Networkの廃止を選択し、助成金を通じた技術開発の支援に軸足を移している。
「Gitcoinにまつわるストーリーでは、公共財を支援し、インパクトのあるプロジェクトに資金を提供することに主眼が置かれてきた」とエグゼクティブディレクターのカイル・ワイス(Kyle Weiss)氏はCoinDeskに語った。
「公共財に資金を提供するという我々の使命は、今でもこのDAO(分散型自律組織)の魂のように感じられる」と彼は語ったが、その方法と戦略は大幅に練り直されている。一言で言えば、Gitcoinはより資本主義的になっている。
いくつかのチームを新しいビジネスユニットの下に統合し、改革されたGrants Labsのリーダーに昇格したメグ・リスター(Meg Lister)氏により多くの決定権を与えることに加え、Gitcoinは営利目的のプロジェクトに投資したり、さまざまなDeFi利回り戦略に自らの資本を配分したりするなど、収益獲得の機会をもはや敬遠しないようになっている。「公共財に資金を提供するためには資本が必要だ」とワイス氏は言う。
「持続可能性のためだけであったとしても、収益性を組み込むことは重要だと思う」とGitcoinのインパクト部門責任者だったアジーム・カーン(Azeem Khan)氏は語った。
「それは私が本当に推し進めたことの1つで、Gitcoinで最も資本主義的な人間だと冗談を言っていた。良いことが継続できるような持続可能性を生み出す方法を見つけることは、非常に重要なことだと考えている」
運営を刷新する動機のひとつは、完全にリモートで地理的に分散した従業員が管理しづらくなっていることに気づいたことだった。
焦点を定める
しかし、Gitcoin自体も焦点が定まらなくなってきており、今にして思えば、コアミッションにプラスにならないような多くの分野に足を踏み入れていた。
付随的なものであったり、取引手数料の一部を資金調達に充てるよう設計されたもののその費用を正当化するのに必要なレベルの普及を達成できなかったレイヤー2のように「プロダクト・マーケット・フィット」を達成できなかったからだ。
同様に、DAOの意思決定プロセスや業務プロセスは非生産的だったとワイス氏は言う(カーン氏は、Gitcoinをスタートアップと表現している)。
そのバランスをとるため、コミュニティ主導の意思決定という理想にやや反するが、リスター氏にはある程度の決定権が与えられている。
「我々の意思決定の大部分は依然としてトークン保有者を通して行われる」とワイス氏は付け加えたが、効率性と一貫性に新たな重点が置かれている。
「技術チームが価値を提供し、実行し続けられるようにしたい」とワイス氏は言う。
「ソフトウェアを開発するには、ハイコンテクストのチームが必要。そこを中心として結集する組織が必要だ」
リスター氏はマネージャーとして、Web3の助成金プログラムにもっと直接的に注力するつもりだと語った。トークンプロジェクトによって設立され、オプティミズム(Optimism)、ポリゴン(Polygon)、Baseのような新興チェーン上で開発をしたいと考えるスタートアップに資金を分配する大規模なエコシステムファンドだ。
「これらの助成金プログラムはここ数年で大きく成長し、イーサリアム・エコシステムの発展において重要な役割を果たしている…(しかし)ベストプラクティスを見極め、インパクトを評価するにおいてはまだ初期段階だ」とリスター氏は語った。
言い換えれば、Gitcoinは他のファンドがより良い資本配分を行えるよう、助成金授与の専門知識を活用しようとしている。
「助成金プログラムを運営するのは、チームにとって本当に大変なこともある。学習曲線はかなり急だ」とワイス氏は語る。
しかし、Gitcoinはまだ「信頼できる中立性」を維持することを目指しており、特定のチェーンを他のチェーンより優遇することはないと彼は付け加えた。
「Gitcoinは助成金を得る場所から進化しており、その代わりにこのエコシステムで配布されるすべての助成金の基盤となるインフラとなっている」とカーン氏は語った。
模索中
最終的に、Gitcoinが掲げている「大きく、困難で、大胆な目標」は、10億ドル(約1480億円、1ドル148円換算)以上の資金を分配することだ。
ワイス氏によると、このための確実なスケジュールはまだ決まっておらず、チームはまだ「何が可能か」を見極めている段階だという。
現在までにGitcoin Grantsは5600万ドル強を寄付している。Gitcoinのゴールは単にお金を使うためにお金を使うことではなく、暗号資産の世界で有意義な変化をもたらすプロジェクトに資金を向けることに今も集中している。
しかし、暗号資産のプロダクト・マーケット・フィットを測るのは難しいことだ。皮肉なことにGitcoinはある程度、明確な目的とブランド認知があると言える数少ないプロジェクトのひとつだ。
ヴィタリック・ブテリン氏と2人のハーバード大学教授が提唱した斬新な経済コンセプトに基づき、クアドラティックファンディングのメカニズムを構築した最初の取り組みであるだけでなく、暗号資産による寄付をメインストリームにした最初のプロジェクトでもあり、(良くも悪くも)アメリカがん協会からシェルまで、あらゆる企業と関係を結んだ。
こうしたことが、Gitcoinの改革のニュースをより興味深いものにしている。ダブリン・カレッジ・スクール・オブ・ビジネスのポール・ディラン-エニス(Paul Dylan-Enni)教授は、「統制を引き締め、重要なポジションに経験豊富な人材を配置する」というGitcoinの「企業化」の試みを歓迎した。
「DAOの運営は厄介で、我々全員がまだ、答えを出そうとしている」とワイス氏。
「Gitcoinが他のほとんどの会社よりも長くこれを続けていることはとても幸運なことだと思う。だが、だからといって我々が答えを見つけたわけでも、正しいことをやっているわけでもない。この次の形態が、我々が直面していた課題のいくつかを解決してくれることを願っている。確かに前進しているように感じられる」
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ギットコインの共同創設者ケビン・オウォキ(Kevin Owocki)氏
|原文:Why Crypto’s Most Altruistic Project Is Going (Kinda) Corporate