遅れに遅れて、ビットコインETFは華々しくデビューした。ブラックロック(BlackRock)のIBITは現在、年初からの資金流入額で全ETF中で第5位となり、ライバルも負けず劣らず健闘している。
この成長がスタンダード・チャータード銀行やフィデリティ(Fidelity)などによる、年末の驚異的なETF評価額という強気予測に見合うものかどうかはまだわからない。だが、ビットコインETFが一過性の流行で終わらないことは明らかだ。
問題はウォール街、つまり伝統的金融機関がビットコイン(BTC)へのエクスポージャーを得るためのこの新しいプロダクトにどのようにアプローチするのか、そして一般投資家は参加を望むのかだ。
リスクを抑えるハイブリッドファンド
「私たちは、ビットコインは今後10年でウォール街で最も話題になるブランドのひとつになり得ると考えている」とインデックスファンドを手がけるONEFUNDの創業者兼CEO、マイク・ウィリス(Mike Willis)氏は語り、「ウォール街における『ビットコイン時代』が始まっている」と指摘した。
価格予測は控えたが、ウィリス氏はビットコインが金の時価総額に追いつくのは簡単だと考えている。
複数のビットコインETFプロダクトを立ち上げようとしているONEFUNDの戦略を考えると、興味深い予測だ。同社はS&P500に連動する1億600万ドル(約160億円、1ドル150円換算)規模のINDEX ETFで知られ、リスクを嫌う個人投資家にアピールするためにビットコインと伝統的な株式の両方を保有する「Cyber Hornet」ファンドをいくつか立ち上げる予定だ。
ほとんどのウェルスマネージャーは、顧客に暗号資産(仮想通貨)に1〜3%程度を投資するようアドバイスすることもないとウィリス氏は述べた。そうした控えめなアドバイスでさえ、ファイナンシャルアドバイザーを法的リスクにさらす可能性があるからだ。
「筋金入りのビットコイナーは慣れているかもしれないが、ウォール街や伝統的な投資家の90%は、ひと月に40%も価格が下落することに慣れていない」
「40%下落すれば、顧客から電話がひっきりなしにかかって来て、50%下落すれば顧客はいなくなってしまうだろう。60%、70%下げれば受託者責任、つまり訴訟に発展する可能性がある。アドバイザーはそのことを認識している」とUBS、ペイン・ウェバー(Paine Webber)、スミス・バーニー(Smith Barney)を経て、2015年にONEFUNDを共同設立したウィリス氏は語った。
「ZZZ」というティッカーで米証券取引委員会(SEC)から承認を得た、ローンチが間近な同社のETFは、資本の75%をS&Pに、25%をビットコイン先物に配分する。ウィリス氏はビットコイン現物を保有する選択肢もある述べた。
これは、「ウォール街で最も広く保有されているインデックス戦略」に投資することで、ビットコインの潜在的なダウンサイドリスクと顕著なボラティリティを軽減することを目的としている。
ウィリス氏は、おそらく米国債や他のリスクの低い資産クラスを使って、ビットコインのダウンサイドボラティリティを抑える戦略を持つ「ハイブリッドファンド」が数多く登場すると予測している。
差別化
同じ日に11本のビットコインETFが承認され、競争が激化していることを考えると、ファンドが差別化を図る方法にもなるだろう。
多くの人と同様にウィリス氏も、ビットコインETFでは、運用手数料の「底辺への競争」が起きていると考えている。それが、競合を打ち負かすことができる数少ない方法のひとつだからだ。
最初の6カ月間、あるいは一定の運用資産額に達するまで手数料をゼロにしているビットワイズ(Bitwise)のようにキャンペーンを行う会社もある。しかし、このようなマーケティング手法は限られた期間しか機能しない。
企業が競争するためのもうひとつの方法は、ビットコインをどのように扱うかだ。つまり、利回りを上げるために活用するか、コールドストレージに保管しておくかだ。
ウィリス氏によると、一部のファンドはリターンを得るためにビットコインを再担保(または貸し出し)するかもしれず、その場合「数百ベーシスポイント」を得ることができるという。
ONEFUNDは手数料で競争するつもりはなく、目論見書ではビットコインをコールドストレージから移動させないことを保証することで、より高い手数料を請求できると考えている。同社はカストディサービスについてケイトリン・ロング(Caitlin Long)氏のカストディア銀行(Custodia Bank)と協議中だ。しかし、競争から逃れて多様化する方法は他にもある。
例えば、高い手数料を堅持しているのはグレイスケール(Grayscale)で、人気のGBTCに1.5%の手数料を課している。
GBTCは、2013年にクローズエンド型信託として運用を開始し、ビットコインに参入した最初の伝統的なファンドとして、ブランドを築いてきた。
同ファンドは今年、ETFに移行して以来、顕著な資金流出が続いているが、ウィリス氏は思ったほどには損失を出していないことに驚いていると述べた。
「忠誠心であり、惰性でもある。そしてもう一方で、ビットコイナーがブラックロックやフィデリティに行きたがらないという面もある。コミュニティ内に留まっていたいのだ」
ブランディング
ONEFUNDは、一種の非機関投資家的な機関投資家であり、こうしたビットコインのコミュニティ意識を利用したいと考えている。それが、Cyber Hornetという名称を選んだ理由のひとつだ。Cyber Hornetとは、マイクロストラテジーのマイケル・セイラー(Michael Saylor)氏にゆかりの深い言葉だ(同氏はこのプロダクトとは無関係)。
インデックスファンドの投資家に委任状による投票を許可したことで話題となった同社は、ビットコインとS&P500の間で異なる配分を持つ各種ETF向けに、魅力的な複数のティッカーも確保している。
ウィリス氏は、彼の会社のビットコインETF向けのティッカー「ZZZ」に触れ、ナスダックの「QQQ」のような3文字のティッカーは貴重なアセットだと説明した。
実際、ヴァルキリー(Valkyrie)のBRRR(パンデミック時代のFRBによる金融緩和政策を揶揄した「money printer go BRRR」というミームに由来する)やヴァンエック(VanEck)のHODL(ビットコインの長期保有を意味する用語)など、最近発売されたETFの多くがミームに由来する名前を冠している。
「ブランディングは『正しいやり方』で行うこと、つまりコミュニティを代表する非機関投資家的な選択肢を象徴するものになると考えている」とウィリス氏は言う。
「我々はブラックロックに所有されているわけでも、大手金融機関に所有されているわけでもない」
とはいえ、ある意味では、ウィリス氏の戦略はウォール街の参入を中心に展開されている。人々にビットコインを使ってもらう、最もオーソドックスな方法ではないかもしれないが、ETFを通じてビットコインエコノミーに多くの人々を参加させる最も簡単で安全な方法であり、おそらく「1000万人のビットコイナー」を生み出すというビットコイン金融サービス企業Swan.comのCEO、コーリー・クリップステン(Cory Klippsten)氏の夢を叶えることができるだろうとウィリス氏は語った。
昨年、ブラックロックがビットコインETFを立ち上げる計画を発表し、ある意味、他のウォール街の企業にもビットコインETFに参加する機会を与えたことで、大きなうねりの最初の一歩が始まった。
ETFにより、今後10年間で多くの資本がビットコインに流れ込むだろう。モデルポートフォリオ、退職金口座、年金プランから始まり、最終的には「メインストリーム資産クラス」になるとウィリス氏は言う。
「ビットコインは誕生から15年間も健在だったが、ウォール街には存在しなかった。すべてを変える」とウィリス氏は自信を見せる。
|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Welcome to the ‘Bitcoin Era’ on Wall Street